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新型ワクチン集団接種出務記
2009年12月23日(水)
以下、本日MRICに投稿した文章です。
今回、一医師会員として新型インフルエンザワクチンの集団接種に出務しました。そこで感じたことを述べます。
【当日の様子】
12月23日の天皇誕生日、私は尼崎市医師会による小学校3年生以下を対象とした新型インフルエンザワクチンの集団接種の初日に出務しました。患者数はすでにピークを過ぎて明らかに時期を逸しています。しかし国が決めた順番ですから仕方ありません。
当日は午前の部、午後の部、夜の部の3部制で、医師会と保健所の2会場で集団接種が実施されました。私は保健所での午後の部(1時?4時)担当で当院の看護師同伴で出務しました。12月はじめに市報で募集したところ、たった2日間で3600人の募集枠が満杯になったそうです。私自身、MRICで「小学生には集団接種で対応を!」と主張し、11月に開催された「現場からの医療改革推進会議」でもそう発言しました。実際その通りの施策になり、その成否に責任を感じながら出務しました。医師会が主体となり集団接種することは尼崎市医師会始まって以来、はじめての出来事だそうです。
3時間を1単位としてその間に約300人の子供達に安全に接種をすると仮定すれば、まず約20名以上のスタッフが必要です。接種医が2名、診察医が3名、問診の看護師が数名、診察介助や接種介助に看護師・保健師が6名、事務職員が数名、監督医が1名・・・。すなわち接種者に対して約1割ものスタッフが必要です。これだけのスタッフと万一のアナフィラキシーショックに備えて応急処置用の医療器具やAEDなどの医療器材も必須です。また、待合い場所、問診場所、診察場所、接種場所、経過観察場所など全部合計すると相当広いスペースが必要です。ワクチンさえあれば予防接種など簡単でしょう、という考えは誤りです。専門職を含む十分なスタッフ、医療器材、スペースの3拍子が揃って初めて集団接種が可能であることを再認識いたしました。医療には目に見えないコストがかかります。
【接種不可とした事例】
私自身、約100人の子供たちを予防接種可能かどうか診察しましたが、うち4人に接種不可の判定をしました。4人のプロフィールは
1) 中等度の卵アレルギーの子供さん。軽度なら接種しますが、中等度以上は接種できません。母親はかかりつけの小児科医からは接種可能と言われていると主張されましたので、そちらでの接種して頂くことしました。
2) 昨日まで高熱があった子供さん。一昨日は39.6度、昨日は40度。医者には行かず本日は平熱でそこそこ元気そうです。こういうケースが一番困ります。もしかしたら新型インフルエンザかもしれません。とりあえず今日の接種は中止しました。
3) 風邪が治り切っておらず肺雑音がある患者さん、2人。
以上の4人は接種中止としました。
その他、2週間前に「A型インフルエンザに罹患したが季節性だった可能性があるので受験も控えており念のため接種しておきたい」という子供さんが2人いました。親と話し合いの結果、1人は接種しないことに、1人は接種することに決定しました。これも以前、MRICで指摘したとうりの出来事でした。
ワクチン接種に関わる有害事象を防ぐには、このような問診と診察が必須です。
【集団接種に見るICと医療の不確実性】
たとえ予防接種といえども医師は絶えず不測の事態、ハッキリ言うなら「万が一のアナフィラキシーショックで命を落とすことがあるかもしれない」と、頭の片隅で考えながら接種をします。これは小松秀樹先生の言われる「医療の不確実性」の分かりやすい実例だと思います。ひとりひとり丁寧にインフォームドコンセント(IC)を取りながら接種をする必要があります。集団接種のほうが優れていると私は感じましたが、横におられたベテラン小児科医は、意外にも「安全性から言えば個別接種のほうが安全ですよ」と話されました。
こうした集団接種の収支を考えると、損益分岐点はおそらく千人単位となるのでしょうか。百人単位だと赤字事業になるかもしれません。事務スタッフたちは昨日から医師会事務局で入念な打ち合わせをしていました。また受付電話対応と受診券の発行、キャンセル電話への対応、不測の事態への備えなど、集団接種とはまさに一大イベントでした。
このような複雑な作業を、私も含めて一般の医療機関では、個別接種として、通常診療、インフルエンザ診療と並行して行っているのですから、まさに曲芸のようなことを毎日繰り返しているのだと、あらためて感じました。
良かった点は、発熱外来と違って防護具等が不要である、子供たちから元気をもらえる、ことでした。このような集団接種は次回は12月27日(日)に行われます。親の同伴が普通ですが、共働きの家庭では祖父母の同伴も結構みられました。出務スタッフも全員が兼任のようで集団接種は日曜・祝日しか難しいように思いました。
今回の集団接種は、尼崎市医師会により行われましたが、すでに全国の多くの市町村医師会でも同様に行われているようです。「医師会とは公益事業を行う団体である」に相応しい活動です。今後、集団接種の機会がまたあると予想します。休日を丸丸返上して対応されている市町村医師会理事等のご苦労は相当なものであると感じました。
【最後に、率直な感想】
自分のクリニックでも日々、優先患者さんに個別接種を行っています。
「それって輸入物ですか?」と何回聞かれたことでしょう?一昔前のBSE問題の時の牛肉と同じ扱いです。あと、結構こたえたのが「打ちたいけど3600円も持っていません。ワクチンはしっかりお金をためてからにします」という患者さんの言葉です。医療費が無料の生活保護の方はワクチンも無料で打てますが、ワーキングプアで頑張っている人たちには3600円は高すぎて打てないのです。
最後に一開業医の視点から新型ワクチン接種に関する率直な感想を3点述べます。
1) 老人からではなく小児から打つべきではなかったのか。順番が逆では?また、もう少し早くに集団接種を主体とすべきではなかったのか。
2) 優先患者など設けずに希望者から打って問題なかったのでは。希望者がいてそこにワクチンがあっても打てない、打ってはいけないというこの矛盾は今も続く。自分の孫に打ったという宝塚の医師を大きく報道したマスコミには呆れた。どうでもいい話だ。もっと大切な事実(ワクチン接種の意義、安全性)をしっかり報道して欲しい。
3) ワクチン供給を行政が仕切ったために混乱が生じたのではないか。医師会に全部丸投げした方がスムースであっただろう。行政が配給情報を隠しながら配布した結果、ワクチンが余る医療機関と足りない医療機関が出来た。しかし両者でワクチンの取引をすることは禁じられており、卸に返品も出来ないならば、余ったワクチンは捨てるしかない。
以上、今後のインフルワクチン接種に何かの参考になれば幸いです。
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この記事へのコメント
確かにン千円は高いと思いますが・・・昔 老人医療自己負担金が無料であったころ
負担割がゼロを良いことに不必要な投薬、シップ薬をあらゆる病院がして
老人を薬ツケにしてきた 医師の責任は全く問われない。医師からもあれは
間違いであったと言う声も聞いたことが無い ましてや製薬会社からも
。。。。老人医療費自己負担がゼロの時に各老人家庭でのすさまじい無駄な無意味に
捨てられた薬の多かったことは誰も反省しない・・・某老人から「薬が
分からないので見て欲しい」と言われてお宅に伺ったところコタツの上には
2,3の病院から出た滅茶苦茶な量の薬の山「お医者さんは薬をだしとくから
飲んどいて と言うばかりで何も説明が無い」と聞いて唖然としました
それが当時は普通の状態だったんです 先生が医師になられるはるか以前の
お話です。
あんなことをしていれば保険財政が破綻するのは明らかだったのに
医師会は全く自浄能力をなくしていた挙句の果てに 今の2割負担や3割負担に
なったのはそれもひとつの原因だと思います。
Posted by おじさん at 2009年12月28日 08:03 | 返信
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