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在宅医療とは、まずファイナンシャルプランナーから
2010年01月05日(火)
新年早々、結構忙しい外来と在宅です。やっとの夜診を終え帰ろうとすると訪問看護師が「在宅のAさんが急に眼が見えなくなって大変です」とのこと。さっそく訪問しました。右目はもともと全く見えず、2、3日前から見えていた左目も急速に見えなくなったと言います。「明日、眼科に行きましょう」と説得しても頑として「行かなくていい」と言われます。「失明してもいいのですか?」「かまわんよ」「困るでしょうが」・・・よく聞いていくと、そこにはやはりお金の問題が横たわっていました。
Aさんは数年前に脳梗塞を患い半身麻痺がある一人暮らしです。室内はなんとか移動できますが、両目が見えないと生活ができません。ヘルパーさんと看護師さんが頼りです。
Aさん「右目は昨年3回手術したが全部失敗して結局、失明した。しかしその時の手術代が今も払えていないので、病院にはどうしても行けません」
私「借金はいくらあるの?」
Aさん「全部で10万円の医療費がかかったが、毎月1万円の月賦で返してもいいと病院は言ってくれた。何回か返したが、あと3回というところで返せなくなった。借金は2万8千円残っておる。病院に行くと、眼科の先生はわしが借金していることはわからんだろうが、帰りに事務を通る時を考えると非常に辛くて、とても病院には行けない」
私「なぜ払えないのですか?」
Aさん「年金生活だから1ケ月の生活費は7万円だ。ここからアパート代と生活費とヘルパー代を払うと何にもなくなる。おまけに土建業の息子が不景気で仕事が無く、今はワシが養っている」
私「生活保護にはなれないのですか?」
Aさん「役所に聞いたけど無理だと言われた。年金をもらっていると生活保護にはなれんそうだ」
私「どうしましょう?」
Aさん「私はまだマシな方だ。年金が月7万もある。ここらのワシの友達は3、4万のものがゴロゴロいて、お前は贅沢だと言われる。みんな80を超えてもアルバイトしてお小遣いかせぎして何とか暮らしとる」
私「分かった。じゃあ、明日、病院に今後の借金の取り扱いについて聞いてみるわな。元気出してね」
現実は厳しい。そういえば昨年、突然、報道ステーションから電話がありました。
「生活保護以外でお金で困っている老人はいませんか?東京にはいそうで、いないんですよ。尼崎ならいそうな気がして電話しました」と。
患者さんの承諾を得て、生活保護ではないビンボーそうな患者さん(失礼)を紹介しました。するとその数時間後にはステテコ一丁の患者さんが全国ネットで期待どうり堂々とボヤいてくれました。
「国は年金生活者のことを全く分かっておらん」と。
今夜の患者さんは、しみじみ噛みしめるように「私は病院に行ける身分ではない」とおっしゃったので、余計にシンミリきました。
最近、在宅医療の全国版メーリングリストでいろんな議論をしても噛み合わないと感じることがあります。要するに私は、全国の医療者達があまり見ない、あるいは信じないような貧困者と接しているから話題が合わないのかと最近思います。貧困は自分がなるか直接聞かないとなかなか信じられません。尼崎の中でも北と南では貧困にかなりの温度差があります。医療以前に「貧困」という現実にしっかり目を向け、「ファイナンシャルプランナー」の役割を果たすことが、在宅医には求められます。
元気な貧困者は病院に来ないから会うことはあまりない。
しかし病気の貧困者はとりあえず在宅医療の網にかかる確率が前者より高いので私の知るところとなる。
しかし、いずれにせよ、私が目にしている貧困者は氷山の極一部であり、むしろ海の下にもぐっている氷に手を差し伸べないといけない。
それは、本当は医療者ではなく政治家の仕事です。
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