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エイヤっと病院を飛び出して家に帰った認知症終末期患者さんのその後
2010年01月08日(金)
エイヤっとクリスマスに病院を飛び出して家に帰った寝たきりの認知症末期の患者さんのその後についてです。結論から言えば、2週間で格段に良くなりました。機嫌が直り元気になりました。問題とされたMRSAについては、帰宅したその日から熱も咳も何も問題ありません。決して悪さをしない(=毒素を出さない)MRSAに、一生懸命バンコマイシンを投与したり、ガウンテクニックを強要していたことが証明されました。感染症の知識が無かったのでしょう。周辺症状に対する薬を胃ろうから入れることで、怒声や暴力も無くなりました。
また、口から氷片などを食べれるようになりました。半年以上、病院で食べることを禁じられていましたので、口から食べることを完全に忘れています。誤嚥性肺炎は食べても食べなくても、起きるときには起こるのです。とてもいい正月を過ごされました。御家族はとても喜んでおられます。訪問看護師にも感謝してくれています。
「こんな素晴らしい看護師さんが在宅という世界におられるなんて知りませんでした」
「そりゃ仕方ありませんよ。医療者もほとんど知りませんから、市民ならなおさらです」
なにせ病院スタッフからは、さんざん
●認知症末期で家に帰ることは絶対に無理
●家に帰るとすぐに死んでしまう
●MRSAは家では治せない
と脅かされてきました。しかしご家族は病院スタッフのアドバイスを全部無視して、出会ったばかりの私の方を信じて本当にエイヤと病院を飛び出して来たのです。病院スタッフの予言は残念ながら全部間違っていました。これは事実です。
一番勉強しなくてはならないのは、病院のスタッフ達です。医療スタッフが在宅医療について何も知らないのに間違ったアドバイスをし続けるのです。そんな医療者に限って病院での私の話も聞きに来ません。何も知らないのに想像で「家に帰れません」と言い続けるのです。このように、病院信仰は市民だけでなく、実は医療者の方が根が深いのです。医療崩壊を嘆く前に、医療者は自分たちの無知を嘆かなくてはなりません。これは自戒を含めた本音です。
当院に勉強に来た医者が何人もいました。1?2ケ月つきっきりで一緒に同行研修させたうえで、一人で在宅患者さんを回らせてみます。
「どうでしたか?」
「大変です。こんな重症患者さんは入院が必要です」
「入院って。入院が厭だから自宅に帰ってきたのですよ」
「しかしこれは危険すぎます」
「危険って、何が危いの?どっちにせよ危険なんだよ」
「とにかく重症者を家においておくなんて、許せない。長尾先生はなんてひどい医者だ」
とほとんどの医者がなります。
年単位でうちで修業しても在宅医療を理解できないのですから、どだい無茶なことを言っているのは私自身かもしれません。「自分ではとても常識的だと思うけど、もしかしたら俺っておかしいのかな?」なんて思うこともしばしばあります。
どうやら私の常識は一般医療者の非常識のようです。しかし臨床の結果はほんとうに正直です。ほとんどの場合とても良い結果でした。その何百もの経験から、「エイヤ」という言葉が自然と出てしまいます。そして実際すごく喜んでもらえるのです。
まさに「町医者冥利」につきるのが在宅医療です。
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この記事へのコメント
父母がいつもお世話になり本当にありがとうございます。
うちの母などもまさに寝たきりですが、先生と看護師さんたちのお蔭様で自宅ベッドで幸せに過ごさせていただいております。
さて、記事に関係ないコメントで申し訳ありませんが「業務連絡」です。笑。
往診時にお話していた「たれまく」の件、伊勢白山道のコメント欄でリーマンさんに質問を入れてみたところ、速攻でお返事いただけました。1月8日の記事のコメント欄です。先生のこと、ほめておられましたよ?。空海さんの弟子みたいな人だって。最上級のほめ言葉ですね!
でも、「垂れ幕」は本業に差しさわりがあるといけないからやめておきましょうとの事です。病院名なども書いたせいか私の投稿したコメントはアップされていませんでしたので次の金曜日の往診時にでも直接お伝えいたします。
リーマンさんのレスは以下の通りです。(。。。。以下がリーマンさんです)
お伺いいたします 2010-01-08 20:59:53 チズ
リーマンさん、今日もたくさんのコメント返信ありがとうございます。
。。。。非常に熱い院長先生で感動しました。
ただ病院に垂れ幕は、止めておきましょう。
世の中には色々な人物がいるものです。
先生の本業に影響してはダメですから。
先生の口伝だけで十分です。
空海さんの弟子のような先生です。
Posted by チズ at 2010年01月09日 08:27 | 返信
こんばんは。
二度も取り上げていただき、ありがとうございます。
介護のサブをしている、長女です。
「エイヤ!」と脱出できたのは、即断即決の先生のおかげです。
家族だけでは「退院」なんてとても言い出せません。
でもあのときは本当に「人質」にとられているような状況でしたので
救出できたときは、目の前の困難を考えるより、爽快感が勝っていたと思います。
今、父が穏やかな状態が多くなり、父らしいウィットにとんだ会話まで出るようになってきて
家に帰ってきてどれほど良かったか、ということを日々感じています。
病院では、ナースコールを押せない父の代わりに家族が、父の痛みや不快感を訴えるために
始終誰かが付き添っていました。
薬疹らしきブツブツができていても気づいてもらえなかったり、熱が上がったり下がったりしているからといって、下がっているときも氷枕をされて首が冷た?くなっていたり、
たくさんの看護師さんが入れかわりたちかわり来ることでの引き継ぎミスとか、いろいろあったので
全面的におまかせ、という気持ちにはなれなかったのです。
(とてもお世話になったことは事実なのですが・・)
二度目の療養型の病院では、そんな家族の付き添いは本人にとってかえってよくないとのことで
付き添いはおろか、見舞いにもあんまり来なくていい、と言われました。
本人に「一人で過ごすことに慣れさせる」ことが必要だとの方針でした。
そのなれの果てを想像することは、こわくてできません・・・
今ほんとうに、父にとっても家族にとっても、家に帰ってこれて良かった?と
毎日毎日思っています。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by サブ子 at 2010年01月10日 12:56 | 返信
チズさま。リーマンさんに聞いて頂きありがとうございました。御助言のとうり、垂れ幕は止めておきます。「空海さんの弟子」とは嬉しいお言葉。最近出た空海さんの書に関する本を眺めています。そして空海さんは実際どんな人だったのだろう?修験道ではこんな冬はどんなところで寝ていたのだろうか?なぞ想像しています。リーマンさんのブログを毎日楽しみにしています。ありがとうございます。
Posted by 和 at 2010年01月10日 09:54 | 返信
初めまして、千田と申します。
いつも先生のブログ拝見させて頂いています。
先生のクリニックはかかりつけ医の理想で、医療者として在宅やクリニックでのご診療のお話はとてもためになります。
今回のMRSA患者様のお話は、“医療者の意識は10年経ってもかわらないなあ・・・”と共感しています。
当時鼻腔内のMRSAが問題になりバクトロバン軟膏(当時はバクトラミンだった)処置の必要性が声高く言われました。“MRSA肺炎”と“MRSAの鼻腔内感染”は全く異なるもので、MRSAが当時既に小学生の頭皮からも採取される“常在菌”であることは東北大学感染制御の賀来満夫教授も言われています。
一般に医療者には、MRSAに対するいわれのない恐怖症があること・在宅医療は病院医療より格落ちである(レベルが低い)との思い込みがあることが今回の先生のご苦労の一因かと思います。
私はかかりつけ医に転じてまだまもない身ですが、同じ町のお医者さんとして今後とも宜しくお願い致します。
Posted by Haruch at 2010年01月11日 12:00 | 返信
千田先生
はじめまして。長尾です。コメント、ありがとうございます。施設へ入所する際の診断書に記入するMRSAの欄をなんとか廃止したいのです。梅毒もしかりですね。無駄な検査です。感染症の専門家でないととても言えないと思うのですが、岩田健太郎先生に言ったら、「長尾先生が自分で言ってください」と言われました。(笑)東北大学の賀来先生も常在菌だと言われているのならなおさら大きな声で言っていきます。もしかして千田先生ってブログを書いておられる先生でしょうか?実名で書くのは勇気がいりますね。私も勉強させていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。
Posted by 長尾 at 2010年01月11日 10:01 | 返信
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