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訪問看護師の悔し涙
―当直医を恐喝してしまいました―
2010年01月30日(土)
忙しい1日でした。嵐のような外来に、一人の老人が飛び込んできました。「妻が夜中に廊下で倒れてしまい起こせないのでそのままにしていたら意識が朦朧としてきた」と。在宅患者さんなのでさっそく訪問看護師さんに見に行ってもらいました。「意識はあるが朦朧としている。手足も動き脳血管障害ではなさそう。ただ体温が32度と異様に低い。点滴をしようにも血管が全く出ない」との報告がありました。私も診に行きましたが、様子がおかしく入院が必要と判断しました。訪問看護師にかかりつけの地域で最も信頼されている基幹病院に電話をしてもらいました。しかし、当直医は難癖をつけて断りました。2回目の依頼も断られました。看護師の悔し涙を見て、つい当直医を恐喝してしまいました。
私「普段はそこそこ元気な方です。入院させて様子を見て頂けませんか?」
当直医「当院には低体温の専門家はいませんので無理です」
私「低体温というのは廊下で布団をかぶらずに寝ていただけで、あたり前の反応です」
当直医「とにかく低体温の専門家はいないので絶対に受け入れれられません。3次救急に回してください」
私「そんな重篤な状態ではないです。高齢ですしちょっと入院で経過を見て欲しいのですが」
当直医「ダメですね」
私「先生はいったい何科の先生ですか?」
当直医「総合内科です」
私「総合内科ならちょうどぴったりじゃないでしょうか?」
当直医「総合内科は低体温の専門ではありません。訴訟になれば困ります。」
私「毛布で温めればいいじゃないですか」
いつもこんなやり取りが続きます。この電話が3回目の依頼です。
当直医は、「私の上司にも相談しましたから、これは病院としての結論です。訴訟になれば負けますから」との論旨です。いつもこんな感じになります。とにかく診たくないようです。
いくら話してもラチがあかないため、つい脅迫してしまいました。
「先生はそれでも医者ですか?恥ずかしくないのですか?これだけ頼んでいるのに屁理屈ばかり言って門前払いして。それでよく総合内科と言えますね。おたくの院長先生は在宅患者さんの入院依頼は絶対断らないと言っています。先生の対応を来週報告しますね」と。
すると「再度、上司と相談します」と言って一旦電話を切りました。
しばらくして電話があり、果たして受け入れてもらいました。恐喝作戦の成功率は高いのですが、時間がかかるのと、厭な思いが残るであまり使いたくありません。しかし今日は冷静な訪問看護師の悔し涙を見て、つい恐喝してしまいました。
送る側もちゃんと病院機能を考えて送っています。急性期病院には誤嚥性肺炎は頼みません。総合内科医は「体温が低い」部分を逆手にとり、「それは低体温の専門家に回せ」と言いました。一連のやり取りは現代医療が抱える問題を象徴しています。
それは、「過度な専門分化」と「医師法21条」です。
医学の必要以上の専門分化は、医療の退化です。医師法21条の誤解は、医療崩壊の本質です。医療の不確実性の国民啓発を行うべきです。必要以上の専門分化は医学教育で正すべきです。
とにかく今日の「総合内科医」には笑いました。間違っていることに気がついて欲しいと願います。
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