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最先端医療はここまで進んだ

―がんワクチンとiPS細胞―

2010年02月04日(木)

大阪で医師会主催のまたとない講演会がありました。東京大学医科研究所ヒトゲノム解析サンター長、中村祐輔先生による「がんワクチン療法」と、京都大学、山中伸弥教授の「iPS細胞の可能性と課題」の講演を聞きました。

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「がんワクチン療法」 東京大学医科研究所ヒトゲノム解析センター長、中村祐輔先生

【2人に1人ががんで死ぬ時代】
男性2人に1人、女性は3人に1人ががんになる。2025年には2人に1人ががんで死ぬことになる。だから新しい治療法が望まれる。その代表格である分子標的治療薬は完全な欧米主導であり、日本での創薬は散々たる状況である。そのため8000億円の医薬品が輸入されている現状にある。

【がんペプチドワクチンの現状について】
がんワクチン療法には一時期大きな期待が持たれたが現在は下火になっている。この治療法にはできるだけいい標的分子=癌特異抗原、それも特異性が高い分子を探すことが重要である。がん細胞の表面に発現している目印、すなわち9?10ケのアミノ酸が結合したものを見つけて、これを注射して免疫を作るのががんペプチドワクチン療法だ。現在28種類のがん特異的抗原が見つかっている。腫瘍マーカーであるCEAペプチドも開発されている。がん難民をなくすためにも出来るだけ早い段階からワクチンを使うべき。がんの縮小が15%に見られている。

【誘導された特異的なリンパ球は、本当にがん細胞を攻撃するか?】
リンパ球がパーフォリンを出してがん細胞に穴を開けて破裂させるビデオが示された。ペプチドワクチン療法が著効する人もいる。末期がんの治療法としても使われたが、効く症例と効かない症例がある。この治療法は効果が現れるまで時間がかかる(=遅延効果)。膵臓がんにジャムザールとともに投与する方法もある。

【免疫療法の評価と効果】
この治療法が成功するかどうかは、ワクチンに反応してリンパ球が増えるかどうかで決まる。ペプチドワクチンはリンパ球の割合が多い人に効きやすい。抗がん剤を使いまくった人はリンパ球が弱っているので効きにくい。有効か有効でないかを判定するには、従来の治療評価方法を再検討する必要がある。


「iPS細胞の可能性と課題」京都大学 山中伸弥教授

【ES細胞からiPS細胞へ】
ジェノン社ではすでに脊髄損傷の人間でのES細胞の臨床試験が始まった。しかし拒絶反応があるので免疫用製剤を飲まなければならない。患者さんの皮膚細胞からES類似万能細胞(iPS細胞)を作ることに山中門下生の研究助手の高橋氏が成功した。実際にはレトロウイルスという4つの遺伝子を導入することで人工多能細胞(iPS)が作成される。ES細胞からiPS細胞の樹立にはネズミで17年もかかったが、人間は意外にもたった1年で出来た。iPS細胞の樹立は山中先生が2007年に確立したが、全く同じ日にウイスコン大学からも報告された。実に競争が激しい。スペインでは髪の毛1本から樹立したと報告されているが、山中先生は皮膚細胞から作っている。皮膚の細胞から拍動する心臓の細胞が出来るというのは山中先生自身も実に不思議だ、と述べた。

【iPS細胞による再生医療】
患者さんの皮膚からiPS細胞を作り臓器に分化誘導することが出来る時代になった。この方法だと拒絶反応を回避することが出来る。しかし作成に時間とお金がかかる。間に合わない人には血液バンクと同じように「iPS細胞バンク」を京都大学で構想中。iPS細胞から神経細胞に分化した細胞バンクも検討中。しかしHLAもマッチングしなければならない。HLA(ホモ)50名で日本人90%をカバーできることが分かってきた。5年以内に「iPS細胞バンク」の完成を目指している。残念なことは政権が代わって研究費が3分の1に減ったと。

【臨床研究と治験】
臨床研究=医師法、医療法、治験=薬事法で両者は本質的に異なる。

【iPS細胞の再生医療以外の使い道】
iPS細胞=再生医療では決してない。病態モデルを作成して創薬に利用する意義も大きい。
SMA=脊髄性筋委縮症はSMN遺伝子異常で起こる病気
ALS=筋委縮性側策硬化症。アメリカではルイゲーリック病として知られている。彼は発病して引退し2年後に亡くなった。ALSの大部分は原因不明。数%は原因が分かっている(SOD遺伝子異常)。なぜ薬が出来ないのか?それはよい病態モデルができないからだ。世界中のSMAやALSの患者さんの皮膚からiPS細胞を作れば、病因の究明や薬剤の探索への貢献が大いに期待される。

【3つの病因】
難病の原因は遺伝子異常、加齢、環境の3つに分けられる。原因として3者の割合は病気によって異なる。SMAでは遺伝子異常が大きく、ALSでは小さい。従ってiPS細胞は、SMAの治療により寄与しうる。iPS細胞はいくらでも保存できる。
また、QT延長症候群=致死性不整脈の原因は薬剤性、体質性に分けられるが、iPS細胞を使うことで薬剤の心毒性の予見が可能と考えられる。

【iPS細胞治療の安全性の検討】
がん細胞と幹細胞は似ている。またiPS細胞の初期化とがん細胞もとても似ている。従って、iPS細胞を導入することで別のがんができるかもしれない。だから安全性の検討も重要。

【世界中に広がる研究】
世界中に研究所や企業が広がっている。京都大学iPS細胞研究センター(2010年4月からは研究所に格上げ)ができる。iPS細胞の知的財産権や特許の確保も大切である。

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