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「胃がん化学療法の地域連携パス」に異議あり

2010年02月04日(木)

今夜は、関西労災病院で3つの基幹病院で共通の「胃がん化学療法の地域連携パス」の勉強会がありました。胃がんのstageⅡとⅢを対象に、TS1という経口抗がん剤の投与を病院と地域の診療所が連携して行うシステムが勤務医と開業医で検討されました。「Smile Life」と命名された病診連携冊子はすでに運用されています。ある病院の偉い先生は、「TS1は開業医には無理」と言われました。大いに異論があります。

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私は、今回の議論を聞きながら、いくつか異議を覚えました。

まず共通のパスを作ろうというのは大変良いことです。「連携パス」がいいのかを考えると、「パス」そのものではなく、開業医と「連携」しようとする姿勢が良いのです。しかし、何故、stageⅣのパスが無いのでしょうか?「stageⅣは病院だけでやりますのでパスは不要です」と言われましたが、大きな間違いではないでしょうか。「パス」は無いけど連携はある、ならいいのですが。

今、病院の外来抗がん剤治療を受けながら在宅医療を受けておられる患者さんが急増しています。ボクシングと同じです。リング(=外来抗がん剤治療)で闘って、セコンド(=在宅)で、トレーナー(=訪問看護師)にマッサージを受けながら、またリングに上がります。このstageⅣこそ最も連携が要るのです。そして早晩、抗がん剤治療が出来ないくらい弱り、在宅医療のみに移行します。スムースな移行のためにも、早期からの連携が必要なのです。

何故、連携パスにstageⅣを入れないのか?それはパスを作ることが出来ないからです。そもそも一人一人病状が違うのに同じパスで対応しようとすること自体に無理があります。パスのためのパス、ではいけません。パスは、本来おおらかでいいのです。しかしキチンとしたパスを作ろうとする強迫観念こそがstageⅣを除外してしまった原因だと推測します。

いずれにせよ「地域連携パス」には他にも大きな問題点があります。
各診療所の機能が全く考慮されていません。
まるで「がん」を送った時点で、アホな開業医には用がない!と言わんばかりです。いや、今夜ははっきり言っていました。しかし、当院のような医療設備を完備した診療所では、病院より小回りの効く検査ができます。エコー、マルチスライスCTとも年中無休で予約なしで撮れます。内視鏡専門クリニックでもありますから、早期がんも沢山見つかります。しかし見つけて病院に送ったら最後、戻ってこないのがよくあります。定期検査は内で可能ですが(そもそも当院でmm単位の微細病変を見つけたので送っている)、それを無視した病院だけのフォローアップが行われます。いつも患者さんから「ここで定期検査して欲しい」と言われますが、複雑な気分です。

がん拠点病院に言わせれば、「診療所に何が分かるか」という感じでしょう。しかし、何度も言いますが小さな初期病変を見つけたのは当クリニックです。診断能力があることは充分証明されていると思うのですが・・・誰だって自信が無い時には病院に送りますよ。そして、いよいよ再発してから、死ぬギリギリになるまで開業医に戻されることは封印されます。

一定の研修を重ね、がん医療に熱心な、医療機器を備えた診療所を「がん拠点診療所」として認定し、外来ケモの裏方作業から在宅、そして看取りまで行う、というシステムを構築すべきではないのでしょうか?しかし現実には、がん拠点病院ががん患者さんを亡くなる寸前まで抱え込んでいます。もっと早期に「がん拠点診療所」と呼べる地域医療資源と連携しておくべきなのです。

胃がんとTS1による経口抗がん剤治療について

【早期胃がんは腹腔鏡手術が標準の時代】
早期の早期であれば胃がんを内視鏡で削り取ることができます(ESDと言います)。従来それ以外は開腹手術でしたが、最近では早期胃がんは腹腔鏡手術が標準であるという時代になりました。

【TS1の適応と効奏率】
胃がん治療ガイドラインによると、TS1という経口抗がん剤の適応には全胃がん手術症例の約30%です。これはstageⅠとⅣ以外の胃がんという意味です。stageⅠにはTS1は不要で、stageⅣには入院下できつい抗がん剤治療を行います。

TS1の投与方法には2つあります。
1) 4週投薬して2週休む(4投2休)
2) 2週投薬して1週休む(2投1休)=2回繰り返せば投与総量は1と同じ。
両者は異なるという意見もありますが、状況によってどちらかで投与します。
いずれにせよ、計画投与量の70%以上の服薬が必要です。服薬期間は5年間です。

ACTS―GCという研究によると、TS1の効奏率は40%です。stageⅡと3例においては、無再発率は60%VS72%で有意差がありました。すなわち、3年後の再発率を40%から28%に減らすことが分かりました。ちなみに3年生存率は70%VS80%ですが有意差はありませんでした。

【パスの歴史】
1984年 米国でパスが開発
1992年 日本に伝来
1990年代後半 日本で普及
1999年 クリニカルパス学会、医療マネッジメント学会設立

ちなみにA病院では現在約200のパスで運用されています。

【パスの意義】
・情報開示
・標準化医療
・可視化
・チーム医療
・病床稼働率の上昇

パスの話を聞きながら、当院でも「在宅パス」が出来そうだと感じました。しかし、在宅こそオーダーメイド医療ですのでパスにはなじまない部分が多くあります。しかしパスの部分とそうでない部分をきちんと識別できたうえに導入すれば、利益はあると感じました。

最後に、「これを言っちゃおしまい」と思う感想をひとこと。
●何故、外科医が抗がん剤治療をするのか。私は不思議でなりません。抗がん剤治療こそ内科の仕事です。外科医は仕事があまり無いからでしょうか?それとも腫瘍内科医がいないので一時的に肩代わりしているだけなのでしょうか?
●抗がん剤の説明をする外科医を見るたびにそう思います。もっともっと手術をして欲しい。そして手術という特殊技能の評価(給与)を10倍上げて、外科医が抗がん剤治療をしなくてもよい医療界を早く作るべきだと思いました。
 

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この記事へのコメント

こんばんは、千田です。
いつも先生のブログを拝見していて、すごいなあと感心しています。
本当に、かかりつけ医(町医者)のあるべき姿だと思っています。
また、地域性(?)かもしれませんが、本音トークも私にはとてもできません(熊本という地域性もありますが)。
ところで、『地域連携パス』ですが、胃がん化学療法の地域連携パスはパスとしては、他の連携パス(特に大腿骨頚部骨折連携パス)と比較するととてもよくできていると思います。
パスの歴史を書いていらっしゃいますので、少し私の説明をします。私自身は、平成9年に済生会熊本病院で整形外科部長として全病院的に疾患パスを導入しそれをエバンジュリストとして全国に広めた経緯があります。
勿論、日本への導入はカレンザンダーさんのケアマップを阿部俊子先生が日本へ紹介され、その前から各病院にありましたが、それまではほとんど普及していませんでした。平成10年からは黒部市民病院・函館五稜郭病院・NTT東日本関東病院それから熊本医療センターなどが病院をあげて取り組まれました。
私自身は平成14年に開業するまでは全国各地で講演活動などをしていましたが、開業後はパスの実戦部隊からはずれた(現場で汗をかいていない)という理由でパスからは完全に身をひきました(理事や顧問としては残っていますが、全く活動をしていません)。
そうした一線から退いた私がいうのはおこがましいのですが、連携パスの第一陣はパスとしては零点、今回先生が取り上げられた癌の連携パスは60点と考えています。
これは、パス(クリニカル・クリティカルパスウエイ)の本質をきちんと捉えていないからです。
現在の連携パスは、あまりにも横の時間軸にとらわれています。
こうした時間軸のパスは本来、連携パスには向きません。
それよりも、観察ポイントや治療のポイントのクリティカルインディケーター(クリニカル・クリティカルインディケーター)をきちんと設定し各医療機関で共有すべきです。
従って、時間軸のパスでなく、ステージによるステージパスやそのフェーズによるフェーズパスといった捉え方が必要なのではないでしょうか?
そうすれば、先生のお考えのように実用になるパスの使用が可能になります。
このパスの原点は、当時済生会熊本病院で私がつくったものがひな形になり、それが時間軸のパスであったため厚労省のお役人はそれのみがパスというとられ方をされているのだと思います。
既に、日本のパスは米国のそれを超えています。
ただし、進化も私の開業以来していないと感じるのは、私のおごりでしょうか・・・。
現在、私のクリニックでは高血圧・糖尿病などの独自のケアパスを作成しています。
これは連携用ではありませんが、本来の疾患治療のパスウエイとして、患者様とのお約束として用いる予定です。
大変、長くなりました。
最後に、先生は私の理想の開業医です。
いつか先生のようなクリニックを作り上げることができればと目標でもあります。
ちなみに私もよくペテン師といわれます。
それではまた。

Posted by 千田治道 at 2010年02月07日 07:33 | 返信

千田先生
長尾です。お誉め頂きありがとうございます。
パスの素人がエラそうに書いてすみません。
千田先生はパスの先駆者だったのですね。

>時間軸のパスでなく、ステージによるステージパスやそのフェーズによるフェーズパスといった捉え方>が必要なのではないでしょうか

大変ありがたいヒントを頂戴しました。からなず今後に生かしたいと思います。
千田先生のHPを拝見して、私自身、もっとも見習わなくてはいけない先生だと感じました。
今後ともご指導よろしくお願い申し上げます。

Posted by 長尾和宏 at 2010年02月08日 03:05 | 返信

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