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低血糖往診
―病院と在宅では全く異なる糖尿病診療―
2010年02月03日(水)
昨夜8時半、低血糖で昏睡に陥った脳卒中の在宅患者さんを緊急往診しました。ご家族から電話が鳴り約1時間ほど意識消失しているとのこと。訪問看護師は他の患者さんの処置で手が離せません。急いで訪問すると血糖値は42でした。ブドウ糖注射で意識はすぐに復活しました。かたずを飲んで見守る親子3代の家族達に安堵の笑顔が戻りました。HbA1cは先月が6.7%、今月が6.5%とインスリン患者さんにしては良すぎました。何度も教育入院されていますが、病院と在宅では糖尿病の治療目標が全く異なることを実感します。
インスリン注射をしている在宅患者さんは沢山います。自分で打つ人、家族が打つ人、本当はいけないけどヘルパーさんが注射器を持たせて形だけ自己注射させている人、お手伝いさんが打っている人、本当にいろんなパターンがあります。しかし在宅での糖尿病治療では、低血糖を避けることが最も大切です。若い外来患者さんの血糖コントロールは100点を目指しますが、在宅では60点、いや50点でも全然いいのです。低血糖(=事故)が絶対にない安全運転が最優先なのです。
病院=キュア=グッドコントロール(HbA1c6.5%以下)を目指す。
在宅=ケア=年齢の10分の1のHbA1cを目指す(80歳なら8.0%、90歳なら9.0%)
これは糖尿病の権威、神戸大学の横野教授の教えです。しかし病院の糖尿病専門医からは必ず100点を目指した厳格な注射指示で帰ってきます。病院さんには大変申しわけありませんが、退院後すぐにそれを私なりに改変していきます。独居や障害のある方の低血糖発作は命に関わるのです。もう充分生きていますからなにも優等生にならなくてもいいのです。安全第一です。病院医は血糖しか診ませんが、在宅医は血糖と人生の両方を診ます。両者は時に対極です。
今夜の患者さんの場合。
超速効型のアピドラを10、10、10、と持効型のランタスを10単位で打っていました。明日からすべて8単位に減らすとともに、食前に打っていたのをすべて食後に変更しました。というのも、今夜はインスリンを打ったあと食事をいつもの半分しか食べなかったのが低血糖の原因でした。元気な人は食前が常識ですが、在宅患者さんは食後の方が絶対安全です。脳血管性認知症は低血糖を繰り返すと認知症が増悪します。また無症候性低血糖も認知症を増悪させます。
この患者さんはすでに平均寿命に達しています。すぐ隣にあるギャンブル施設に車椅子で通うことが自然とデイケアになっています。半身不随になっても好きなギャンブルに通いつめることが出来るこの患者さんは日本一幸せな患者さんです。私も難しいことは言いません。残された日々をうまく楽しんで頂きたいと願います。町医者はそのために無い知恵を絞ります。
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この記事へのコメント
糖尿病治療における病院のキュアと、在宅のケアの差異、非常に興味深いです。
血糖コントロールだけでなく、病院と在宅医の診療の違いは、このブログの主要テーマの1つですね。
そして毎度のことながら、今回も、病院側からすると長尾先生の治療方針は「悪」とまでいかなくても「奇」なのでしょうか。
しかし、ぺリー来航の60年以上前に海防の必要を説いた林子平は「奇人」と言われ続けて一生を終えたし、今でこそ忠臣とされている楠木正成は、当時の公文書では「河内の悪党」でたびたび登場しています。
為政者からみたら「悪党」であったり、世間から「奇人」呼ばわりされるような人間でないと、新しい風は吹かせられないのかもしれません。
そして、長尾先生の新しい風は、なにも世の中をあっと驚かせたり、有名人になって富を蓄えたり、選挙に出るためでもないところがミソ。
目の前の患者さんとその家族の、生活の質の向上なんかはとっくに織り込み済みで、さらにもっと深い「生きてることの本質」にまで配慮が渡っているように思います。
>自分でも暴走族のような気がします。 (2月1日のコメントより)
暴走族! おお、イメージぴったりですよ。
でも、先生を漢字1字で表すなら「暴」より「爆」に近いかな?
【長尾爆走族】、どうでしょう?
できれば「喧嘩上等」のノボリをはためかせ、爆音立てて走っていただきたい。(笑)
Posted by カンタダ at 2010年02月03日 09:13 | 返信
カンタダさま
いつも的確なコメントありがとうございます。
>【長尾爆走族】、どうでしょう?
>できれば「喧嘩上等」のノボリをはためかせ、爆音立てて走っていただきたい
嬉しいです。本当にそうすると思います。
溝に落ちたらアホな奴だと笑ってください。
Posted by 長尾和宏 at 2010年02月04日 02:29 | 返信
今日介護審査日でした。新規申請です。身長161センチ 体重 81キロ HbA1c 8.0 何とか歩けるが起居動作につかまりや支えが必要。浴槽には入れるが、出ることが出来ず近くにいる息子が帰ってくるまで湯船で待っているとのこと。老老介護では到底浴槽から助け出すことは出来ない体重です。時にはお風呂で倒れることもあると。お風呂好きの日本人です。意見書を書かれた医師がどうぞ受け持ち医でありますように、そしてケアマネージャや入浴サービスなどにかかわる人がおおらかな人が当たりますようにと判定して帰ってきて長尾先生のブログに当たりました。在宅医誰もが血糖値と人生を同時に見てくれるといいですよね。
Posted by isasetuko at 2010年02月04日 06:04 | 返信
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