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ヘルパーさんから、まだ若い在宅患者さんが血圧の薬を大量に飲んで意識がないとのことです。普通の医師なら「救急車でどこか病医へ運べ」でしょう。しかし私は看護師さんと一緒に患者さん宅に急行しました。刑事のようにゴミ箱を漁ると、大量に飲んだのは降圧剤ではなく睡眠剤系統の薬と判明しました。医療者は伝聞を鵜呑みにせず自分の目や耳で現場の状況を分析しなければなりません。昼から酒も飲んでいたそうです。寂しくて発作的に睡眠剤を大量に飲んだのです。

意識は充分あります。話もできました。点滴をして水を飲ませて一晩様子を見ました。翌朝は何もなかったかのようにケロッと回復していました。下町で町医者をしていると、このような事が時々あります。そうなる背景には無縁社会という構図が見えてきます。この患者さんのどうしようもない寂しい思いを私はどうすることもできません。

しかし、たった１回の往診で、救急搬送や緊急入院を帳消しにしました。何かと悪く言われる開業医ですが、たまには少しは役に立ったなと思いました。