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地域医療連携の視点からみた診療報酬規則の盲点

2010年02月23日(火)

診療報酬議論が最終局面を迎えています。末端開業医として地域医療連携の視点からみた診療報酬規則の盲点について、3点指摘させていただきます。以下はMRICへの投稿原稿です。

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【DPC(包括払い)の病院と出来高の診療所の間の無用な摩擦】
DPC(包括払い)病院に入院中の患者さんのご家族が、病院からの指示で診療所にお薬を取りにこられることが往々にあります。しかしDPC病院に入院中の患者さんへの診療所からの投薬は禁止されています。医療機関のレセプトに受診日は記載されませんが、薬局のレセプトには処方日と調剤日の両方の日付が入ります。後に規則違反が判明し、お上からのペナルテイーはすべて診療所に課せられます。

このようなご家族が来院されるたび、外来を中断して各病院に問い合わせてきました。驚いたことにこの規則を事務担当者、看護師、医師はおろか、病院長もご存じない場合が多いのです。逆に「診療所でなぜ投薬しないのだ」と聞かれます。地域に包括性と出来高の医療機関が併存すれば、その間に必ず起こるであろう摩擦を規則が想定していないことが不思議です。患者さんの中には精神科、内科、外科、耳鼻科など複数の診療所にかかっていて合計10~20種類もの薬を飲んでいる方もおられます。かかりつけの診療所でお薬を調達できないご家族は大変困られます。病院はしかたなく大量の薬を処方して、手間とコストを負担しているのが現状です。

このような無用な摩擦は、診療報酬規則に原因があると考えます。診療所も病院も困りますが、なにより患者さんが不利益を蒙っています。地域医療連携の視点が欠けた診療報酬規則の一例です。もし「病院医師が診療所に処方依頼状をFAXすれば入院中の患者さんにも診療所で処方できる」と規則を改正すればどうでしょうか。平均在院日数が2週間というDPC時代を迎え、規則の柔軟な変容が求められています。病院長すら知らないような規則周知の実態を検証して、医療者のみならず国民への啓発が必要です。

【外来抗がん剤治療時代の在宅医療】
DPC時代を迎え、抗がん剤治療は病院の外来で行うことが普通になってきています。抗がん剤治療は全身状態が保たれた方に行われますが、現実には体力が低下しつつあり適応が微妙な患者さんにも行われる場合があります。そのような患者さんの在宅医療を依頼される頻度が増えています。駆けつけてみると悲惨な状態であることが時々あります。もし早期から地域に往診可能なかかりつけ医を持っていたら、こんなに困らなかっただろうというケースに遭遇します。

「がん対策基本法」には早期からのがん治療と緩和治療の併存が謳われています。しかし現実はまだそうなっていません。外来抗がん剤治療こそ地域かかりつけ医との併診が重要であり、在宅医療を視野に入れた連携、ストラテージ構築が急がれます。緩和治療も病院より在宅医、地域かかりつけ医が行った方がよい場合も多くあります。

ステージⅡ、Ⅲの胃がん患者さんを対象としたTS-1などの外来抗がん剤治療をめぐる地域医療連携が検討されています。抗がん剤治療を在宅で行うケースが増えています。また再発大腸がんでは、リング(=病院の外来)でパンチ(=抗がん剤)を浴びたボクサー(=患者さん)を、セコンド(=自宅)のトレーナ(=在宅医)がマッサージ(=点滴など)を施し、2週間毎にリングに送り出すというケースが増えています。このように在宅医療との連携を想定したがん治療のモデル作りを模索すべき時です。

【医療と介護の整合性にもメスを】
今回は医療保険の改訂ですが、長期的にみれば医療と介護の整合性にもメスを入れなくてはなりません。医療と介護の整合性を問う一例が「訪問看護」です。在宅医療の主役が訪問看護師であることはもはや常識ですが、訪問看護の保険請求が医療保険と介護保険にまたがるという複雑な制度が現場を疲弊させています。訪問看護ステーションが減少する一因だと思います。

末期がんや難病を除く大半の訪問看護は介護保険下で行われますが、一部では訪問看護と訪問看護が競合しているのが現実です。むろんケアマネージャーの質の担保も課題です。医師ばかりが悪者にされますが、介護領域の評価も必須です。筆者は「すべての訪問看護を医療保険に」と、学会、研究会、講演、著書などで主張してきました。今回の改訂で複数看護師による訪問が認められるなど訪問看護が高く評価されているのは良い方向性だと思います。しかし加算や管理料などが増えると制度の複雑化を懸念します。長期的に見れば、もっと源流にある医療と介護の整合性にもメスを入れなければなりません。

戦略的な診療報酬議論をすべきだと思います。地域医療に総合医が求められるのと同様に、医療・介護政策にも地域医療連携の視点からの、総合性、整合性、統合性が求められていると考えます。
 

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