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免疫療法を巡る話題

2010年03月14日(日)

昨日の講演後、がん患者さんから「免疫療法についてどう思うか?」との質問を頂きました。偶然にも昨日、知り合いの医師から、免疫療法の勉強会についてのお誘いがありました。また偶然にも、来週土曜日のNHK番組「追跡 A to Z」のテーマは、「免疫療法の真実」だそうです。免疫療法はもはや無視できない重要なテーマだと、私は思います。しかし多くの医師にとっては、そうでもないようです。特に在宅医は目の仇に見えるようです。

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免疫療法と言っても様々です。毎日、運動するのも、エベレストに登るのも、カラオケで歌うのも、吉本で笑わすのも、イメージトレーニングするのもすべて広義の免疫療法です。また十全大補湯や補中益気湯を飲ませるのも立派な免疫療法として日々実践しています。さらに昔からの伝統とも言える丸山ワクチンも頼まれるまま、時々やっています。14年前は京大の内田温教授によるATK療法という免疫療法を勉強したこともありましたが、残念ながら内田先生自身が亡くなられストップしました。

現在、免疫療法というのは「活性化リンパ球療法」や「樹状細胞療法」のことを指すと思われます。「活性化リンパ球療法」は、採血してリンパ球を分離してがんを攻撃するように調教したリンパ球を患者さんに点滴する治療です。副作用はありませんが、大変お金がかかるのが難点です。1回20万円位かかり、多くの患者さんは2、3百万円単位で治療を受けておられます。数年前のNHKスペシャルで、この治療法の効果が検討されましたが、残念ながら「有効性は認められない」が結論であった、と鮮明に記憶しています。

がんの3大治療(手術、抗がん剤、放射線)から見放された患者さんは、必ずと言っていいほど、一度は免疫療法の門をたたいています。これは現実です。同様に、温熱療法(=ハイパーサーミア)の門もたたきます。まあそれを言うなら、がんに効くという健康食品の門は、ほぼ100%の患者さんが一度は訪れています。

多くの医師は、「エビデンスがない」とか「単なる金儲けにすぎない」と無視し、なかには「詐欺である」と攻撃するひともいます。私自身、これまで色色な免疫療法の勉強会に参加して、実際の症例も診させて頂きました。正直な話、効く人もいるのではないかと半分信じています。

笑われるかもしれませんが、健康食品の中でも、バイオブランとメシマコブについては特に興味を持っています。大学病院でとられた生の臨床データもみてきましたし、一部は当院でも試してみました。これらは代替医療(CAM)という範疇に入っています。私は統合医学会会員でもあります。さらに言うなら、私のクリニックから徒歩2分にある「ソルトスタジオ」での「マイルド温熱療法」についても詳細なデータを取ってきました。

話を戻します。「活性化リンパ球療法」を過去に実施した患者さん数名と、現在行っているという患者さん数名を見てきましたが、残念ながら「効いた」という印象の患者さんは一人もいませんでした。

しかし患者さんに是非を聞かれたら、「お金に余裕があれば試してもいいのではないか」と答えています。正直、半信半疑です。効く人もいるのではないか、と思っています。「そんなお金があるのなら美味しいものを食べた方がいいよ」と懐疑的な意見を言う医師が大半です。その気持ちも分かりますし、私自身が末期がんになった時に「活性化リンパ球療法」を受けるかと聞かれたら「受けません」となりますから、話はちょっと複雑です。ちなみに私が受けない理由は単に「面倒くさい」からです。普段、そう思いながらしているからです。

クール宅急便で自宅に送られてきたリンパ球の点滴を在宅で点滴した経験のある医師は結構いると思います。もはや通院できないぐらいに弱った患者さんから、まだお金を奪い、ボランテイアで我々に点滴をさせリスクも負わせるのか、という怨念に近い恨みを持っている在宅医は多いと想像します。私は根が好きなので、そこまで感じませんが。

樹状細胞療法は手術で得られた自分のがん組織が要るので、対象者はやや限定されますが、
これも効く可能性が充分にあります。ただ決して治るわけではありません。これも、「有効性の可能性」と「面倒さ」を天秤にかけたら、私自身の場合は、後者になるということです。

要するに、免疫療法は科学的な判断ではなく、哲学的な判断になると思っています。また時には経済的判断です。科学的な判断を下すにはまだ研究が足りないと思います。裏を返せば、適応を限定すればエビデンスが得られる可能性がある、と考えています。・

いずれにせよ、免疫療法も医師として勉強し続ける義務があると考えます。
 

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※本ブログは転載・引用を固くお断りいたします。

この記事へのコメント

はじめまして、モリーと申します。アメリカに住んでおります。日本人です。日本の名前の発音が難しく
理解されないので、「モリー」と自称して暮らしております。持病があるために年に3回ほど帰国して
おります。今日は帰国中です。先生のブログを初めて読ませていただきました。
日本の医療に多くの問題があることも理解しておりますが、日本の良いところについて気がついた点について。
確かに医療機関への「フリーアクセス」については、問題も多いとは思います。でもアメリカには
かかりつけ医という制度があるのですが、当日体調不良であっても、診療が受けられないこともしばしばあり、なおかかりつけ医から専門医にたどりつくのは、数週間かかります。ERに飛び込むのが一番早い。と現地の日本人の間ではささやかれております。あくまでアメリカの中核都市の日系の病院のないところのはなしです。
そして、日本における医療費の低額であること、
アメリカ人のかなりの人は保険を持ちません、「持てません」
医療機関に行くことが遅れたり、そのための借金を背負ったりしています。
ほとんどの日本人が医療を受けられること。
それは、日本の医療機関の皆さまのある意味犠牲の上に成り立つ部分もあることも承知しています。
とりとめなくなりましたが、これからもブログを楽しみにしています。

Posted by モリー at 2010年03月14日 10:13 | 返信

3月14日の講演会で、免疫療法についての質問をさせていただいた本人です。
初めて参加した会でしたが、「藁をもつかむ思い」で質問させていただきました。短時間での説明は大変困難なことと知りつつ~長尾先生なりに応えていただけるような気がしたのです。
有り難うございました。先生の「あなたは元気です」の言葉に励まされ、参加してよかったと思いました。とても、重い宣告を受け止め、何とか前に進もうと歩いています。幸い、抗がん剤に耐えられる身体で、昨年6月から現在までに28回目の抗がん剤治療を終えました。他にも自分の病気に少しでもプラスになることなら、何でもやってみようと色々と調べています。免疫療法については、家族でも意見が分かれます。もう少し考えてみようとおもいます。ただ、情報があり過ぎていて、時に疲れてしまいます。
6ヶ月から1年の命と宣告されましたが、まだこんなに元気です。気力でがんを食い止める心意気で日々過ごしています。   また、お力を貸してくださいね。

Posted by ユミコ at 2010年03月15日 11:52 | 返信

大変迷いましたが書き込みます。医師の立場からご覧になれば、こういうコメントは医師が語れば信じられて私たち薬剤師が語ればウサンクサク思われるのがこの世の常です。仕方がないことです。薬剤師はデータなどあまり追求しないからですね。世間的に「医師が奨めるCAMです」の言葉が患者さんの気持ちを捉えるのは自分でも納得です。自分もその立場になればきっとそうでしょうから。そのことがわかってから、その上、景気が低迷状態になってから、私自身は究極・CAMへの探究心が大いに減少しました。以前はかなり熱心な補完代替医療のお説教?をする人でしたが。余談ですが少し寂しい本心です。私が薬剤師になって以来本当の目的業務の普及を諦めたのですから。昔は「あの人には必ず効くんだ!」と思い込んで長尾先生のおっしゃる哲学的に、宗教的に強引にお奨めして患者様は信じ切って服用されて効果もかなり出ていましたが。あれは過去のお話で、今は昔のことです。結局私は何を言いたのでしょうか?

Posted by 狭間紀代 at 2010年03月15日 06:20 | 返信

先日はありがとうございました。

Posted by ユミコ at 2010年03月16日 12:13 | 返信

モリーさん
コメント、ありがとうございます。なんだか気分は「国際的」です。
ご指摘のとうり、「日本の医療制度は文句なしに世界一」です。
これだけは、患者さんがなんと言おうと、事実として大きな声で言えます。
しかし、国民の大半は、そうは思ってはいません。
国民皆保険制度やフリーアクセス制度に感謝するどころか、敵意むき出しで医療を攻撃します。
医者は完全ではありません。教師も、宗教家も、政治家も、そして普通の市民もみな同じです。
しかし、学者や患者代表は、こぞって医師を責めます。
これは、嫉妬半分でしょうが、自分自身の首を絞めることに繋がることを多くの人に知って
頂きたいです。
難しく言うと「医療事故調」ですが、簡単に言うと「患者と医者の関係性」です。
さて、モリーさんのご指摘のように、日本の医療の最大の特徴は「低額であること」です。
おそらく国民全員が、「医療費が高い」と思っておられるでしょうが、大きな間違いです。
これほど安く、平等な医療制度は世界中どこを探しても存在しません。
国民医療費は34兆円。国の負担は、8兆円、対GDP比8%です。
世界最低の医療投資で、世界最高の医療制度を維持している日本は、世界的に見れば
まさに「奇跡」です。
しかし、それを日本国民が知らないこと自体が、悲劇の始まりだと思います。
アメリカの医療が最高だと思っている方が多いでしょう。正反対です。
オバマさんも日本を目標にしましたが、挫折寸前です。
アメリカの医療を知る方に投稿頂き、光栄です。説得力があります。
これからも、ご意見をお待ちしています。
ありがとうございました。

Posted by 和 at 2010年03月17日 12:12 | 返信

ユミコさま
先日はありがとうございました。
死ぬ話ばかりしてごめんなさい。
医者の余命告知ほどいい加減なものはありません。
これは、2千人(正確には忘れました)の死に接してきた51歳の町医者の本音です。
がんと一口に言っても、千差万別で、個性豊かです。
その多様性は人生そのものです。
ユミコさまの近くにはきっと頼れる人間が多いのではと、想像します。
お顔に周囲の愛が出ていました。
私は毎日、がん患者さんに言っています。
「絶対に僕より長生きしてね」と。
人間の運命なんて、神様しか知りません。本当にそう思います。

Posted by 和 at 2010年03月17日 12:21 | 返信

紀代さま
>結局私は何を言いたのでしょうか?
名台詞をありがとうございます。
ついでに言わしていただくなら、結局「私はなんで生きているの?」です。
薬剤師さんのお気持ち、CAMに期待していた(過去形?)求道者のお気持ち、
なんとなく分かる、ような気がします。(エラそうに。すみません)
CAMもそうなら、遺伝子治療も本質的には同じであると、私は思います。
先端医療も伝統医療も、そして医療無視のひとも、
私には同等に写ります。
哲学の命題に思えます。

Posted by 和 at 2010年03月17日 12:28 | 返信

長尾先生、有難うございます。。
目頭熱くしながら読みました。見えなくもなりました。なぜならば
やはり先端医療、在宅医療で本当に薬剤師が患者さん心から喜んでいただくにはあまりにも課題が大きすぎます。
「もうすぐです。やれば出来ます」と言うのは簡単ですが基本的に看護師さんケアマネさんとの医療の知識経験は大いに違います。
なのになぜか「看護師、ケアマネさんの仕事の薬部門は私たち薬剤師が担当します」というせりふで仕事を引き寄せている現実から逃避は出来ません。
昨夜の秋山正子さんと比べる気などさらさらありませんが
患者さんがまさに危なくなったことを知る由もありませんのに
「現時点での薬剤師単独訪問は患者さんの身になれば。。。」
つらつら考えては現実に戻り
「いやいや、薬剤師にも現場を経験させて学習をさせて・。。。」と相成ります。
答えは。。。
これも哲学でしょうね。
思い悩んだまま終わりたくないので悪あがきしているのでしょうか・・
「いやいや、なんとしても今しばらくやるんです。何かをつかむまで」
またまた一体私は何を言いたいのでしょうか?

Posted by 狭間紀代 at 2010年03月17日 11:48 | 返信

紀代さん
「薬剤師も現場を経験したい、参加したい」という
紀代さんの想いそのものがとても新鮮です。
かつてそんなことを言った薬剤師さんを知りません。
価値観を共有できることが最も大切だと思います。
価値観が共有できる薬剤師さんとは是非、一緒に組みたいです。
多くは、病院医療(=拘束医療、言葉は悪いですが)に洗脳された
薬剤師さんではないかという危惧が多くの在宅医にはあると思います。
その殻を破るだけでも、とても大きな仕事だと思います。
私の中では、半分破れてきました。

あと、私は正義感などありません。所詮、根なし草です。
根なしだから、好きなことを言える。ただ、それだけです。

Posted by 和 at 2010年03月18日 03:01 | 返信

長尾先生、有難うございます。若い薬剤師にこのブログを読ませます。
頑張ります!元気が出てきました。

Posted by 狭間紀代 at 2010年03月19日 12:28 | 返信

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