病院から帰ったばかりの患者さんに、在宅医療を説明するのは、意外に難しい。
「ここがあなたの特別室ですよ」と言っても、ピンと来ないようだ。
「蕎麦屋の出前と同じ。出前医者ですよ」と言うと、「蕎麦は要らん」と断られた。

どうやら機嫌が悪いのは、大勢で訪問されて、お金の心配をしているからだった。
患者さんは、押し売りにあったと思っている。
誤解を解くため、「看護師はタダですよ」と言った。

この一言から、会話が可能になった。
白衣を着ていない私のことは、とても医者とは認識してもらえない。
「専務さん。名刺を下さい」と言われたので、名刺を差し上げた。

しばらく話してなんとなく打ち解けてきたら今度は
「課長さん、名刺を下さい」と来た。
やはり私を、医者ではなく、看護師派遣会社の課長だと思っているようだ。

医療費がかなり気になるようだ。
少しでも家に入るひとを減らして、出費を控えたいようだ。
子供に負担をかけたくないからだ。

１０日間、大学病院に入院して、９５０００円、
８日間、療養病床に入院して、４６０００円を払ったばっかりなので、
家族も大変ナーバスになっている。

「医者と看護師が毎日訪問しても、１ケ月１２０００円ポッキリですよ」
と説明したら、患者さんもご家族も、笑顔になった。
在宅医療は、安いんですね！と。

在宅医療は、初回訪問が肝腎。
１時間近くかかったが、笑顔が出たので安心した。
しかし、よく考えたら、まだお金の話しかしていない。

まあいいか。
専務から課長に昇格（？）もしたし。
次回は、部長だろうか。

家を出ると、ご家族が「綺麗な夕焼けでしょう！」と声をかけてきた。
「貴方もロマンチストだね」と、返答した。