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災害救助法が適応されない理由

2011年04月09日(土)

医療機関の受診と同じように、窓口で住所・氏名・生年月日を書くだけで、
新幹線や航空機が無料で利用できるという提案が、通らない理由が分かった。
以下、小松秀樹先生が書かれたMRICの文章を引用させていただく。

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災害救助法の運用は被災者救済でなく官僚の都合優先

小松秀樹

201149日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

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1 後方搬送の必要性

 

 知人の石森久嗣衆議院議員は、脳外科医でもある。自分で被災地に援助物資を運んだ。多くの被災地を訪れ、その臭いを嗅いできた。彼から45日に以下のメールが送られてきた。

 

「避難所での生活は限界です。いくらボランティアが炊き出しを行なっても、医師が巡回しても感染症を食い止めることは出来ません。

 清潔な環境で生活を出来る様に集団避難をしなければなりません。それが旅館であろうと、仮設住宅であろうと構わないと思います。精神的にも普段の生活に近いもので、毎日入浴の出来る環境にしなければなりません。このままでは避難所で、第4次災害で病人、死人が増加します。」

 

 避難所からの後方搬送を実効あるものにするには、臨機応変に利用できる宿泊施設が必要である。後述するように、厚労省、観光庁から、被災者に旅館やホテル等の宿泊施設を提供する制度について、二つの文書が発出されている。避難所で活動している医師からは、この制度が使えるようになっていないので何とかしてほしいと要請された。これを、中央につないだが、動いているのかいないのか、少なくとも、使いやすくはなっていない。

 個人で避難した被災者も滞在場所に苦労している。かつて亀田総合病院に勤務していた茨城県北部在住の看護師は、妊娠40週になっていた。大橋が壊れ、病院に到達するまでの時間が倍増した。出産時に間に合わないことを懸念した。鴨川に避難し、知人宅を転々としていた。結局、亀田総合病院に相談があり、病院で、落ち着き場所を用意した。

 

 観光庁のホームページを48日朝確認したところ、47日更新の情報として、30都道府県の宿泊施設のリストが提示されていた。しかし、観光庁が関係省庁と連携して支援する県域を越えた被災者のホテル・旅館での受入れとして実施するものではないと、断り書きがあった。実態は、閑古鳥のなく旅館・ホテルの割引料金の案内情報である。

 千葉県のリストを開くと、「災害救助法に基づく『要援護者』の旅館等による受け入れについても、調整を進めております」とあった。厚労省の災害救助法の弾力的運用についての文書の発出後、3週間も調整が続いていることになる。致命的に遅い。

 

 震災後、様々な救援活動に関わってきたが、意味のある活動を行おうとするたびに、官僚機構が壁になった。自らの管理下にある施設が、税金で作られているという事実を認識していると思えなかった。従来の官僚機構の動きの遅さと責任回避性癖は、民間による救援活動の阻害要因になっている。後日、官僚抜きで徹底した検証をする必要がある。

 以下、厚労省と観光庁の後方搬送の受け入れに関する文書を検討する。

 

2 社援総発0391号 平成23319

 

「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震に係る災害救助法の弾力的運用について」

厚生労働省社会・援護局総務課長から、各都道府県の災害救助担当主管部(局)長あての文書。

 

「都道府県からの県域を超えた避難」については「災害救助費等負担金の国庫負担の対象となる」。「被災した都道府県から要請を受け、災害救助法が適用された市町村からの避難者を受け入れて行われた救助については、受け入れた都道府県から災害救助法の適用を行った都道府県に対して求償することが法律上もできるとされているので留意されたい。」

 

まとめ

 国庫負担の対象となる。被災した都道府県からの要請を受けて救済。受入県が費用を支弁。受入県は被災した都道府県に求償できる。

 

ある関係者の解説

 災害救助法35条「都道府県は、他の都道府県において行われた救助につきなした応援のため支弁した費用について、救助の行われた地の都道府県に対して、求償することができる。」

 被災県からの要請が必要だとする記載は災害救助法にはない。しかし、「できる規定」となっており、求償したとしても、被災県が支払わなければいけないことになっていない。被災県が断る場合が想定されるので、「被災した都道府県からの要請を受け」との文言が入ったと想像される。

 

問題点

1)被災県と受入県の関係があいまいであり、双方に、利害判断に基づく行動の選択を許している。緊急性の高い被災者だと、受入県の担当者が慎重に対応するだけで、受け入れを拒否したのと同じことになる。当初、ある県が受け入れないと表明したと、市の職員が話していた。法令上は受け入れない選択肢もあるかもしれないが、許されることだとは思わない。

2)避難所で医師、看護師、社会福祉士などが、後方搬送が必要だと判断しても、その後に、時間を要する手続が介在するため、スムースな後方搬送を阻害する。

3)障害者や要介護者の受け入れは、相当な覚悟と能力を要する。送り出す側と受け入れ側に信頼関係がないと、被災者が安心できない。障害者を、受け入れ体制の整った地域に送り出すのに、コーディネーターに裁量権がないと細やかでスムースな救援ができない。裁量を追認する分かりやすいシステムがないため、機能していない。

4)個人で避難した被災者は、自分で被災県に連絡して、受入県に要請してもらう必要が生じる。被災県の担当者は超多忙であり、連絡することはまず不可能。結果として、独力で避難した被災者は救済されない。

 

3 観観産第660号 平成23324

 

「県境を越えた被災者の旅館・ホテル等への受入れについて」

観光庁観光産業課長から、都道府県観光主管課長あての文書。

 

「宿泊費用は受入県において」「負担していただいた上で」「受入県が負担した費用は被災県に求償されることとなり」「最終的には、国が被災県に対して、必要な財政措置を講ずることを予定しています。」

「全旅連」(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)が「受け入れ可能な旅館・ホテル等の情報を集約の上、観光庁に情報提供」(施設リスト)。「リストは、都道府県旅館組合が作成していますが、組合員以外の旅館・ホテル等であっても、当該施設が希望すれば、リストに掲載されることになっています。」「観光庁は、リストを被災県に提供」。これを「被災県は被災市町村に提供」。

「被災県は」「県外の旅館・ホテル等への避難が必要と判断した被災者の情報(以下「避難者リスト」という)を集約の上、観光庁に情報提供」「観光庁は、避難者リストを全旅連に提供し、」全旅連が「マッチングを実施」。

 

まとめ

 同業者の組合である全旅連が旅館・ホテル等のリストを作成。被災県が作成した被災者リストを使って、全旅連がマッチングを行う。

 

問題点

1)観光庁は権限と実務を全旅連に丸投げした。このため、利益相反が生じた。全旅連が、リスト掲載希望の受付や掲載作業を「丁寧に慎重に」行えば、加盟外の宿泊施設を実質的に締め出すことになる。実際、ある市の担当者は、ペンション、民宿は災害救助法の対象外だと信じていた。この影響は今も残っている可能性が高い。

2)利益相反があり、価格カルテルを誘発しかねない。

3)被災者、現場で救援活動をしている医療・福祉関係者、自治体職員の意見の痕跡すらない。役に立たない机上の空論としてよい。

被災者リストを迅速に作成する能力が、被災県にはない。そもそも、リストを作成してから避難させることに無理がある。避難を実施しつつ、結果としてリストが積み上がるのが緊急時の合理的な動きである。

 

4 震災で発出された良い文書例

 

事務連絡 平成2342

「東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震の被災者に係る被保険者証等の取扱い等について」

厚生労働省保健局医療課から関係団体あての文書

12の質問と回答が記載されている。具体的であり、現場で困らないように踏み込んだ配慮がなされている。以下にいくつか例示する。

問い1 対象地域は限定されているのか。

(答) 対象地域は限定していない。

 

問い2 患者の氏名、青年月日、住所等は、免許証等で確認しなければいけないのか。

(答) 免許証等を、紛失あるいは家庭に残したまま避難していることにより提示できない場合も考えられ、必ずしも身分証明書を提示いただく必要はなく、患者に窓口で口頭による確認することで足りる。

 

問い12 保険優先の公費負担医療(※)の対象者が、今般の災害による一部負担金等が猶予される患者である場合、保険医療機関は審査支払機関にどのように請求をすればよいのか。

(答)一部負担金等が猶予される患者は、患者負担がないことから、公費負担医療の対象とならず、全額医療保険に請求することになる。このため、レセプトは医保単独として扱い、公費負担者番号及び公費受給者番号は記載を要しない。

※保険優先の公費負担医療とは、特定疾患治療費(法別番号「51」)などの、本来、「公費併用レセプト」として審査支払機関に請求されるものをいう。

 

5 結論

 

 厚労省と観光庁の後方搬送の受け入れに関する二つの文書は、いずれも、被災者のためではなく、行政官の都合に合わせたものである。どれだけ多くの人を救えるかを運用の基準にしていない。官僚の責任逃れのための整合性追求が最優先になっている。現場の実情は一切考慮されていない。当然ながら、全く機能していない。不心得者が少数でるのは仕方がない。不心得者への対応は別に考えればよい。

とりわけ、観光庁の文書は、大災害時に発出された不適切な文書の典型例として、歴史に残すべきものである。

溝畑宏観光庁長官と鈴木昭久観光産業課長には、現場で1カ月ほどボランティアとして活動されることを勧めたい。

 

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