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災害時の医療すべてが正当業務行為

2011年04月10日(日)

井上清成弁護士さんの、MRIC記事を引用させていただく。
まさに現場主義。こうした判断力が多くの人命を救う。
現地も後方も、そして西日本もすべて正当業務行為と。 嬉しい!
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災害時の医療すべてが正当業務行為

 

井上清成(井上法律事務所 弁護士)

2011410日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

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1.大地震・大津波・原発事故

 

 東北関東大震災は、大地震・大津波・原子力発電所事故と連鎖した激甚災害であった。災害への対処は、岩手・宮城・福島・茨城の各県だけでできるものではない。東北地方・関東地方はもちろん、西日本も含めた日本国全体で当たらねばならないであろう。

 この間、特に災害医療がクローズアップされた。災害医療といっても被災地の直接の医療に限るわけではない。直接・間接を問わず、また、後方支援すべてを含むので、「災害時の医療」と呼んだ方が良いようにも思う。

 これら災害時の医療は、限られた環境の下で緊急のものとして行われるので、過少になることもあれば、時には過剰になることさえある。しかし、善意で行われたものであれば、非難されるものは一切なく、すべて正当な業務行為として評価されるべきであろう。そして、この評価は、被災地における直接の対処はもちろん、広くバックアップした日本全体のすべての医療に及ぼされるべきである。

 

2.正当業務行為と認める行政見解

 

 刑法第35条は、正当業務行為について、〈法令又は正当な業務による行為は、罰しない。〉と定めた。正当業務行為ならば、業務上過失致死傷罪で処罰されない。医療法・健康保険法・医師法・薬事法といった行政法規の違反に問われることもなくなる。形式的な法規違反があっても、実質的には責任追及されないし、むしろ、行政法規の要件を満たしたものと評価されることもあろう。

 すでに厚生労働省はいくつかの行政見解を出した。被災地で仮設の建物などにおいて診療を行うときに保険診療として認められる場合がある。被災者受け入れにより医療法上の許可病床数を超過しても入院基本料の減額対象とならない。被災者受け入れで入院患者が急増したり、被災地への職員派遣で職員が不足しても、入院基本料の施設基準の届け出をしなくて良いものともした。これらは医療法や健康保険法について保険局の発出した通知の一例であるが、医政局や医薬食品局によるものもある。

 医政局は個々の事例でケースバイケースとしながらも、医師法第19条の応召義務が解除される一例を示しているらしい。停電で医療機器が使えないときや、水道が供給停止していて医療ができないときには「正当な事由」があるとしているようである。

また、医薬食品局は、「今般のような大規模な災害で通常の医薬品及び医療機器の供給ルートが遮断され、需給が逼迫している中で、病院又は診療所の間で医薬品及び医療機器を融通することは薬事法違反とはならない」との通知を出した。

 

3.医療はそもそも「正当業務行為」

 

 未曾有の災害に対して、厚労省は医療法・健康保険法・医師法・薬事法などについて正当な運用指針を示している。ただ、もう一歩進めると、医療のそもそもの特質からすれば、それらの諸見解はむしろ当然すぎるほど当然のことであろう。災害時だからこそ際立ってはいるが、本質的には日常の医療と変わらない。

 刑法第35条にはすでに引用したように、刑罰に関して「正当業務行為」という免責事由が定められている。そして、これは刑法の刑罰に限らず、民法の損害賠償や行政法規の行政処分にも通じる一般的な原則といって良い。ちなみに、民法にも「緊急事務管理」という定めがある。民法第698条は、〈管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。〉と規定した。ここでいう「管理者」に医師を、「本人の身体」に「患者の身体」を、「事務管理」に「医療」を当てはめるとうまくフィットする。この緊急事務管理も、正当業務行為と並んで、医療の特質を良く表現したものと考えられよう。なお、念のため付け加えると、事務管理は民法第697条第1項に規定されている。〈義務なく他人のために事務の管理を始めた者(管理者)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(事務管理)をしなければならない。〉という。

 こうしてみると、医療、特に災害時の医療はまさに緊急事務管理そのものであり、それこそ緊急時の制約された条件の下での正当業務行為と評価すべきものである。

 

4.西日本も含めた後方支援

 

 災害時の医療は、当然、被災地での現地医療機関の直接の医療に限られない。被災地近くでの後方支援、さらには西日本にも及ぶ遠隔地からの後方支援そして遠隔地での後方支援も含まれる。現地派遣も重要であるが、患者受け入れはもっと重要になるであろう。その患者も、被災地での受傷に限らず、被災地に在住していた人々の既往の疾病こそが重要な課題となる。これらすべてを含めた後方支援が災害時の医療となっていく。一例を挙げれば、既往の疾病の保険診療の一部負担金も免除し、保険医療機関への100%の診療報酬の確保も必要となってこよう。

 現在、災害対策基本法や災害救助法・被災者生活再建支援法・原子力損害賠償法などの法律がある。しかし、この度の災害の甚大さの前では、これらの法律だけでは対処し切れないであろう。医療法・健康保険法・医師法・薬事法、そして、刑法や民法をも包括し切れない。すべての後方支援までをカバーし切れないのである。

 

5.現地も後方もすべて正当業務行為

 

 被災地在勤在住で頑張っている医療者、現地入りした派遣医療チーム、被災地近くの後方支援の医療者、さらに後方の西日本も含めた支援医療者、すべてが連携したものが災害時の医療といってよい。それらすべてにつき、医療法・健康保険法・医師法・薬事法などの行政法規や、刑法・民法などの一般法が、災害時の医療に適するようカバーされて修正されるべきであろう。正当業務行為や緊急事務管理の法理で修正を施すことが望まれる。

 そのためには国会が超党派で法律改正を行い、災害対策基本法・災害救助法・被災者生活再建支援法・原子力損害賠償法なども踏まえた特別措置法を作るべきであろう。

 

月刊『集中』20114月号から転載

 

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