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今週の日本医事新報

2011年09月26日(月)

医療界のメジャー週刊誌、日本医事新報と医療タイムスに毎月連載記事を書いている。
今日発売の日本医事新報では、「社会保障・税一体改革」について意見を述べた。
町医者視点からあまり誰も書いていないことを書かせて頂いたが、ご批判を仰ぎたい。
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町医者で行こう!

「町医者視点から見た社会保障・税一体改革」 長尾和宏

 

 社会保障国民会議以来進められてきた高齢化社会に対応すべき社会保障政策が、社会保障・税一体改革として6月30日に成案した。来年4月の医療・介護同時改定はこの政策を踏まえた改定になろう。偶然にも、この8月に日本慢性期医療協会の勉強会で内閣府の香取照幸氏の講演を拝聴し、意見交換する機会を得た。今回、町医者の視点からみた社会保障・税一体改革のうち医療・介護分野に関して4つの論点を提示したい。

 

1 2分化される開業医

 今回の改革で、近い将来、開業医は2分化されると予想する。たとえば関節リウマチ、睡眠時無呼吸症候群、ペインクリニックなどいわゆる専門医療のみに特化した診療所と、外来も在宅も行うミックス型診療所に2分化されるのではないか。むろん両機能も備える診療所もあろうが、長期的にみれば後者はプライマリケア機能をより高めることになろう。プライマリケア外来とかかりつけの患者さんの在宅医療を行う診療所を、プライマリケアクリニックと私は勝手に呼んでいる。今回の改革で「在宅医療拠点機能の強化」が示された。看護師やケアマネのみならず介護スタッフとの連携がさらに推進されるが、現在のミックス型診療所にとっては追い風になろう。一方、専門クリニックにおいてもその専門性を個別に見直し、充分に評価すべきである。

 

2 医療・介護規則の整合性確保が大前提

 大半の病院では医療保険のみだが、一歩外に出たとたんから、医療保険と介護保険の二本立てになる。しかし多くの病院医療者はあまり意識していない。開業医は好むと好まざると今後、介護保険に深く関与することになるはずだ。しかし医療保険と介護保険は、歴史的な経緯も違い、縦割り行政の結果、まるでパッチワークのような複雑な規則になっている。たとえば、地域ケアの中核を担う訪問看護は、医療保険と介護保険にまたがっていて大変複雑な制度だ。私はかねてから訪問看護制度の不備を指摘し、医療保険での統一を提唱してきた。医療法と介護保険法のすり合わせ無くして改革は無い。医療・介護保険の規則の整合性確保が一体改革の基礎となるべきだ。これ以上、複雑な規則の新設は事務処理を増やし現場を疲弊させるだけだと考える。

加えて医学教育に中に「地域ケア学」や「地域医療学」などの講座を設けるべきではないか。尼崎の看護学校では、アーリーエクスポージャーとして1年生から地域実習に入る。医学部もこれを見習うべきだろう。新臨床研修医制度の中にも、在宅医療の地域研修が組みこまれているが、もっと前倒しでもいい。さらに在宅療養支援診療所の要件に「教育機能」を必須項目として加えてはどうか。在宅ケアを推進するなら、それなりの意気込みで教育の大胆な見直しが必要ではないか。社会保障の抜本改革は、医療・介護教育におけるパラダイムチェンジと協働しないと不要な混乱を招くことになる。

 

3 慢性期の急性増悪には、療養病床の活用を

 医療と介護の連携のみならず、多様化する医療ニーズに対応できる地域医療システムの再構築が急がれる。そこで昨年「在宅療養支援病院」のポジショニングをより明確化する必要がある。筆者は病院が在宅医療を行うのではなく、あくまで在宅医を支援する病院であると理解している。しかし一部では、すでに在宅療養支援診療所と支援病院が競合関係になっており、若干の整理が必要であろう。在宅高齢者の在宅医療で最も困ることは、「慢性期の急性増悪」への対応である。急性期病院が満床のことが多く搬送先にたいへん苦労する。「慢性期の急性増悪」には、地域の療養病床の機能を高めてそこで対応した方が合理的である。医療ニーズが高い患者さんは医療療養病床へ、低い患者さんは介護療養病床へと機能分化をさらに明確化するべきではないか。介護療養病床は余計な医療は行わないが、緩和ケアはしっかり行う「場」として位置づけてはどうだろうか。以上のような我が国の医療制度を、マスコミを使って市民にしっかり啓発すべきだろう。

 

4 一体改革は、「終末期議論」と両輪で!

 石飛幸三先生の「平穏死のすすめ」がベストセラーになった。「ピンピンコロリで延命治療は御免です」が、国民の大多数の要望である。30年以上の歴史を持つ日本尊厳死協会には現在、12.5万人もの市民が会費を払い入会している。自らの意思で延命治療を拒否する「リビングニーズ」を医療者に提示するだけでなく「リビングウイルの法律的根拠」を求める活動も展開している。現在、国民が望む「平穏死」が叶う場は一体どこだろうか。私の経験では、在宅看取りはすべてが尊厳死であった。では、病院での最期の何割くらいが「平穏死」なのであろうか。と考えると、終末期医療における延命処置の中止議論はもはや待ったなし、であろう。

欧米においても、高齢化社会における延命医療が大きな社会問題となった。たとえばフランスでは2005年に延命医療の中止に関する「レオネッテイ法」が制定された。延命中止に関する具体的手順を示し緩和医療と協働することが謳われている。我が国では、まず認知症終末期や老衰における胃瘻問題から国民議論を始めると分かり易いのではないか。

さらに栄養、呼吸、そして腎不全(人工透析)の延命についても議論する。また老衰、神経難病、救急現場での延命中止も個別に検討すべきだ。認知症終末期に比較的安易に胃瘻が入れられる背景には、医療事故調や医師法21条の関与があることは明白である。これらの議論は少し時間をかけて国民とのオープンな議論を経るべきだ。いずれにせよ、「終末期議論無くして一体改革無し」と考える。医療経済学と社会倫理が車の両輪であるように、両者を一体とした改革案に、少し追加修正すべきではないだろか。

 

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