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胃ろうと医療経済
2012年05月12日(土)
日本消化器内視鏡学会のシンポジウム、胃ろうサミットを拝聴した。
胃ろう製造団体とも言える、この学会の専門医は、みな胃ろうの長所を強調された。
画期的なシンポジウムだったがまだまだ胃ろう問題の本質に迫れていないと感じた。
電話が鳴りっぱなし。
急変された患者さんの往診、救急搬送などなど。
また別の患者さんの往診などで、夜が明けた。
飛び込んだ土曜の外来は、混雑の極み。
飛行機に飛び乗り日本尊厳死協会の理事会に出席。
尊厳死法制化の現状、
世界連合、
協会の将来、などを話しあった。
その後、日本消化器内視鏡学会総会に参加。
「長尾がなんでこんなところにいるんだ?」と何人にも聞かれた。
私はこの学会の専門医であり、指導医、でもあるので参加するのが義務なんだ、と回答。
お目当ての胃ろうサミットを拝聴。
事前に充分な説明が必要だという意見が多かった。
大半が胃ろう推進論調に聞こえたのは私の錯覚か。
この学会は、胃ろうを造る側の職人の学会。
そんな学会の専門医が、胃ろうの悪口を正面切って言うはずはない。
しかし胃ろうキット会社がスポンサーのシンポにしては率直でいい議論だった。
いくつか新しく聞いたことがあった。
ひとつは、「自己決定権をしないという選択も尊重すべき」という意見。
そこまで言われると、うーん、と唸ってしまった。
そもそも日本人は元来そんな民族だし、そう言われれば、そうなのか?
難しい言葉で言えば、
「自己決定権」という言葉は、上から目線で暴力的なのか?
自己決定しないひとの権利を、批判することは本当にいけないのか?
家族が「自分は手を汚したくない」という自己決定を放棄した時、
現代の専門家なら、「胃ろう、やりましょうね」となる。
たとえ専門家でなくても訴訟回避のために、胃ろうを勧めるだろう。
医師自身の死生観にかなり影響される胃ろう問題。
私自身が医師の中では少数派であることを知った。
これは、消化器内視鏡医の中であるからなのか。
一般医の9割は、「自分には胃ろうはしない」と
答えている現実と、真逆の論調に感じた。
また今日のシンポで法制化の是非の議論は皆無だった。
この辺がこの学会の未熟さであるのだろう。
臭いものは見たくない、ということか。
でもそれで本当にいいのか?
制度の上に医療があることを
職能家集団として、もう少し意識すべきではないか。
とはいえ、画期的だった。
しかし遅すぎる、とも言える。
今からでも、最優先課題として取り組んで欲しい。
わずか数時間の間に
どちらかというと、認知症終末期への胃ろう推進派と、胃ろう懐疑派の
両極端の集会に参加している自分自身がどこか不思議に感じた。
東京滞在時間、6時間。
速攻で帰阪し、3件往診。
毎日が看取り。
死が日常。
日本消化器内視鏡学会サテライトシンポジウム
第3回胃ろうサミット 「胃ろうと医療経済」
司会 国際医療福祉大学 鈴木裕先生
長寿医療センター 鳥羽研二先生
「胃ろうの診療報酬の妥当性」
アルツハイマー病でも嚥下機能は最後まで結構保たれている。
過小でも過剰でもない栄養療法が必要。
最善の医療およびケアは保証されなくてはいけない。
胃瘻のない社会はいい社会か?
選択肢があることはいいことなのか?
介護施設での胃ろう患者の頻度
2000年では1%ものが、
2012年9.2%だった。
10年間で10倍に増えた。
胃瘻の医療費は2000億円、
介護保険も入れると1兆円にもなる。
・療養担当規則第17条
みだりに施術業者の施術に同意を与えてはいけない。
これをどう解釈するか。
しかし、胃ろうを中止すると1~2ケ月で亡くなる。
・療養担当規則第13条
懇切丁寧な説明をすべし
=本来はネガテイブな情報提供することも義務である
充分な説明があれば胃瘻は半分に減るのではないか
胃瘻の予後=1年生存率でみると
欧米40%
日本66%と日本は優秀。
胃ろうの医療費は年間、
医療100万円、介護費用は400万円。
ロバートバトラーは20年以上前に「何故老後は悲惨か」を書いた。
今こそ、選択と集中という考え方が必要ではないか。
東京慈恵医大 神経内科 鈴木正彦先生
「認知症への胃ろうの適応とジレンマ」
認知症終末期における胃ろうの意思表示をしている患者さんはほぼ皆無。
経静脈的な水分補給だけでは倫理的問題を払拭できないため
胃ろう増設の方向に至るケースが多い。
造設の利点
ご家族にとってはたとえ寝たきりになっても
面会できる期間が延長するため、生きがいになる。
今後、認知症終末期医療に大きな変化が生じる可能性がある。
在宅死=平穏死=自然死という構図がイメージできる。
「介護職員の経管栄養、その実際」
老健 長浜メデイケアセンター 山口珠緒先生
胃ろう難民の増加は、介護施設の看護師不足が主因。
看護職員数で、胃ろう受け入れ人数が決まってくる。
介護療養病床 6;1 看護師17人
老健3:1 看護師9人、が必要。
夜間の看護師の配置基準はあるのは介護療養型のみで
老健や特養には、看護師の配置義務は無い。
特養の実態調査では
夜勤看護師がいる施設は、わずか 1,7%
全体の74%はオンコールで対応しているのが実態。
看護師が出勤する8時からしか胃ろうがスタートできない。
特養における医療的ケアの需要が増大している。
4月から、研修を受けた介護職員が
喀痰吸引、経管栄養をできるようになったのだが・・・
認定特定医療行為研修を受けた職員が
登録事業者の施設においてのみ実施できる。
厳しい基準と義務が課せられていて、
小さな事業者は登録事業者にはなりにくいのが現実。
看護師の確認と医師への報告が必要。
朝の胃ろうは、介護職員の実施は難しい。
喀痰吸引 胃ろう
看護師の賛成 90.7% 67%
介護の賛 77.6% 43%
介護職員の不安が大きい。
施設における胃ろうの問題点のひとつは
医療の栄養剤の時は食費がとれない
チューブ抜去の不安
施設側のメリットとしては
誤嚥性肺炎の減少
食費の負担で増益も可能
今後の課題としては、
看護師の確保
地域一体型のNST活動。
「往診いろう交換プロジェクト」
群馬大学教育学部 吉野浩之先生
PEGカテーテル交換200点
但し、X線や内視鏡のない場での交換はダメ
そのために病院に依頼する機会が増えている。
外来のひとコマがまるまるPEG交換にあてられる場合や
透視室の予約がいっぱいのこともある。
そこで在宅での交換を推進している。
地域でPEGを支える
=前橋胃ろうネットワーク
パスの作成
在宅PEG交換を、
ネットワーク事業として位置づけた
在宅での交換支援
在宅交換の問題点
合併症の予防
直接確認、PEGスコープ(集団購入)
経済効果について
在宅交換では 7900円
在宅では 3500円
=PEG在宅交換は経済効果もある。
療養環境を良くすることが患者さんを幸せにする。
Q今後、胃ろうはどう進むべきか?
A
丸山 今までは酷かった。
ゆっくり話せば差し控えをする患者さんもいる。
摂食嚥下障害治療の流れの中での胃ろうであるべき。
鳥羽 摂食嚥下トレーニングとセットでの胃ろうであるべき。
自己判断できない場合の胃ろうは保険適応外にしてはどうか。
良心的な医師が増えれば胃ろうは少なくなるかも。
制度での締め付けも必要かもしれない。
鈴木 人工栄養の適応の見直しが必要ではないか。
地域との情報交換が必要。
山口 今までは確かに胃ろうを造りすぎた
医師は予後を早くからしっかり説明すべき
胃ろう中止の制度化は必要
吉野 小児領域では、まだ経鼻栄養が多い。
胃ろうはもっと積極的にやるべきではないか
Q 食べる見込みが無くなった人を国はどう面倒をみるべきか?
A
丸山 PEGをしなかったら、今度は点滴が増えて困る。
PEGをしないなら点滴もしないとすればいいのか。
鳥羽 家族は死を先延ばしする傾向がある
家族が自然死に手を貸すことになることを嫌がる場合があり。
胃ろう問題は、むしろ家族の問題ではないか。
お薬の種類なら、
療養型では5種類、老健では2種類になり、
患者さんは元気になったという。
鈴木 地域に応じたend of lifeの手引書が必要ではないか
山口 胃ろうがあることで、笑顔がみられるいい部分もある。
胃ろうで誤嚥性肺炎を繰り返すことの医療費が削減できる
吉野 制度で縛ると不幸なひとを作るのではないか
ネットワークのなかで考えるべき
医師が参加せざるを得ない仕掛けが必要。
胃ろう患者さんの半数が2年生きれることが分かっている
=胃ろう中止は、患者切り捨てにならないのか?
PEGのみだと医療区分1にしかならず病院の収益性が悪い。
TPNなら、医療区分が3=受け入れが歓迎される。
医療制度の都合で、胃ろうになってみたり
TPNになってみたりでは、患者さんが不幸。
現在、TPNだったら高い医療費が取れるという矛盾。
現に「抗がん剤患者とTPN患者しか取らない病院」が存在する。
飯が食えてもTPNにすると儲かる制度はおかしいのではないか。
薬剤や機械に対してペイすると言う発想自体が間違っている。
日本は、TPN技術や抗生剤のラインアップは世界一できた。
しかし今、その反省期にある。
私の質問
「自分自身が認知症終末期になった時、胃ろうをするか?
また親ならどうか?」
・自己決定権の無い生き方というもあるのではないか
・元気な時とイザその時では、気持ちが揺れるかもしれない。
・父親ならしないが、母親にはする
・迷惑がかかるからという考えはおかしい
・自分は寝たきりでも生きて欲しいと言われるパパでありたい。
・誤嚥性肺炎を繰り返すなら胃ろうにして欲しい
結局、
胃ろうの適応については、疾患別のガイドラインが必要ではないか!
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この記事へのコメント
いつもお疲れ様です。
私もこれからは先生の強行東京出張を見習わせていただきたく思います(笑
一つ質問があります。
私の知る範囲では、胃瘻が誤嚥性肺炎を予防するということはいまだ証明されていないように思うのですが、先日の学会ではもう常識としてそういう認識なのでしょうか?
そこのところの問題は意外と大きいのではないかと思います。
Posted by みどり病院 清水 at 2012年05月13日 09:52 | 返信
死ぬ時は、冬山で凍死するか、「空海のいる風景」の空海さんみたいに、絶食して、徐々に死にたいです。
Posted by 大谷佳子 at 2012年05月14日 01:07 | 返信
アルティメット ドクター & USMLE トレーニング /アルティメット メディカル プロフェッショナル
(内科医、外科医、歯科医など)
医療専門にフォーカスしたディスカッション。循環器科医は循環器科学についてディスカッションする。一般医療については話さない。泌尿器科医は泌尿器科学についてディスカッションし、癌医療については話さない。
外国人患者と日本人患者は全く違う。
あなたは知っていただろうか?
外国人患者は、躊躇せず質問し詳しい説明を求めてくることを。
外国人患者は、診察前に自分でインターネットなど様々な方法でリサーチすることを。
外国人患者は、セカンドオピニオンを求めることを。
外国人患者に自信を持って対応できる能力を学ぼう。
外国人患者と信頼関係を築ける方法を学ぼう。
クライアントの業種に合った完全オーダーメイド。テキストの使用なし。
アンセル・シンプソン
ザ ソクラチック レビュー
Posted by アンセル・シンプソン at 2012年05月14日 02:17 | 返信
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