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平穏死に積極的な施設

2012年05月20日(日)

産経新聞5月19日朝刊に掲載された「平穏死シリーズ第3回」は、
平穏死に積極的な介護施設のことを書かせて頂いた。
積極的な施設と、「とんでもない」という施設とに二分化している。

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平穏死シリーズ第3回   看取りに積極的

             正面玄関から見送る介護施設

 

 高齢の在宅患者さんを訪問しているといつも言われます。「先生、早くお迎えが来て欲しいわ!」「先生、ポックリ死なせて欲しいわ!」「先生、延命治療だけは御免やで!」。みなさん、異口同音に平穏死を願っておられます。しかし、現実には寝たきりに近くになるとご家族が老人ホームや介護施設を手配してくれます。目が飛び出るようなお金を負担して親を豪華な施設に入れることが最大の親孝行だと信じておられるご家族が、少なくありません。私が力を入れている在宅医療はまだまだ認知されていません。介護保険があってもご家族への介護負担が相当あるからです。本当は独居患者さんの在宅医療ほどやり易いものはないのですがこんな単純な事実も世間はもちろん医療界でもあまり知られていません。


 さて、認知症終末期になり嚥下困難に陥ると施設側から胃ろうを勧められることがよくあります。胃ろうは病院だけが好んで造るだけではありません。施設側からも食事介助の手間が大変なので胃ろう造設を要望されるケースが増加しています。胃ろうは当初は確かにいいんです。胃ろうで栄養状態が良くなり床ずれが治る。するとまた口から食べられるようになるという好循環に。しかしいつかはまた食べられない時期が来ます。結局、一旦始まった人工栄養という延命治療は、もし本人や家族が中止したいと願う時期が来ても誰も止められないのがいわゆる胃ろう問題の本質です。日本では不治かつ末期と判断された時、本人の意思が書面等で明示されていれば中止しても構わないという法律がありません。そのために施設で不治かつ末期となった時に平穏死を望んでも叶わない傾向にあります。

 東京の清水坂あじさい荘という特別養護老人ホームは看取りに積極的な施設です。入所者が亡くなると正面玄関から出て行きます。昔から病院では亡くなった人はこっそり裏口から出るのが慣例です。そんな常識を覆すかのように御遺体をセレモニーとして正面玄関から送り出すことは最初は大変勇気のいる行為だったでしょう。しかしそれを見守った入所者さんはショックを受けるどころか、むしろ安心されたそうです。「私も死んだらみんなにこうして見送ってもらえるんだ」、「ここは本当に最期まで面倒を見てくれる場所なんだ」と、怒るどころか安堵したと聞きました。しかし入所者が肺炎になれば即刻、救急車で病院に入院させる施設が大半です。私が考えた理由は3つ。まず、施設には医療が無いので何が起こるか分からず不安なので単純に、怖い。だいいち重症者のお世話をする人手が慢性的に足りない。さらに万一結果が悪かった場合ご家族から訴えられる可能性がある。そんなこんなで、施設から病院への救急搬送はよくあることなのです。もし延命処置に積極的な病院に入ったら最後。フルコースの延命治療を受けることになります。延命治療を望む人には喜ばしいでしょうが、望まない人にとってはとても可哀そうな終末期となります。


 考えてみれば介護施設ほど天国に近い場はありません。一見元気に見えてもいつ逝っても不思議では無い。そんな場にいても死は遠い非日常。その現実に違和感を覚えるのは私だけでしょうか。しかし中には清水坂あじさい荘のような施設もあることを知っておいてください。平穏死できる施設も現実にあるのです。

 

キーワード 特別養護老人ホーム

体上または精神上、著しい障害があり介護保険制度で「要介護」の判定が出た人が利用可能な老人福祉法上の老人福祉施設の中の一つ。略して「特養と呼ぶ。

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