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ショートステイ中に訪問看護が入れない

2012年06月10日(日)

在宅医療は、訪問看護が命。
しかし、ショートに入ると入れず、施設のスタッフも困っている。
医療と介護の連携というが、医療保険制度と介護保険制度の連携から始めて欲しい!
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認知症で寝たきりの夫を介護する奥さんにがんが見つかった。
その手術のために入院されたので、夫はショートに預けられた。
しかし慣れない環境で大暴れ。

施設の職員からSOS.
周辺症状のお薬や、インスリンの調節もあるのに
普段の訪問看護師が、訪問できない、摩訶不思議な規則。

コミュニテイケア2月号に書かせて頂いた文章を再掲する。
お役人さんには、なんとか改善策を考えて頂きたい。


ショートステイ先になぜ訪問看護が入れないのか!?

長尾クリニック 長尾和宏

 

 在宅療養を継続するコツは、ショートステイを上手く利用することです。しかしショートステイ中の患者さんが急変した場合、従来からの訪問看護が入れず困ることを時々経験します。本稿ではそうした事例を示すとともに、今後の訪問看護の在り方について在宅医の視点から述べさせていただきます。

 

    ショートステイの急変に、訪問看護が入れなかった2つの事例

特養や老健などの介護施設にショートステイ中の患者さんに関して、よく電話がかかってきます。施設の介護者は、発熱、便秘、脱水などの状態変化に対する不安が大きいのです。ショート先からの電話の頻度は在宅より多い印象です。例えば点滴が必要な状態になった時には、訪問看護師が入れずに困ることを時々経験します。施設に看護師が配置されていても、施設看護師による医療行為が内部規定で禁止されていたり診療報酬の算定ができないからだと思います。実際は嘱託医の指示で施設看護師が点滴を行うこともあるようですが、どこにも請求できません。以下、2つの事例を提示します。

 

事例1 Aさん、68歳、皮膚筋炎(膠原病)に伴う寝たきり状態、全介助、要介護5

ショートステイ前に食欲低下と体調不良があったがバイタルサインに変動がないため経過観察とし、翌日よりショートステイ開始となる。しかしショートステイ中に食欲低下と飲水量低下があると施設看護師より訪問看護ステーションに連絡が入った。介護保険での訪問看護師は施設に入ることはできないため、在宅主治医である私に訪問を依頼された。私が訪問するまでの間に腹痛も出現し気分不良が持続した。しかし私も診療中の為すぐには訪問できず数時間の待機時間は施設にも負担だったようだ。自宅に戻れば訪問看護師が入ることが出来たが、急な帰宅にはヘルパーの導入が対応できず、もうひとりの要介護者もいるため、施設の看護師にとりあえず経過観察を依頼した。しかし夜間はヘルパーの対応のみとなり、頻回の電話がかかり指示を出した。本人と家族は延命処置や入院を希望せず、3日間施設に往診し点滴をしたが全身状態がさらに悪化し、結局そのままショートステイ先での看取りとなった。看取りには8年間関わってきた訪問看護師が入ったが、訪問看護等の諸費用の保険請求は制度が分からないため行わなかった。

 

事例2 Bさん 84歳 高度認知症による寝たきり、全介助、要介護5

老健にショートステイ中に、40度の発熱があるとの連絡を受けた。しかしご家族が旅行中のため帰宅もできず在宅主治医が往診。採血データと携帯エコーの画像から「急性胆のう炎」と診断。数件の病院に入院を打診したが、高度の認知症があるという理由ですべて断られた。普段入っている訪問看護師が連日施設に点滴に入り、炎症反応は沈静化、全身状態は回復した。しかし5日間の訪問看護費も薬剤費とも保険請求できず、持ち出しとなる。6日目に家族が帰宅し、無事、家に帰れたが、施設側の看護師もその間の対応に相当苦慮したようだった。その施設には一応嘱託医がいるとの話だが、高齢のため実際には何もできないとのお話だった。結局、嘱託医と連携することもなかった。

 

     なぜ、ショーツステイに訪問看護が入るとよいのか

以上の事例のようなショートステイ中の急変に対しての対応は、医師より看護師の需要のほうがはるかに大きい。肺炎や脱水などの診断は医師の仕事だが、その後の医療行為については、できれば看護師さんにお願いしたい。また普段接している訪問看護師が看た方が患者さんの特性をよく把握しているため、患者さんの安心感ははるかに大きいはずです。また認知症などで向精神薬も服用している場合、体調により看護師の裁量でお薬の増減をする場合がよくあります。服薬管理は本来、訪問薬剤師の仕事でしょうが、現実にはそこまで望めず、多くの場合看護師にお願いすることが多い。この役割も普段をよく知る訪問看護師が対応した方が、患者さんの利益になると思います。すなわち在宅においては、訪問看護師は実質的にNurse Practitioner(NP)の役割を果たしている場合が多い。認知症と言っただけで入院を断る病院が多い現実の中、認知症を基礎疾患に持つ寝たきり状態の患者さんの肺炎に対応する機会が増えています。ショートステイ先で抗生剤の点滴を行わざるを得ないケースが増えています。超高齢・多死社会において、必要時に医行為を行い易い制度に修正されることを期待します。

認知症は精神病院から地域へという潮流の中、認知症の在宅療養を選択するご家族が増えています。しかし介護が長期間に及ぶため、介護疲れ、介護うつに陥ることが懸念され、最近では介護者の支援も重視されています。また介護保険下でのショートステイのみならず、自費でのお泊りも都市部では増えてきています。いわゆる「お泊りデイ」と呼ばれる形態も生まれ、レスパイトケアは多様化しています。しかしいずれの形態にせよ、ショートステイなどのレスパイトケア中の急変に、自宅と同様に訪問看護師が入れるよう、制度の柔軟性が望まれます。

 

    訪問看護ステーションは、ショートステイ施設にどう働きかければいいのか

現行法では「在宅中重度者受入加算」の範疇で訪問看護ステーションと特養が契約すれば、介護保険制度下で訪問看護師が訪問できる仕組みになっています。また、末期がん患者には医療保険下での訪問看護が可能となっています。しかし、これらの制度や意義が十分に周知されていない現状下では、介護保険下の訪問看護の場合、施設側の持ち出しになるため施設側が躊躇したり、ステーション側も遠慮する場合が多々あります。ショートステイ利用者のみならず施設入所者においても、施設での医療需要は高まる一方です。「介護施設だから医療は要らない」という発想では対応不能な場合もあり、在宅と同様、継続して訪問看護が入れる制度に整備することが望まれます。

では訪問看護ステーションは、ショートステイ施設にどう働きかければいいのでしょうか?増え続けるさまざまな医療ニーズ(胃瘻・気切・HOT・ストーマ・インスリン・抗がん剤管理など)に対する、訪問看護ステーション機能の公表から始まるのではないでしょうか。診療所や在宅医の機能公表もかなり進んできました。行政、医師会、社協、マスコミなどを通じた情報公開に期待が高まっています。また施設側も、嘱託医やそこで対応可能な医療処置を情報公開すべきではないでしょうか。そのうえで両者が、看護の連携に関して話し合う機会を、各地域で持つべきでしょう。

 

    在宅医としてショートステイ中の訪問看護に何を望むか

来春に予定されている医療・介護報酬の同時改定の概要が明らかになってきました。社会保障・税一体改革に基づく医療・介護分野の目玉はやはり「地域包括ケア」です。ひとつの街がひとつの病院になるのです。中学校区が、ひとつの在宅療養の単位、いわば「見えない病院」になります。在宅医療が、今後も大きな柱になることには変わりありません。一方、がんと非がんでは、在宅療養の期間が全く違います。非がんの在宅療養においては介護者を休めるレスパイトケアの充実が必須です。そのためには、ショートステイの活用がさらに啓発されるべきです。医療依存度が高ければ、当然、訪問看護が鍵を握ります。特養、老健には施設の看護師が配置されていますが、普段関わっている訪問看護がショートステイ中の急変にも関われることが望まれます。施設看護師とステーションの訪問看護師との看看連携が在宅療養継続の大きな鍵になるはずです。休日・夜間など、施設看護師が不在の時間の急変対応も大きな課題です。仕方なく在宅医が往診し自分ですべて対応しているのが現状ですが、訪問看護師が外から入れるとどんなに助かるでしょう。話が少しそれますが、グループホーム(GH)や有料老人ホーム入居者の主治医を頼まれることがあります。基本的にはこれらは在宅医療であり、全て「外付け」のはずですが、実情は運営企業お抱えのケアマネや訪問看護ステーションが入っています。あるGHで、施設看護師さんに便秘の患者さんの浣腸をお願いしたところ「看護師はいますが、医療行為は禁止されていますので、先生がしてください」と言われました。配置看護師による医療行為については、施設間でかなりの差があるようです。私の知る限り、そこに看護師がいても医行為はできず、バイタルサインチェックのみを業務とする施設看護師や特別な関係にある訪問看護ステーションが多いように感じます。本来の看護から遊離しています。そこでは、利益確保が優先しているように感じます。しかし「営利優先」は、医療・介護分野にはなじみません。そのしわ寄せは、在宅主治医やボランテイアの看護師、それを雇用している経営者に行っています。

あまり表には出ませんが、GHや有料老人ホームの介護職からの、緊急電話はとても多く、気軽に往診を求められます。もし看護師機能が充実していれば、もう少し効率的な施設ケアが可能になるはず。看護機能の充実は終末期ケアに深く関係します。誤嚥性肺炎が疑われると、すぐに病院に入院させるなど外部に「丸投げ」する施設が多いようですが、その結果、胃瘻をはじめとする延命措置患者さんが急増しています。本人の意思に反して、あるいは意思不明のまま、家族も十分な説明を受けないまま「延命医療」へと移行しています。これらは、施設やショートステイ中における看護機能不足にも起因していると私は思います。

介護施設は医療依存度が低く落ち着いた患者さんが対象なので、医療は要らないとなっています。しかしたとえ老衰であっても最期は肺炎を起こしたり何らかの緩和医療を要する状態になります。レントゲン1枚撮れない介護施設で最期を迎えることを受容する国民はまだ少数派だと思います。介護施設の再編とそこでの看護機能の充実こそが、本格的な多死社会に必要な施策ではないでしょうか。疲弊せず長続きさせることができる地域包括ケアの実現。このコペルニクス的転換に必要な施策とは、ショートステイの充実、特に訪問診療と訪問看護など医療の完全外付け解禁だと思います。

看護師の職場として、病院の外来看護師、病棟看護師、施設看護師、訪問入浴の看護師、訪問看護師等があります。当然それぞれ制度も役割も違います。密接な連携が必須ですが、制度により分断されているという側面もあると思います。それぞれの看護師が充分連携できる施策、すなわち看看連携の推進が今後の「地域包括ケア」の鍵を握ると確信しています。

 


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この記事へのコメント

変な話ですね~。とっても心が凍るような現状です。そんなにひどいのですか・・・。老健・特養のショートステイでなぜ在宅医を呼ぶのでしょうか?提携病院・協力病院が必ずあるはずです。老健の医師は常勤のはずです。看護師だって配置されています。彼らは何してるんですか?高齢で役に立たない医者を置いてどうするんですか?長尾先生がどうしてその医者の穴埋めをしなくてはならないのですか?グループホームだって開設時に協力病院を明確にしなければ認可されないはずです。長尾先生の体、いくつあっても足りないです。もう、おかしい。施設は怠慢!プライドなさすぎです。それで、介護福祉士に医療行為の一部をさせるんですよ。業界はその講習でやっきになっているんです。たった50時間の講習で、もちろん“医師の許可のもとに”という但し書きはあるものの、今の状態だったらなんでもさせちゃえ~、になるようで恐ろしいです。介護福祉士も「私たち、ミニナースになれるわぁ」なんて喜んでいる場合じゃあない。生活を支えるのが本来の役割なのに・・・。「医療行為も生活支援の一部と考えて下さい」なんて日本介護福祉士会の偉いさん達は無理無理こじつけています。医師会・看護協会は一体、どう考えているのでしょうか?介護福祉士が誕生した時、看護師は自分たちの領域が侵されるといって憤慨したと聞いています。そのプライドはどこへ行ってしまったのでしょうか?あ~あ、滅茶苦茶。

Posted by 岡村ヒロ子 at 2012年06月11日 08:40 | 返信

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