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「在宅医療」から「地域包括ケアシステム」へ

2012年06月23日(土)

今週発売の「日本医事新報」に連載中の拙文を、転載させていただく。
「在宅医療」という考えは、もう古いし、狭いのだ。
正しくは「地域包括ケアシステム」の一員として頑張るべきなのだ。
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町医者で行こう6月号 
「在宅医療」から「地域包括ケアシステム」へ 長尾和宏http://www.nagaoclinic.or.jp/picture_library/media/nihniji120623.pdf

 

2度目の「在宅医療元年」

2006年に「在宅療養支援診療所(在支診)制度」が新設。全国10万の医療機関のうち1万2千が登録した。しかし年間に1例でも看取りをしている診療所が半数にも満たず、それらは「名ばかり在支診」と指摘された。6年が経過した今春、「機能を強化した在宅療養支援診療所制度」が新設。「常勤医3人以上」との条件は、複数の診療所のみならず在宅療養支援病院(在支病)との連携でクリアしてもいいとの通達により、全国各地で在宅医療の診診連携が模索されている。地域医療連携の推進という観点からは、ある程度の効果は得られるだろう。2006年は在宅元年と言われたが、2012年春も同じ言葉が使われている。ということは、医療制度は分化・複雑化したものの、肝心の中身はあまり変わっていないようにも思えてくる。

 「ザイタク」という言葉はもはや有名になったが「在宅医療」はいまだ国民や永田町ではほとんど認知されていない。第一に、在宅医療の診療報酬は、一般の外来診療と区別されていない。高点数を根拠に行われる個別指導は、当然、在宅医療を行う施設が選ばれる。これだけ強烈な在宅誘導政策を打ち出す一方で、厳しい個別指導で締め上げる政策はまさに「飴とムチ」とも言えるのではないか。一方、政権が変わってもこれだけブレない医療政策は珍しいという見方もできるが、肝心の土台すらまだ完成していない。病院勤務医から見れば、地域のどの診療所が在宅医療を行っているのか全く知る由がない。逆紹介すらままならない地域連携システムではあるが、一般市民からみれば全く「ザイタク」の情報が無い。「在宅診療科」という目印が無いからだ。

 今春も再び「在宅医療元年」という標語が闊歩した。正確には、「2度目の元年」と呼ぶべきだろう。強化型在支診制度が本当の意味での「元年」の起爆剤となることを希望する。

 

住まいと医療・介護サービスの分離

都市部ではサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が続々と建設されている。地域包括ケアの根幹は、「住居」である。そうした住まいと医療・介護サービスを分離しての医療政策が推進されている。在宅療養の場は、①住み慣れた我が家、②サ高住、③グループホームや有料老人ホームなどの施設系、の3類型に多様化している。「ザイタク」という概念は、時代とともに絶えず変化している。そんな中、国土交通省と厚生労働省という役所の垣根を越えた多職種連携で、国は時代の波を乗り越えようとしている。

在宅医療も、おのずと「場」と「専門性」を意識した形態に分化している。末期がん専門の在宅医、神経難病専門の在宅医、認知症専門の在宅医・・・。本来、総合医療、統合医療であったはずの在宅医療にも、容赦なく専門分化の波が押し寄せている。今こし「ザイタク」本来の趣旨との整合性を確認したい。

 

今こそ全ての訪問看護を医療保険に

 訪問看護師が在宅療養システムにおける「主役」であることは、もはや論を待たない。しかし全国の訪問看護ステーション数は伸び悩んでいる。若い病院看護師を対象に、訪問看護の楽しさを伝える講演の機会が時々ある。「ザイタク」に興味はあるものの、皆さん飛びこむのは怖い、という。怖いといえば、「最近の看護師は死を怖がる」とある看護大学の教授がボヤいておられた。果たして若い医師も同様かもしれない。こうした医療従事者の志、マインドの問題とは別に「訪問看護制度」の改善について少し私見を述べたい。

 先日「分かりにくい訪問看護制度」と題した新聞記事を目にした。介護保険下の訪問看護は1割負担なのに、末期がんだと医療保険になるため3割負担と3倍高くなり、困っている患者がおられるとのこと。「だから訪問看護師を全て介護保険にすべきだ」と結論されていた。

私は、逆だと思う。訪問看護をケアマネッジメントの中に入れたことが、そもそもの間違いではなかったかと繰り返し主張してきた。昔の訪問看護は入浴サービスなどのヘルパー業務と重なる部分が、たしかにあった。しかし現在は、医療依存度の高い在宅患者さんが増え看護需要は増大する一方だ。医師の指示書だけで動ける訪問看護制度に戻して欲しいと願う。どうか2000年以前に戻して欲しい。おそらく多くの「午後から在宅」組の先生方もそうお考えではないだろうか。訪問看護をもっと自由度の高いものに早急に戻すべきだ。末期がんにおける訪問看護のように「包括制」も現実的な方策であろう。いずれにせよ、地域包括ケアの牽引役として訪問看護師のさらなる活躍に期待している。

 

「在宅医療」から「地域包括ケアシステム」へ

私は「在宅診療科の新設」を提言してきた。レセプト単価の高い透析科と同様に、保険審査も「在宅診療科」というカテゴリー内で行うべきではないか。患者視点からも「在宅診療科」新設の意義は高い。自分が在宅医療を依頼しようと考える診療所が果たして従来型在支診、単独型強化型在支診、連携型強化型在支診の一体どれであるのか、誰もが知りたいところだ。なぜなら医療費が、各々でかなり異なるからだ。夜間に急な発熱で往診を頼んでも、普通の診療所、従来型在支診、強化型在支診では、自己負担額が最大2倍も違ってくる。市民から「一物二価」とのそしりを受けないような工夫が早急に必要だ。そのためにも、今こそ「在宅診療科」という看板を掲げることを真剣に議論すべきではないか。

超高齢化を社会で支える政策としては、もはや「在宅医療」という視野では狭くなった。「地域包括ケアシステム」という視野で論じられるだろう。

医療・介護・福祉の連携はもちろんのこと、行政、企業、NPO、市民も加わっての多職種連携での「地域包括ケア推進委員会」を各自治体に設置し、地域の実情にあった、地域包括ケアを模索すべき時だろう。医師会活動が活発な地域では医師会が、活発でないところは在支診や行政が音頭を取って、推進すべきだ。形式より実のある「ケアシステム」をどうすれば造れるのか。ITの活用と顔の見える関係が両輪であろう。超高齢化という大きな波を乗り越えるために地域での「つどい場」作りを模索したい。

 

 

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この記事へのコメント

そんなことだから、各専門職が勝手な主張をしてバラバラになってしまうのでは・・・。
医療保険だろうが介護保険だろうが金の話は二の次。
まずは、主役は高齢者の生活なのだ。医者が主役の時代はすぎ、ありがたく福祉や医療を受ける時代はすでに過去のもの。
医療費を安くするのならお好きなように・・・国民の負担はどのみちますばかり勝手な事ばかり言わないで!

Posted by ののはな at 2013年09月18日 08:57 | 返信

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