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「終の信託」を試写会で観た

「愛で、医療で、殺人だ!」

2012年09月02日(日)

周防正行監督の最新作「終の信託」の試写会に行きました。

http://www.tsuino-shintaku.jp/

草刈民代、役所広司、大沢たかお、などの豪華俳優陣です。

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この映画は終末期医療がテーマです。

しかしそこには愛が描かれています。

周防監督らしい、社会性の高い作品。

「終の選択」とはリビングウイル(LW)のことです。

この映画をきっかけにLWが普及してくれたらいいな

と、日本尊厳死協会副理事長の私としては思いました。

10月27日公開予定の映画ですから、多くは書けません。

しかし原作もありますから、内容をご存知の方も多いはず。

是非、みなさまに観ていただきたい映画だと確信しました。

パンフレットの最後には、、

「愛か?医療か?殺人か?」と書いてありました。


以下、独断と偏見に満ちた私の感想文です。
御参考までに。

「終の信託」を観て    平成24年8月31日  長尾和宏

 本映画はリビングウイルや尊厳死を扱った、おそらく日本では大変貴重な映画であろう。但し、それぞれの単語は映画のなかでは、1回ずつしか登場しない。

 

2時間25分と長い映画であるが、前半の医師と患者の関係性の丁寧な描写は、後半からクライマックスにかけての女医と検事の台詞の重みを持たせるために必要なものである、と終わりがけになって理解できた。

 この映画は、観る人によって様々な見方ができるだろう。ざっと思いついただけでも約20通りもの視点があるのではないか。実話(川崎協同病院事件)をもとにしている点は、非常にリアリテイと説得力がある。

 役者さんの熱演も光る。特に検事役の大沢たかおの演技を評価したい。彼はアドリブではないのか?と想わせるくらい自然で迫力のある会話だった。最後に女医を逮捕したあとの彼の仕草に正義が読み取れた。主役の2人の熱演ぶりは、あらためて語る必要は無いだろう。

 

 この映画は、尊厳死の映画ではない。尊厳死させようとしたら患者が息を吹き返したので慌てて、安楽死を通り越して殺人に至った事件を扱った映画だ。尊厳死と安楽死と殺人が見事に直線状に並び得るということを証明した映画でもある。映画会社的には、愛の映画だろう。周防監督らしく根底には「愛」が確かに流れている。

 女医が尊厳死させようとしたまでは倫理的に問題は無い。しかし慌てて瞬間的に殺人に変容した点をどう見るかという映画だ。医者的には、彼女がした行為は全くの殺人と言われて返す言葉が無い。これを世間のみなさんが尊厳死と間違われたら大変なことだと思いながら観ていた。

彼女は、息を吹き返した時点で何もしないでただ見ていればよかったのだ。あるいは再挿管して仲間と相談すれば良かったのだ。要するに「待てなかった」のだ。現代医療、特に病院医療は「待つ」ことができない。待つ、ただ待てばよかったのだ。自然に任すとは「待つ」こと。「待つ」ことの大切さを改めて教えてくれた、という見方もできるだろう。

だから検事の言うとうりだ。ただ、この程度の「ゆらぎ」は医療現場では毎日、いくつも起こっている。もしくは、類似の殺人も起きている。と書けば、物議をかもすだろうか。言いたいことは、その程度の「ゆらぎ」を、現代社会や法律がどう扱うのかという問題が提示された、という点。

 メインテーマは愛とのことだが、医療の原点はこのような愛である。その愛とは、人間愛のこと。患者と医師の関係は、人間愛につきる。しかしそんな当たり前の前提が、現代医療では全く崩れている。私はこの映画に、愛というモチーフは正直あまり感じなかった。当たり前のことだと感じているのだろうか。私が感じたのは、医者の判断の「ゆらぎ」。誤解を恐れずに言えば、この映画程度の「ゆらぎ」が医療現場の日常であることを多くの人に知って欲しい。この映画は我々の日常。決して特殊な事例ではない。

 パンフレットには、「愛か、医療か、殺人か」と書かれていた。私はそれを見た瞬間に「愛で、医療で、殺人だ!」だと思った。すべてアンドで繋がれるのが本物の医療であると再認識させてくれた映画であった。

 以下、20の視点で論じてみよう。

 私の勝手な妄想ですので、ご参考までに。

1 日本医師会の視点

  このような安楽死、殺人は断じて認められない。だから医学会のガイドラインが必要だ。そしてそのガイドラインの周知が大切。この映画のような行為は医師のモラルでは絶対に許されない。そういう啓発の映画でもある。

2 日本呼吸器学会の視点

 この映画は、決して気管支喘息という非がんの終末期の映画ではない。低酸素脳症、あるいは遷延性意識障害に対する尊厳死を描いた映画。いくら病悩期間が長くても気管支喘息で尊厳死を想定することはない。適切な治療を施せばQOLはそこそこ維持できる。気管支喘息という病気を世間に誤解させる可能性がある。

3 日本救急医学会の視点

 救急救命処置と延命処置の線引きが問われる映画。ただ、どこで線を引いたのかはっきりしない。延命治療中止のガイドラインや線引きがやはり重要ではないか。

4 日本尊厳死協会役員としての長尾としての視点

 これを尊厳死と間違わないで欲しい。この映画で描かれているものは、きついようだが単なる殺人でしょうがない。ただ他に何かいい言葉があれば教えて欲しい。安楽死を通り越している。しかしリビングウイルの重要性が見事に描かれている。口頭では無く文書で表明してほしい。文書でのリビングウイルを啓発するには絶好の映画だ。尊厳死法制化にも大きな追い風になるだろう。

5 喘息患者会の視点

 重積発作にはもっともっとういい対応策がある。薬物療法や理学療法など、もっと打つ手はあったと思う。25年という病悩期間だけで、尊厳死はあり得ない。喘息は適切に治療すれば治る病気であることを多くの人に知ってもらいたい。

6 在宅医としての長尾の視点

 この映画は病院医療の象徴でもある。生活の中に喘息という病気があるのだが、家庭での生活の様子が全く描かれていない。在宅医療では、喘息治療の主役は訪問看護師である。コモンデイジーズである喘息を、医師が一人でやろうとするとこのような結果になることがあり得る。生きること=楽しむこと、という視点が無い。キュア視点のみで見るとこのような落とし穴に入ってしまう。在宅医療では、このようなことは、まづ起こり得ないのだが。私なら、あの状態で家に帰す。死ぬことが前提であるのなら。在宅医の視点からは、病院という場がなさしめた事件だと思う。信条は痛いほど理解できるが、落とし穴に入ってしまった。在宅医療では普通の、「待つ」ことができなかった。

7 尊厳死法制化議連の視点

 尊厳死素案にあるリビングウイルと2人以上の医師の認定、家族の同意という項目の意義がこの映画を観るとよく分かる。もし法制化法案が可決されれば、このような無理な尊厳死は起こらないはずだ。議論と法制化を急ぎたい。

8 日本緩和医療学会の視点

 この映画には、緩和医療という言葉がまったく登場しないのは残念だ。少なくとも尊厳死を論じるならば、どこかでもう少し「緩和」という言葉が出てきてほしかった。この患者は消極的自殺したとも言える。どう考えてももう少しなんだかの緩和医療があってしかるべきだった。特にスピリチュアルペインという言葉の重みをもう少し主治医は感じて欲しかった。病院の医療は建物は立派だが、緩和医療はまだまだだ。

9 日弁連の視点

 「末期」という言葉の定義ができない限り、やはり尊厳死法制化は難しいのではないか。また、このような事例があったらといって、決して法制化が正当化されるものではない。人生の終末期にはご家族との話し合いをもっと大切にすべきだ。

10 難病連、バクバクの会の視点

 尊厳死法制化が行われると、合法的にこのような殺人を犯す医師が必ず増えて、我々のような社会的弱者はますます虐げられる可能性がある。だから尊厳死法制化には絶対反対である。その根拠が示された映画でもある。

10 更年期の医師を考える会の視点

 女医は2とうりに分かれる。結婚して子供を産み、半分家庭、半分医業という女医と、生涯キャリアウーマンという女医だ。後者は、中年以降、更年期障害に悩んだり、慢性的なメンタル不調を訴える可能性がある。そのような女医がもし部長などの管理職についた場合、不調が増幅する可能性がある。女性には失礼だが、かなり狭い視野でしか考えられない中年女医もいる。実はそれは男女を問わない。男性更年期もある。

医師は若いうちは、いい。年寄りになっても枯れて味が出てくる。中年期の医師に中には、多少のうつ状態に陥る医師もおる。この映画は、そのような中年医師が陥り易い落とし穴を描いたものでもあるのではないか。

11 医師と患者の関係性を考えるNPO団体の視点

 この女医は非常に良い医師だ。ただ患者の心に寄り添いすぎた結果、少しばかり道を踏み外しただけだ。医業停止が解ければ、また地域に戻って医師として頑張って欲しい。最近には珍しい患者想いの大変いい医師が描かれている。しかしこんな結末になり大変残念だ。

 もうひとつ。この患者の子供さんが気になる。親が心肺停止になっても診にも来ない。親子関係の希薄さが気になる。しかし親が亡くなれば訴訟を匂わせたのだろう。よく言われる「遠くの親戚問題」と同じだ。日本の医師は、医師―患者間のみならず、医師―家族との関係性にも充分配慮しなければならないことを示した映画でもある。

12 医療事故調関係者の視点

 なぜ直接検察に行ったのか?警察は介入したのか?内部告発があったのか?

いずれにせよ、このような場合は、いきなり警察を入れずに、院内で関係者同志が納得のいくまで話し合えば大半は解決するのではないか。そうすれば、せっかくの良医があのような形で逮捕されることも無かったはずだ。

13 普通の患者の視点

 一見優しそうに見える女医さんでも、想定外のことが起きた時、判断を誤ることがよく分かった。また、延命治療を中止して死なせるという選択肢が現実にあることに驚いた。今後、終末期問題が重要になるという言う事がよく分かった。また法律の整備も必要ではないかと思った。あれで殺人罪とは、ちょと可哀そうすぎる。

14 普通の国会議員の意見

 もし尊厳死法制化で線をひいてしまうと、このような阿吽の呼吸の尊厳死がやりにくくなるのではないか。法制化後は、2つのルートの尊厳死ができる可能性がある。法案に合致した尊厳死と、阿吽の呼吸の尊厳死。もっともこの映画で描かれたのは、殺人だから論外だが。

15 医療倫理を教えるある医学部教授の視点

 延命医療からQOL医療へのパラダイムシフトが必要だ。しかしそれを教える人材が医学界に全くいない。この映画を研修医全員に見させて、20ページ以上の感想文を書かせたい。それを分析して、進むべき診療科目をアドバイスしたい。同様に、医学部の2次試験としてこの映画を見せて議論したい。結果は問わない。視点や問題意識によっては、いくら学力テストの成績が良くても医学部入学を許可しないように入学制度を変えていきたい。

16 欧米の尊厳死協会幹部の視点

 気管チューブを抜いて、あのまま亡くなっていれば普通の「尊厳死」であり、なんの問題も無い。しかし充分や説明や同意なく、注射で殺したのであれば、本来必要な安楽死の手続きを怠った罪に問われよう。

17 宗教界の視点

 自然に死を迎えるならともかく、薬剤で人工的に死なせる行為は仏教の教えに反する。

またキリスト教的にも、神の教えに逆らう生き方であるのでこの医師は裁かれるべきだ。

18 老人会会長の視点

 長生きしたら、本人が望むなら、このような安楽死させてくれれば助かるという老人が多い。この女医さんはなにも悪くない。昔はこんな医者ばかりだったが、今はほとんど見ない。老人にとっては、理想的な医者ではないのか。ワシはこんな美人で優しいお医者さんに看取られたい(笑)。

19 厚労省の視点

 日本医師会と日本救急医学会のガイドラインの周知が大切である。ガイドラインを遵守しておれば、このような事件は二度とおきないはずだ。再度、周知を徹底するとともに、法制化について現場の意見を広く聞いていきたい。

20 私(長尾)の視点

 このような「ゆらぎ」は、医療においては日常に近い。それが許容されないなら、そんな医師にかからないで欲しいとしか言えない。この映画は、「医者も普通にこれくらいの過ちを犯す」ことを示している。亡くなった患者さんは主治医を恨むどころか天国で感謝し、愛を持って主治医を見守っている。医療とは本来このように閉ざされた関係性の中での納得行為に過ぎない。それ以上でもそれ以下でもない。

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※本ブログは転載・引用を固くお断りいたします。

この記事へのコメント

「独断と偏見に満ちた私の感想文」の「勝手な妄想」をとても楽しく読ませていただきました。長尾先生がこんなに多岐にわたり「人間そのもの」にご配慮のある方と改めて知り、ほんとに嬉しく楽しく読ませていただきました。私のお気に入りの俳優、大沢たかおさんが出ているというだけで…観てみようか…とも、思いますが…。(彼演じるドラマ「仁」の医師役の姿は圧巻でしたから…)私は、病院で働くMSWです…この映画、なんの問題意識も持たずに観てみたいと思いました。なぜ?って…既に先生の「勝手な妄想」の21の視点を読んだだけで…かなり重い重い問題意識を植え込まれた感じですので(^^)
豪華俳優演じるところの、周防監督狙うところの「愛」だけを感性的に捉えるためだけにでも、楽しく?観に行ってみようかと?!

Posted by あい at 2012年09月03日 02:21 | 返信

私も、前宣伝や他の方の試写会感想から、感じていた考えていたことのいくつかを長尾先生が20の視点、勝手な妄想の中で書いておられます。  封切り前に観てみたいと9月19日の試写会を申込みしたら、以下のような特別試写会があるそうです。
 ご参考までに、以下引用します。(会場は、7/3のシンポジウムがあった場所ですね。) http://www.tsuino-shintaku.jp/
*******************************
 10月1日「法の日」を記念して、『終の信託』特別試写会を行います。上映後には、日弁連の山岸憲司会長、元フジテレビアナウンサーの菊間千乃弁護士を交えた、周防監督とのトークセッションも予定しています。奮ってご応募ください。
 日  時:2012年10月6日(土) 13時~16時30分(開場12時30分)
 場  所:弁護士会館2階講堂クレオ
 内  容:『終の信託』試写会、トークセッション(周防正行監督×山岸憲司×菊間千乃)
 応募締切:2012年9月23日(日)
 共  催:最高裁判所・法務省・最高検察庁・日本弁護士連合会

Posted by ゆいゆい at 2012年09月06日 01:19 | 返信

たった今、みてきたところです。

心に重くのっかかる映画で、映画評のように「愛うんぬん」とは思えず、たくさんのもやもやがたまりました。
が、このブログで、いくつかのもやもやが晴れました。
同時に、周防さんの素晴らしさ、こういうところを切り込む執念?、を感じました。

長尾先生のアンテナすごいですね。20を超える視点ですか。
試験とかに使うならば、質問は、21こめの視点(妻でも息子でもご近所さんでも会社の同僚でも)を問いたいです。

またじっくり考えてみます。ありがとうございました。ブログに感動したので、とりいそぎ御礼まで。

Posted by こばしりさん at 2012年11月23日 02:45 | 返信

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