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抗がん剤を教えてくれた患者さん
2012年11月24日(土)
産経新聞兵庫版にも毎週、抗がん剤で書いている。
11月17日の産経新聞から転載させていただく。
産経新聞「抗がん剤シリーズ」第2話 抗がん剤治療の効果は?
抗がん剤を教えてくれた患者さん
抗がん剤という治療法は、がんに本当に効くのか?どのくらい効くのか?こんな素朴な疑問がたくさんあるでしょう。私の経験では、効くがんと効かないがんがあります。その効き易さは「感受性」とも言います。また同じがんでも時期によって効き方が違ってきます。最初は効いたけれど、やっているうちに効きにくくなった。これを「耐性」と言います。バイ菌に使う抗生物質も、長期間使っているとだんだん効かなくなるのと似ています。
私と抗がん剤の出会いは27年前でした。私は、医者になって1年目から抗がん剤を使いました。半年もしないうちに白血病の患者さんの主治医になりました。大学病院に緊急入院できない患者さんが送られてきました。大晦日に入院してきた患者さんは、私と同じ年でした。歯茎からの出血が止まらないとのことで、近くの医者で採血。異常を指摘され、白血病の診断がついた状態で大学病院を経由して紹介されてきました。顔色は真っ青で、口の中には点状出血が沢山ありました。血小板が5千しかない!通常は、20~30万です。すぐに血小板輸血が必要ですが、年末年始で血液製剤が足りません。元旦の朝から、ご家族を連れて血液センターに採血に行きました。こうして集めたものを輸血しました。赤血球や血小板の輸血で、正月明けには全身状態が少し安定しました。そこから抗がん剤治療を開始。その患者さんには抗がん剤という選択肢しかありませんでした。白血病は抗がん剤が効くがんとして知られています。連日、先輩専門医の指示に従い、抗がん剤を打ちました。正確には点滴と内服の抗がん剤を組み合わせる治療法です。それが当時の標準治療でした。
しかしその若い患者さんは再び、食べられなくなり衰弱しました。もちろん栄養補給の点滴も並行して行いました。そして先輩医師から教えられたメニューどうりの抗がん剤を投与しました。2~3週間後には、貧血になり頭の毛が抜け落ちて、どんどん衰弱していきました。定期的な骨髄検査で抗がん剤の効果を評価しました。骨髄検査とは胸骨や腸骨に太い針を刺して骨髄液を採取します。一瞬、痛い検査です。当時、私は数人の白血病患者さんを受け持っていたので毎日毎日、骨髄検査を行っていましたのでこの手技が上手くなりました。しかしその患者さんには残念ながら、抗がん剤はあまり効いていない印象でした。骨髄検査から見ても腕からの採血所見から見ても効いていないのは明らかでした。
その患者さんは一度も落ち着いた病状を得ることなく、結局3ケ月後の早朝、静かに旅立たれました。亡くなられる3時間前に、大量に吐血されました。焦って薄暗い部屋で一生懸命に輸血をしました。ポタポタ落とす点滴では間に合わないので、注射器で血液を押して入れました。そうしている最中に呼吸が止まりました。気がつけば思わず馬乗りになり、心臓マッサージをしていました。両親に死亡宣告をしながら、私も泣いていました。
抗がん剤というものがどんなものであるのかを、医師になって初めてその患者さんに教えて頂きました。抗がん剤は、人を衰弱させ、髪の毛が抜けることを知ったのです。その患者さんのことは一生忘れません。もし今、生きておられたら私と同じ年のオッサンです。(続く)
キーワード 白血病
血液のがん。急性骨髄性、急性リンパ球性、慢性骨髄性・・・などいくつかの種類に分かれる。それぞれで治療法が異なり、治療成績や骨髄移植ができるかどうかも違う。一方、胃がんや肺がんは、固形がんと呼ばれる。
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