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がんの反撃
2013年01月25日(金)
がんの残党激しくが反撃したのだ。腫瘍マーカーが下がったからといって安心できない。
産経新聞1月19日掲載の抗がん剤シリーズ第8回から転載する。
抗がん剤シリーズ第8回 抗がん剤に対するがんの反撃
腫瘍マーカーの低下と延命効果
「抗がん剤で腫瘍マーカーが下がった!」と喜び勇む患者さんは、誇らしげに自家製の折れ線グラフを見せてくれました。あんなに苦しい思いをした代償として腫瘍マーカーが低下することは良い知らせです。上がるよりは下がるほうがいいに決まっています。治療を拒否しているがん患者さんの腫瘍マーカーは当然、徐々に上昇しますが、どこかで止まることもあります。稀に何もしなくても自然に下がることも。なにかの間違いかなと思う時もありますが、2~3ケ月連続で下がると本物です。また腫瘍マーカーの動きは決して一定ではないことに気がつきます。ちょうど台風の進行速度が変化するのと似ています。
さて、抗がん剤で腫瘍マーカーの値が下がったと安心するも束の間、すぐに息を吹き返すがんもよくあります。しかも以前にも増す「勢い」であることも。腫瘍マーカーの動きをグラフに書いてみると、「抗がん剤で下がった時」よりも、「治療を中止した後に上がる時」の勾配のほうが「急峻」であることがあります。結局、その患者さんは、あっという間に旅立たれました。亡骸を見ながら、その患者さんの抗がん剤治療の経過を振り返ります。「腫瘍マーカーが下がって喜んでいた」時の笑顔が鮮やかに思い出されます。しかし、あの笑顔はいったい何だったんだろう?とも。腫瘍マーカーの低下と延命効果は、必ずしも一致しないケースを何度も経験しました。実は、がんと抗がん剤の闘いは、単純なゲームのようにいかないようです。もっと複雑でその時々によって、戦局が変化するのです。
抗がん剤にやられっぱなしだったがんが、何かの拍子で反撃に転じた時の勢いに、すさまじさを感じることがあります。もはやその時には最初に効いた抗がん剤は無効になっています。がんを攻撃する時は、そうした「反撃」をも覚悟する必要があります。MRSAなど抗生物質耐性菌や、タミフル耐性インフルエンザウイルスなどを連想してください。実はそうした現象を、外科手術のあとにも経験しました。
胃腸風邪のような腹痛で初診されたその患者さんのお腹にエコーを当てました。肝臓の奥の方に2cmの影を発見。専門病院に紹介したらやはり「肝臓がん」でした。お酒も飲まず肝炎ウイルスも陰性でした。直径2cmの肝臓がんに対して外科手術が行われました。しかしわずか2ケ月後に、両肺に転移巣が発見され再び切除されました。しかしその2ケ月後には脳と骨への転移が判明。結局、最初の手術から半年後にその患者さんは亡くなられました。2cmの肝臓がんを見つけて喜んでいました。しかしこのような結末を迎え、私自身も非常にショックでした。実は、最初の発見時にすでに全身に転移していたのです。おそらく血液中からも、がん細胞が検出されたのでしょう。手術した肝臓がんの組織を調べると珍しい「低分化型」でした。低分化型とは「タチが悪い」という意味です。そのようながんは、たとえ2cmでも立派な進行がん。いや、進行がんどころか、発見時にステージⅣだったのです。このようにたちの悪いがんに対して闘いを挑む時は、逆襲も覚悟しておく必要があります。実は、そうしたがんの世界にも、厳しい上下関係があるのです。詳しくは次回に続きます。
キーワード 腫瘍マーカー
がん組織から血液中に放出される物質で、がんの大きさや進行度とある程度相関する。大腸がんのCEA、肝臓がんのAFP、膵臓がんのCA19-9、卵巣がんのCA125、前立腺がんのPSAなどが有名。
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