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全否定は患者も医者も幸福にしない

2013年03月26日(火)

医療否定本が売れている。
売れていいのは著者だけ。
患者と現場は困っている。
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ひどいめまいで初診した50歳代の男性患者さん。

血圧が250/140、LDLコレステロールが250、HBA1cが13もあった。
冗談ではなく、死ぬ寸前だ。

一番弱い降圧剤と血糖降下剤だけを処方した。
コレステロールの薬は、敢えて出さなかった。

食事療法と運動療法を詳しく説明した。
管理栄養士による栄養指導も行った。

その3週間後、また同じ症状を訴えて、妻に抱えられながら
診察時間の終了直後に倒れこんできた。

また血圧が、250ある。
3週間前と同じ状況だ。

聞くと、2つの薬は、3回飲んで捨てたという。
それどころか、なんと、「あの薬のせいでこうなった」と、文句を言いだした。

ベストセラーになっているあの医療否定本を私に見せながら、
「長尾先生の薬でこうなった、どうしてくれる」と怒りだした。

もちろん、100%、あり得ない話だ。
しかし、その患者さんも家族も、100%否定本を信じ切っている・・・


30分間、その薬のせいでないことを説明したが、
全く理解できず、どうどうめぐりなので、諦めた。

多くの往診患者さんが待っているので、席を立とうとすると、
その患者さんは、こう言った。

「先生、じゃあ、私はどうすればいいんのか?」

「だから、とりあえず、少量の薬を飲んでください。
 そこからしか始まりません」

「いや、あの否定本には、薬は飲むなと書いてあるので絶対に飲みません!」

どこまでも堂々巡りで、興奮しているので、職員も看護師も帰れない。
待っている在宅患者さんの顔が浮かび、焦る。

結局、前回、私が薬を出したことに激怒して、会話のみで帰られた。
医師として誠心誠意、対応した、否定本の威力にはかなわなかった。

きっと日本中で、このような不毛な会話が交わされていることだと想像する。
その膨大な損失を考えたらその医師はもっとリテラシーを知るべきだと思う。

もし、助かる命が本当に失われたら、遺族は一生、その本を恨むだろう。
本の影響力は凄い。
医療に関する本は、そこまで考えて出すのが、モラルではないかな。

医療否定本の罪は、実に重い。

医療で助かる患者を、確実に殺している。

患者も医療者もスタッフも、誰も幸せにしない。
みんな被害者。

患者が殺されないために、と言いながら、自分が患者を殺している。

幸せなのは、印税が入る著者だけ。


どうしてこうなるのか。

情報は、万人に正しく伝わるとは限らないからだ。
時には、筆者が想定しない伝わり方をする。

とくに、著者の意図以上に、出版社は衝撃的なタイトルをつける。
なにせ商売だ。

誰がどれだけ、迷惑しようが、
その患者さんが今夜死のうと、著者の出版社も責任を問われないから、こうなる。

国家騒乱罪という罪名がある。
私は、医療騒乱罪と命名したい。

医療は、社会保障の柱、基盤。
それを、混乱させて喜ぶだけの愉快犯。

罪が深い、と思う。
なんとかしてほしい。

ちなみに私自身は、できるだけ公平な立場で書いているつもりだ。

参考までに、延命治療が良くない、なんてどこにも書いていない。
いつ止めるのかを、自分で決めることが大切なことを説いている。

胃ろうが悪いなんて、どこにも書いていない。
胃ろうという素晴らしい道具を、上手く使う方法を書いた。

抗がん剤が良くないなんて書いていない。
いつ止めるのかが問題だと、書いてきた。

また、患者もよく勉強して、自己決定することを
繰り返し繰り返し、書いたり、話したりしている。

だから患者からも支持されるし、医療者からも支持われる。
自画自賛になるが、そんなつもりで取り組んでいる、

とにかく、否定すれば本は売れる。
世の常だ。

売れたらそれなりの、社会的責任が生じる。

損をするのは、その本を買った本人だ。






 

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この記事へのコメント

いつもブログを楽しみに読んでいます。
お忙しい中、情報発信をして頂けていること、本当に心から感謝しています。

6月に山梨に来られると言う事を知って、嬉しくて仕方がありません。
先生の講演会を聞く事が、今の私にとって、大きな目標になっています。
遠い未来の目標ではなく、今の私が踏ん張れる目標です。

抗がん剤治療をしていると、抗がん剤は止めた方が良いです…と言って下さる方が居ます。
ただちに抗がん剤を止めて、食事療法やサプリメントを使いなさい…とアドバイス下さる方が居ます。
それはそれで、大変ありがたいご意見だと思います。
抗がん剤に懲らしめられている(笑)様子を知って、アドバイスしてくれているのですから。

でも私は続けられる時期まで、続けて行こうと思っています。
気持ちが落ち込んでしまう時は、主治医に相談して休薬期間を延長したり、クールを一回お休みしたりしながら、頑張り過ぎない抗がん剤治療を受けて行こうと思っています。
私にとっての抗がん剤治療と言うのは、ガンと共に生きて行く道を探すための手段の1つなのです。
抗がん剤が魔法の薬だとも思っていないし、使い方を誤れば猛毒になる事も分かっていて、その上で主治医と相談しながら、手探りでより良い道を探しています。
そういう意味で主治医の先生にも、掛かりつけの先生にも恵まれました。
今の私は、「抗がん剤で治る!」なんて期待は、全然していません。
寛解することはあるかもしれないけど、それでも完治はしない事も理解しています。
治る事への期待が大きければ大きいほど、結果を求めてしまいます。
だから私は治療に期待をしません。
治療に対して、主治医に対して、そして何よりも自分の生きるチカラに希望を持つだけです。

絶望の中から見つけ出した希望は、全否定するそれよりも遥かに、しなやかでいられると思います。
ヘタレ節全開になる時もあるけれど、それでも私なりに見つけた希望は簡単には捨てないつもりです(笑)

Posted by SONWAI at 2013年03月26日 11:24 | 返信

能勢口のジュンク堂を帰りにチラッと覗くと一番目につくところに医療否定本が立てかけられて山積みになっています。題名だけ見れば内容はだいたい想像がつく本が多いです。
私も否定本は勿体ないので買いません。ただ、今はどういう事で「釣ろう」としているのか知るために立ち読みやアマゾンのレビューで調べることはあります。
そういいつつも、個人的には過度の医療は受けたくは無いのが本音ですが、それはあくまでも自分の体の声に耳を澄ました結果自己責任での自己決定でいきたいですね。
誰それさんの本にこう書いてあったと必要な対処を怠ることは預かりものの大事なカラダに申し訳ないです。

Posted by チズ at 2013年03月26日 11:38 | 返信

長尾先生、お久しぶりです。大谷佳子です。
私は、元職鍼灸師で、ケアマネジャーのつもりですが、医師でもないし、癌専門でもないので、癌治療についてはさっぱり、分かりません。
●この3月2日(西宮の介護学会)の前日の土曜日に、兵庫県民会館で、兵庫県介護支援専門員協会主催の県民フォーラムの「緩和医療.終末期医療の現場から」と題して、緩和医療専門医の大津秀一先生の講義を2時間受けました。
大津先生の理想の緩和医療は、「癌と、診断された時から、原因治療(抗がん剤)と同時に、緩和医療(モルヒネ等の医療麻薬)を少しずつ増量させると言う事と(長尾先生は仰るように)抗がん剤が効かないと分かった時点で、抗がん剤を徐々を、減らしていく。と同時に、医療麻薬は徐々に増やしていく、言うお話でした。
そして、抗がん剤が効かないと分かった時点で、突然、抗ガン剤を止めると言う治療は旧来型の治療ですとのことでした。
ここまではは、私の効き間違いでなければ、ケアマネジャーだけでなく、県民の皆様に対して、お話になった内容の概略です。

●その後、NHKの、関西熱視線で、「癌幹細胞」と言う概念が出て来て、抗がん剤を用いて、癌幹細胞を死滅させるには、幹細胞の表面にある特徴的なたんぱく質CD44Vの働きを、抑えると、活性酸素の攻撃に弱くなるを発見した。しかし。その物質を研究開発中であるとのことでした。

●それが、3月25日(月)の朝日新聞によると、その物質とは「潰瘍性大腸炎の治療薬として長年使われているスルファサラジンという飲み薬で、このたんぱく質の働きを抑えることもみつかりました。」と書いてありました。
以上は、ケアマネジャーでしかない私には、理解を超えています。
もし仮に、この癌幹細胞と、スルファサラジンの組み合わせが正しいとしたら、これまでの癌治療は近藤誠先生や、長尾先生の、抗がん剤を使う事をやめる方針が正しいと言う事になります。
●それと、私は長尾先生が白衣を着た、衣料否定者と、仰るのは中村仁一先生か、長尾先生の事かと思っていました。「大往生するなら、医療にかかわるな」という本」を書いていらっしゃいます。長尾先生もある意味、広義での医療否定者に入っていらっしゃるのではないかと、勝手に考えていました。
白衣を着た医療否定者が近藤誠先生の事なら、そうハッキリ仰って下さい。
私は頭が悪いので、分かりません。
近藤先生が、成人病全般についても、いろいろ批評していらっしゃるのは、昨日「成人病の真実」を購入して、はじめて分かりました。
●これらの事は、医療学会で、もっと時間をかけて、議論して頂いて、冷静に、客観的に、あくまで患者さんの為に、意見を統一して頂ければ、うれしいです。

●それから、指図がましいとは、存じますが、御著作を発表なさる前に、長尾先生のブレーンで、よく討論して、とくに、「平穏死という親孝行」は、医療というより、家族介護の問題のパーセントが大きいと私は、思いますので、御家族の本音をアンケートで取って
(患者さんと家族自身)の意見としての本を、発表されることを期待しています。
誰かに、「長尾先生とどういう関係?」と言われたのは、私の不徳と存じて、多少長尾長尾先生に批判的に、申し上げてしまいました。失礼を、おわびします。
これからも、お元気で、お活躍下さい。

Posted by 大谷佳子 at 2013年03月27日 03:00 | 返信

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