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平穏死のための制度面の諸問題

2013年12月28日(土)

平穏死のためには制度についても知っておかねばならない。
もちろん様々な課題がある。
先月の日本医事新報に書かせて頂いた記事から引用。
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日本医事新報11月号   平穏死のための制度面の諸問題  長尾和宏

 

平穏死するなら在宅療養が一番

 末期がんでも認知症でも、終末期に過剰な医療を行わないことが平穏死の必要条件である。平穏な最期を願う多くの患者さんの希望が確実に叶う場といえば、現時点では在宅療養が一番お勧めとなる。急性期病院で平穏死の講演をこれまで10回ほど行ったが、「大学病院で最期に輸液をしないことなんてあり得ない。うちの病院では平穏死は無理です」とキッパリと言われたことが何度かある。もっとも在宅医側の事情としても終末期の輸液に関する考え方は多様化している。経験豊かな医師はあまり輸液をしないが、若手の在宅医は多くの病院同様、ギリギリまで相当な量の点滴をしている場合がある。よく聞くと病院からの指示だったり家族の希望だったりする。ベテラン在宅医は家族を納得させられても、まだ平穏死に自信がない若手在宅医には難しいのかもしれない。

一方、おひとりさまの在宅療養は、平穏死には極めて好都合だ。なぜなら平穏死の大きな阻害因子である家族がいないから。朝一番にヘルパーが入ったら亡くなっていた!なんてケースを何例か経験した。あまりにも荘厳な最期に思わず涙が出た。反論もあるだろうが、孤独死と平穏死は実は隣り合わせなのかとも思った。さて本稿では、ほぼ確実に平穏死が叶う在宅療養を取り巻く制度上の課題について触れてみたい。

 

入院時から介護保険を視野に入れる

 急性期病院は医療保険だけの世界ある。しかし病院の門を一歩出た途端に、医療保険と介護保険の2本立てになる。病人から生活者に戻るからだ。しかし病院の医師は医療保険だけでも手一杯で介護保険にまで気が回らないのは当然かもしれない。そこは地域連携室のMSWや介護保険の専門家であるケアマネさんの出番である。在宅療養が見えたら家族はまず評判の良い在宅医と親切なケアマネさんを見つけておくことが大切。入院すれば、そこで死なない限り必ず退院するので、入院時から退院後の準備を始めて欲しい。

病院勤務医のなかには介護意見書を書かない、もしくは書けないという人がいる。生活している様子を見たことがないので、当然かもしれない。そのためだけにわざわざ自宅を訪問する医師はまずいないだろう。コメデイカルスタッフはせめて介護保険の申請の仕方や、いいケアマネの選び方を早めに指南してあげて欲しい。

 日本医事新報の平成24年9月29日号(第4614号)に「在宅看取りと医師法20条」という小文を書いた。その中で「医師法20条がおおらかな在宅看取りを保障してくれている」とする一方、「同法の根強い誤解が平穏死を阻害している」とも述べた。在宅死=警察沙汰?と思っている人が、医療・介護関係者の中にもいまだ相当おられる。看とりに必要な法律の正しい理解が、平穏死の啓発に欠かせないことを改めて強調したい。

 

訪問看護制度の正しい知識

在宅療養の先にある「平穏死」に必要なものといえば、訪問看護である。たとえ在宅医が不足していても、良い看護師さんさえいれば在宅療養は可能であると考える。医師の役割は小さいほどいい。訪問看護が在宅療養成功の鍵を握っていることに、もはや誰も異論は無いはずだ。しかし忘れてはならないのは、訪問看護制度は、医療保険と介護保険の両方にまたがっているという現実。末期がんや神経難病なら医療保険で訪問看護ができるが、たとえば認知症だけなら介護保険でしか訪問看護が入れないなど、結構複雑な制度になっている。しかし病院の医療者はそんなことを知らないので、単純に「訪問看護もお願いします」とだけの指示が出る。しかし肝腎の介護保険申請がされていないことがある。

先日、余命いくばくもない人の退院時に、1日4回のインスリン注射を指示した専門医がいた。「訪問看護師さんに注射をお願いします」と。病棟看護師と同じイメージで訪問看護を理解しているようだ。訪問看護は医療か介護の制度に上手く乗らないと入れないことを知って欲しい。そのためには、まずは良いケアマネ選びが大切だ。要介護5であっても肝心の訪問看護が全く入る余地がないケースを時に経験する。介護事業所のケアマネがついた場合、ホームヘルパーさんが毎日3回入ると、そうなることがある。

 ただ、肺炎などの急性増悪の場合は、特例で医療保険で訪問看護が入れることになっている。医師が特別指示書を書くと2週間X2回=計4週間まで訪問看護が医療保険で入ることができる。しかし制度が複雑すぎて訪問看護の利用を諦める開業医もいる。筆者は数年前から、「すべての訪問看護を医療保険に!」と主張してきたが未だ実現できていない。病院医療者には、是非、訪問看護制度について少しでも知っておいて頂きたい。

 

在宅療養に関する自己負担への助言

 在宅療養にかかる費用は高い!と思っている人が多い。たしかに病院は、医療と介護のゼット料金だ。しかし在宅は、医療と介護と自費(介護保険分)の合算料金となり、合計額に得心がいかない家族は経済的理由で在宅療養を断ることがある。また生活困窮者は、経済的理由で在宅医療や在宅介護を拒否するケースも増えている。考えてみれば在宅医療にかかる費用だけでも診療所の届け出だけでも3類型もあり、患者側からすれば不明朗会計そのものだ。在宅療養には医師、看護師、ケアマネ、ヘルパーをはじめ様々な職種との契約、押印が必要であり、それだけで嫌になってしまう家族もいる。

末期がん患者さんには生命保険会社のリビングニーズの生前給付を、膝や腰が悪い人には身体障害者認定の申請を、また経済的困窮者には窓口負担免除の適応などの指南をするMSWなどの相談員を常駐させる在宅クリニックもある。もし利用できる社会制度を一元的に家族に教えることができれば、あるいはファイナンシャルプランナーのような助言者がいれば家族はどんなに安心して、平穏な最期を看守ることができるだろう。

平穏な最期を希望して在宅療養を選んだとしても、実に様々な社会制度との関わりが必要だ。いくら多職種連携が叫ばれても制度は縦割りであり、患者さんの希望を叶えるまでの道は平坦ではない。患者さんの平穏な最期をプロデユースする人がいたらいいな、なんて思うことが増えて来た。近著「抗がん剤・10のやめどき」は、そんな想いで書いた。

 

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