産経新聞５月２４日（土）掲載分からの転載です。

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産経新聞・胃腸シリーズ第４話　　　機能性デイスペプシア
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　持続するみぞおちの痛みや不快感
 
　みぞおちに痛みや不快感を感じて医療機関を受診されたことがあるかと思います。あるいはお腹が張る、食欲が無い、吐き気が続くといった症状のことも。みなさん「胃潰瘍かな？いや胃がんじゃないかな？」と思われるでしょう。しかし胃透視や胃カメラなどの検査をしても異常なし、胃袋の裏にある膵臓を腹部エコーで調べても異常なし、などの説明に釈然としなかったという人が多いのではないでしょうか。実際、みぞおちが痛いと訴えても検査では何も異常がない、という人の方が断然多いのです。「なんでえ？これだけ痛いのに何も異常無いなんておかしいよ！」と怒る患者さんもおられます。実は、最近こうした状態を、「機能性デイスペプシア（ＦＤ）」と呼ぶことになっています。但し第１回目に書いた逆流性食道炎は含みません。また第２、３回で書いた慢性胃炎ととってもよく似ていますが、同じものではありません。内視鏡や胃粘膜の顕微鏡の所見で“胃炎”の像が無くても、「痛い、痛い！」と訴え続ける人（ＦＤ）がいるからです。
　
　日本人のＦＤの有病率は、健診受診者の１１～１７％。みぞおちの痛みを訴えて医療機関を受診した人の４５～５３％にものぼることが分かっています。いわば、腹痛で一番多い病気であるのがこのＦＤ。ＦＤとは、がんや潰瘍や胃炎などの病気は無いけども、胃の痛みを感じる病気。従ってＦＤの診断には内視鏡検査が不可欠です。ちなみにアスピリンや痛み止めを飲んでいて胃が痛くなる病態は、ＦＤに含まないことになっています。

　胃の動きが悪い場合や胃の知覚過敏になる場合のみならず、胃酸の分泌が多い場合や精神的ストレスの関与など様々な原因が考えられています。胃下垂などの胃の形態やアルコールや喫煙など様々な因子が関与していると考えられています。また家族性や遺伝性のＦＤもあると言われています。子供の時に虐待を受けたことが原因のＦＤも知られています。

　従ってＦＤの治療もさまざまなものがあります。胃酸の分泌と関連がある場合も多く、ＰＰＩやＨ２ブロッカーなどの酸分泌抑制薬がよく効く場合があります。ピロリ菌が陽性の場合は、除菌によりＦＤの症状が改善することもあります。また、脂ものを控えるなどの食事療法がよく効くという人もいます。
現在、ＦＤの治療薬として注目されているのは消化管運動機能改善薬です。現在、日本ではトリメプチン、メトクロウラミド、ドンペリドン、イトプリド、モサプリド、アコチアミドなどがあり臨床現場でよく使われています。漢方薬では六君子湯が有名です。ＦＤの人はお腹が痛くなるのを恐れて、仕事や外出を控える人もいます。そんな人には、抗うつ剤や抗不安薬が使われることもあります。しかし症状が治まれば、これらのお薬は決して漫然と投与するのではなく中止すべきだと考えます。

　ちなみにＦＤは逆流性食道炎との合併が多いことが知られています。また過敏性腸症候群（ＩＢＳ）との合併が多いことも明らかになってきました。内視鏡検査で異常が無いのに痛みが続くのがＦＤ。みぞおちの痛みや不快感が続くひとは是非、専門医に相談してください。
 
キーワード　機能性デイスペプシア（ＦＤ）
　「持続的な心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とした腹部症状」のこと。女性に多い、若年者に多いという報告が多いがまだ一定の見解が得られていない。ＦＤの診断に有用な診断指標（バイオマーカー）や診断基準もまだない。