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医師法21条問題は外表異状説で解決
2014年07月05日(土)
いろいろ議論されてきた医師法21条問題は、今回、無事解決をみたというご報告。
しかし今回の東京女子医大の子供さんへの麻酔事故を届けるなど誤解も続いている。
以下、多くの医師の方に読んで頂きたく、MRICから転載させて頂く。
しかし今回の東京女子医大の子供さんへの麻酔事故を届けるなど誤解も続いている。
以下、多くの医師の方に読んで頂きたく、MRICから転載させて頂く。
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医師法21条問題は外表異状説で解決
井上法律事務所
弁護士
井上清成
2014年7月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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1 厚労大臣の答弁
6月10日、田村憲久厚生労働大臣が参議院の厚生労働委員会(石井みどり委員長)において、医師法21条について外表異状説に立つことを明確に答弁した。
すでに厚労省では、医政局の田原医事課長と医政局総務課の大坪医療安全推進室長とが外表異状説を支持する見解を、再三にわたって表明している。しかし、厚労省トップの発言は無かったので、これが求められていた。
厚労大臣答弁によって、遂に、医師法21条を巡る長い間の混乱に終止符が打たれたのである。あとは、死亡診断書記入マニュアルの変更のみであるが、これも平成27年度版から改定されるらしい。
2 医療界の納得に向けて
(1)法律の解釈論
外表異状説(外表面説)は、もともと田邉昇氏(医師、弁護士)と佐藤一樹氏(医師)だけが唱えていた説である。都立広尾病院事件東京高裁判決を丁寧に分析して唱え始めた。この説は、医師法21条の文言(医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。)にも沿っている。「異状死体」を見つけたら届け出ろ、というのが素直な条文の読み方であろう。ところが、かつては歪んで読み替えられ、「異状死」(異状死亡)を見つけたら届け出ろ、と流布されてしまった。異状な「死亡」などという言葉は条文には無い。つまり、「異状死」という言葉は、医師法21条の法律用語としては、そもそも誤りだったのである。
この外表異状説は,合憲限定解釈という憲法的視点を充填すれば、法律家にも納得感があろう。憲法38条(黙秘権)を生のまま打ち出して、医師法21条は違憲であると主張するのも一般の法律家には受けが悪い。しかし、条文を読み替えて、ただちに医療過誤を異状死としてしまうのも、それこそ憲法38条と正面から衝突してしまう。そこで、医療過誤の有無とは全く関わりなく、単に外表面の異状の有無のみで判断するということならば、医師法21条を合憲としつつも憲法38条との衝突を回避できる。これこそ合憲限定解釈であり、一般の法律家も支持しうるところであろう。
(2)誠実に対応すべき相手は遺族
次に、理屈を離れて、医療界の素朴な感覚としてはどうであろうか。
外表異状説をそのまま適用するならば、「医療過誤が明らかだったとしても、外表にさえ異状がなかったならば、警察に届け出なくてよい。」という結論に至る。これでは、医療の倫理に反するのではないか、隠ぺいとなるのではないか、などといった漠然とした不安を拭い切れないかも知れない。
しかし、この不安には視点の欠落があるように思う。患者の遺族には、そもそもの大前提として、医療過誤の存在を認めて説明し謝罪しているのが当然だからである。医療者は誠実に対応しなければならない。しかし、誠実に対応すべき相手方は、第一に患者の遺族である。医療者が誠実に対応すべきなのは先ずもって遺族であって、業務上過失致死罪という本来はおかしな犯罪を捜査する警察では決してない。
もちろん、誠実に対応すべき相手方は遺族だけではなく、第二に医療者自らである。つまり、その医療事故を契機に再発防止策を案出して医療安全を向上させねばならない。
第一に遺族対応、第二に再発防止対応、これが医療者の行うべきことである。極論で言えば、警察には誠実に対応しなくても、医療の倫理にも反しないし、被害者たる遺族に誠実に対応しているのだから、隠ぺいでも無い。
3 「異状死」届出も無くすべき
現実には、今もって、医療過誤またはその疑いがあれば、警察への届出がなされている。もちろん、それらの大部分は医師法21条(外表異状)に基づく届出ではない。この点は、大坪医療安全推進室長も、病院の判断に基づく「自主的な届出」であると評して、突き放している。まさに現実には、今もって自主的な任意の「異状死」届出が頻出していると言ってよい。
なぜ今でも「異状死体」届出ならぬ「異状死」届出が警察になされているのかといえば、その原因は、院内の医療安全管理マニュアルにあろう。院内マニュアルには「医療過誤またはその疑いがあれば病院長が警察へ届け出る。」という趣旨の定めが、あちらこちらの病院に残っている。病院長としては、自分の病院のマニュアルがそうなっている以上、そのマニュアルに従わねばならない。病院長の病院内における職務上の義務とされているのだから、マニュアルに従った病院長を責めるわけにはいかないであろう。
もしそのような病院長を責めることができるとしたら、唯一、そんなおかしな院内マニュアルを改定せずにいつまでも放置した不作為の責任である。したがって、各病院の病院長としては、しかるべき期間内に院内マニュアルを改定しなければならない。
こうして院内マニュアルが改定されれば、警察への届出は不要になるのだから、意味がなく混乱を惹き起こすだけの「異状死」届出は無くなることであろう。
4 警察・マスコミは不要
多くマスコミが騒ぐ事例は、警察が動き出したことによって発生する。マスコミ連動を防ぐためにも、まず警察への謙抑的な対応が第一であろう。院内マニュアルの改定は是非とも行わねばならない。
次に、警察・マスコミ連動の第二は、医療事故の個別事例の公表である。本来は、医療事故の公表は、個別的にまでは必要ない。せいぜい、多くの事故を集計し一般化抽象化したもので十分なはずである。そして、この個別事例の公表も、院内マニュアルに基づく。したがって、警察届出の院内マニュアル改定と併せて、個別事例公表の院内マニュアルも改定するのがよいと思う。
医師法21条問題は外表異状説で解決
井上法律事務所
弁護士
井上清成
2014年7月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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1 厚労大臣の答弁
6月10日、田村憲久厚生労働大臣が参議院の厚生労働委員会(石井みどり委員長)において、医師法21条について外表異状説に立つことを明確に答弁した。
すでに厚労省では、医政局の田原医事課長と医政局総務課の大坪医療安全推進室長とが外表異状説を支持する見解を、再三にわたって表明している。しかし、厚労省トップの発言は無かったので、これが求められていた。
厚労大臣答弁によって、遂に、医師法21条を巡る長い間の混乱に終止符が打たれたのである。あとは、死亡診断書記入マニュアルの変更のみであるが、これも平成27年度版から改定されるらしい。
2 医療界の納得に向けて
(1)法律の解釈論
外表異状説(外表面説)は、もともと田邉昇氏(医師、弁護士)と佐藤一樹氏(医師)だけが唱えていた説である。都立広尾病院事件東京高裁判決を丁寧に分析して唱え始めた。この説は、医師法21条の文言(医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。)にも沿っている。「異状死体」を見つけたら届け出ろ、というのが素直な条文の読み方であろう。ところが、かつては歪んで読み替えられ、「異状死」(異状死亡)を見つけたら届け出ろ、と流布されてしまった。異状な「死亡」などという言葉は条文には無い。つまり、「異状死」という言葉は、医師法21条の法律用語としては、そもそも誤りだったのである。
この外表異状説は,合憲限定解釈という憲法的視点を充填すれば、法律家にも納得感があろう。憲法38条(黙秘権)を生のまま打ち出して、医師法21条は違憲であると主張するのも一般の法律家には受けが悪い。しかし、条文を読み替えて、ただちに医療過誤を異状死としてしまうのも、それこそ憲法38条と正面から衝突してしまう。そこで、医療過誤の有無とは全く関わりなく、単に外表面の異状の有無のみで判断するということならば、医師法21条を合憲としつつも憲法38条との衝突を回避できる。これこそ合憲限定解釈であり、一般の法律家も支持しうるところであろう。
(2)誠実に対応すべき相手は遺族
次に、理屈を離れて、医療界の素朴な感覚としてはどうであろうか。
外表異状説をそのまま適用するならば、「医療過誤が明らかだったとしても、外表にさえ異状がなかったならば、警察に届け出なくてよい。」という結論に至る。これでは、医療の倫理に反するのではないか、隠ぺいとなるのではないか、などといった漠然とした不安を拭い切れないかも知れない。
しかし、この不安には視点の欠落があるように思う。患者の遺族には、そもそもの大前提として、医療過誤の存在を認めて説明し謝罪しているのが当然だからである。医療者は誠実に対応しなければならない。しかし、誠実に対応すべき相手方は、第一に患者の遺族である。医療者が誠実に対応すべきなのは先ずもって遺族であって、業務上過失致死罪という本来はおかしな犯罪を捜査する警察では決してない。
もちろん、誠実に対応すべき相手方は遺族だけではなく、第二に医療者自らである。つまり、その医療事故を契機に再発防止策を案出して医療安全を向上させねばならない。
第一に遺族対応、第二に再発防止対応、これが医療者の行うべきことである。極論で言えば、警察には誠実に対応しなくても、医療の倫理にも反しないし、被害者たる遺族に誠実に対応しているのだから、隠ぺいでも無い。
3 「異状死」届出も無くすべき
現実には、今もって、医療過誤またはその疑いがあれば、警察への届出がなされている。もちろん、それらの大部分は医師法21条(外表異状)に基づく届出ではない。この点は、大坪医療安全推進室長も、病院の判断に基づく「自主的な届出」であると評して、突き放している。まさに現実には、今もって自主的な任意の「異状死」届出が頻出していると言ってよい。
なぜ今でも「異状死体」届出ならぬ「異状死」届出が警察になされているのかといえば、その原因は、院内の医療安全管理マニュアルにあろう。院内マニュアルには「医療過誤またはその疑いがあれば病院長が警察へ届け出る。」という趣旨の定めが、あちらこちらの病院に残っている。病院長としては、自分の病院のマニュアルがそうなっている以上、そのマニュアルに従わねばならない。病院長の病院内における職務上の義務とされているのだから、マニュアルに従った病院長を責めるわけにはいかないであろう。
もしそのような病院長を責めることができるとしたら、唯一、そんなおかしな院内マニュアルを改定せずにいつまでも放置した不作為の責任である。したがって、各病院の病院長としては、しかるべき期間内に院内マニュアルを改定しなければならない。
こうして院内マニュアルが改定されれば、警察への届出は不要になるのだから、意味がなく混乱を惹き起こすだけの「異状死」届出は無くなることであろう。
4 警察・マスコミは不要
多くマスコミが騒ぐ事例は、警察が動き出したことによって発生する。マスコミ連動を防ぐためにも、まず警察への謙抑的な対応が第一であろう。院内マニュアルの改定は是非とも行わねばならない。
次に、警察・マスコミ連動の第二は、医療事故の個別事例の公表である。本来は、医療事故の公表は、個別的にまでは必要ない。せいぜい、多くの事故を集計し一般化抽象化したもので十分なはずである。そして、この個別事例の公表も、院内マニュアルに基づく。したがって、警察届出の院内マニュアル改定と併せて、個別事例公表の院内マニュアルも改定するのがよいと思う。
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