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補剤という選択

2014年07月25日(金)

「補剤」とは、元気にする薬のこと。(覚せい剤では無いが)
暑いこの季節の夏バテには欲しい薬だ。
「漢方と診療」という雑誌の7月号の連載には、「補剤という選択」で書いた。
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補剤の反対は、瀉剤。
西洋医療は、瀉剤中心の医学ともいえる。

そんな雑感を書いて見た。→こちら
補剤を上手に使いたい、この夏。

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補剤という選択

◎在宅復帰の増加
 
今春の診療報酬改定では,病院にとって大変厳しい宿題が投げかけられた。急性期病院のみならず慢性期病院にまで,そして老健にまで「在宅復帰率」という目標が掲げられた。これまでなら,「在宅? こりゃ無理だな」といったケースでも「とりあえず,一旦在宅に帰して」おかないと,病院自体の存続が危ぶまれる仕組みになったのだ。これは,約40年間の日本の医療の歴史の中でも最も大きな転換点になるのだろう。以上のことから,これはまさに「地域包括ケア改訂」であると考える。まだ半信半疑の方も多くおられるようだが,年々,その傾向は強くなるので,早めに頭を切り替えた方が賢明であろう。
 
◎西洋薬は「瀉剤」ばかり
 
 さて,慌てて在宅復帰する患者さんが徐々に増えているが,相変わらず紹介状にはたくさんの処方薬が記されている。なかには20種類以上も投薬されている在宅患者さんも散見する。多剤投薬については本シリーズの第1回(通巻16号)でも触れたが,今後の日本の医療界にとってかなり本質的な命題である。その多剤投薬の内容を吟味すると,あることに気がつく。それは,「瀉剤」ばかりで「補剤」がひとつもないことだ。降圧剤としてカルシウム拮抗薬・ARB・βブロッカーからはじまり,SUなどの血糖降下剤・消炎鎮痛剤・安定剤・睡眠剤……。そうした目で眺めると,見事に「瀉剤」のオンパレードだ。しかし帰ってきた患者さんは,すでに寝たきりで食が細っていたりする。末期がんであろうが,認知症終末期であろうが,それは同じだ。
 考えてみれば,彼ら「寝たきり」ないし「準寝たきり」に必要なものは,エネルギーのポテンシャルを下げる「瀉剤」ではなく,それを上げる「補剤」ではないか。しかしそもそも西洋薬に「補剤」はほとんどない。強いてあげるならば,ステロイドやSSRIなどの抗うつあたりだろうか。これらは生理的なものとはいえず,ここでいくつかの「補剤」を有する漢方の出番ではないかと考えている。
3つほど症例を示す。
 
◎症例1 慢性疲労症候群(CFS)
 
 40代,女性。
30代よりCFSで入退院を約20回繰り返すも改善しないため,在宅医療を依頼された。それまで投与されていた種々のビタミン剤を中止し,補中益気湯単剤に切り替えた。ほとんど食事が入らず,体重が30kg台まで激減したため,約1カ月間,訪問看護師が週2~3回の在宅点滴を行った。その結果,3カ月で在宅療養を離脱し,通院加療に変更するまで徐々に体力は回復した。
以降,約10年間,補中益気湯を投与しているが,入院は1度もない。最近では,かぜもほとんど引かなくなり,体重も10kg近く増加した。
 
◎症例2 大腸がん末期
 
50代,女性。
ステージⅣの大腸がんと診断され,約3年間,外科手術や抗がん剤治療を受けてきたが体力の消耗が著しく,在宅医療を依頼された。初回訪問時,それまで投与されていた降圧や血糖降下は中止とし,十全大補湯を開始し,以降それのみとした。緩和ケアも平行して行ったところ,まず食欲が改善し,毎日,車椅子で外出するなど,それまでうつ傾向であったのが少し意欲的に変化した。家族やペットたちと穏やかに生活したが,残念ながら約3カ月後に旅立たれた。
この方の場合,「免疫療法としての十全大補湯」という説明をしたところ,本人にもご家族にも大変喜ばれた。というのも,がん専門医に明確に余命宣告されて精神的にかなり落ち込んでいたという事情もあった。十全大補湯がどの程度効果があったのかは検証できなが,本人が「生きる希望」として旅立ちの数日前まで飲まれていたことが印象的だった。
 
◎症例3 認知症終末期
 
 80代,男性。
認知症が進行すると一時的にせよ,かなりの過食になる時期があることが多い。その患者さんはすでにその時期を過ぎて,終末期に近い状態に陥っていた。しかし訪問診療に伺うたびに,ご家族から「先生,なにか元気が出る注射かお薬を」と依頼され,毎回,返事に困っていた。
この患者さんには,牛車腎気丸を投与してみた。1カ月後,衰弱が少し止まったように見えた。血清アルブミン値は,2.1g/dLから2.5g/dLと少し改善した,現在,将来の胃ろうの希望の有無を家族と相談しているところである。
 
◎「多剤投薬=転倒リスク」の視点を
 
 以上のような3例は,おそらく日本中,どこの在宅現場でも遭遇する光景だろう。ポイントは3つある。
 まずは,多剤投薬に気がつくことだ。その自覚がない医師が多いが,在宅では「多剤投薬=転倒リスク」という視点を優先させるべきだろう。多剤投薬に関して学び,それは異常であるという感性を磨くことが重要だ。そして,どの薬が「瀉剤=元気をなくす薬」なのかをその場で峻別する眼力もこれからの医療には必須だ。
 3点目は,「補剤」という選択,これを知っているかいないか,である。「たったそれだけか?」と思われる方がおられるかもしれない。しかし,そのような目で周囲を見渡してみると,「補剤」の適応となる患者さんが実に多いのに見事に見逃している(?)ことに気がつくだろう。
 極論すれば,在宅患者さんには2つしかないと思っている。「補剤という選択」が必要な人と不要な人。そのような見方で漢方薬を単剤で投与し,長期的に経過をみるができる在宅医療は,町医者の密かな楽しみでもある。
 

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