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羨ましい大往生

2014年08月02日(土)

今週は2人の方の旅立ちに関わらせて頂いた。
膵臓癌の方と肺癌の方。
どちらも壮絶な最期をイメージされるかもしれないが、羨ましい大往生だった。
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大往生と言えば、どこか年寄りをイメージするかもしれない。
しかし若くて美しい方の大往生と言えば、イメージできる人は少ない。

膵臓癌で旅立たれた女性。
病気が発覚したのは半年前。

発見された時にはすでに手遅れだった。
かたどうりの抗がん剤治療を2~3回行うも効果なし。

膵臓癌の腫瘍マーカーは、10万を超えているが本人はケロッとしていた。
しかし外出がちょっと怪しくなったので、在宅医療を依頼してきた。

最初の3~4週間は、そこそこ元気だった。
週末には、家族で小旅行も楽しむことができた。

最初から麻薬は、少ない量から使っていたので痛みで苦しむことは無い。
在宅医療が始まって2週間を過ぎると、黄疸と倦怠感が強くなり寝ていることが増えた。

その時点から看護師は毎日、私は週1回のペースで訪問した。
家族はみんな昼間は働きに出ていたが、寝込んでからは仕事を休むようになった。

今週に入り、いよいよ、という感じになった。
私はご家族に、珍しく「あと2日です」と説明した。

普通は、「あと数日」とか「日にち単位」とか曖昧な表現を使うのだが、
その時は、めずらしく明確な予測を告げた。

理由は良く分からないがそう感じたから。

するとそのちょうど48時間後に穏やかに旅立たれた。
子供も孫もみんな集まり、泣き笑いだった。

最期の数日は、貼り薬の麻薬に切り替えて、2~3日単位で増量した。
だから、旅立ちまで痛みで苦しみことは無かった。

亡くなる数時間前に私が訪問した時には、ちゃんと話ができた。
旅立たれたときは、いつもみんなそうなのだが、管一本無い自然な姿。

ちょうど赤ちゃんに帰る感じ。
昔育てた赤ちゃんが、今、親を赤ちゃんのように慣れない最期の世話をやく。

静かな中に笑いがあり、満足がある看取りだった。



もう一人の女性は、末期の肺がんで在宅医療を開始してもう半年以上経過した。
開始時には1~2ケ月だろうな、と誰もが思っていた。

元々、狭心症で大病院の循環器科に毎月かかっていたが、気がついた時には
もはや手遅れの肺がんがあったという。

拙書、「大病院信仰 どこまで続けますか」に書いたとうり。
心臓は一生懸命診ても、すぐ隣にある「肺」という臓器は呼吸器科だから診ていない。

家族や本人は、、心臓の主治医にだいぶ恨み節を言ったようだ。
主治医は、素直に謝ったのでそれ以上、言えなくなった、とのこと。

昨年8月の病院の呼吸器科の専門医から「もって年内」と言われていた。
しかし終末期を自然に任せていると、予想に反して驚くほど長生きすることがある。

「もう病気はないんじゃないかな?」
「あれは誤診だったのかな?」
そう思うほど快調な在宅療養の日々が続いた。

私は今週、何ケ月ぶりかに出張や講演の無い木曜日(私の休日)を迎えた。
しかし朝から「待ってました」とばかりに、いろんな電話や往診依頼が入る。

世の中、神様は上手に采配している。
普段の不在の日には何も起こらないが、たまに居ると、1日中、大変なことが連続して起きる。

そのひとつが、彼女からだった。
昼前から「息が急に苦しくなった」という。

伺うと、体を横に向けて小さな息を頻回にしていた。
手足は冷たく、ジトーっと汗をかき、ショック状態に陥っていた。

私は、「ああ、最期の変化が起きた。あと数時間かな」と思った。
しかしこのご家族たちは、きっと病院に入院させるだろうな、と思い込んでいた。

私が彼女に会うのは実は2ケ月ぶり位で、別の常勤医に訪問診療をしてもらっていた。
私は、これからどうしたいのか、彼女と家族に直接聞こうとした。

「これからどうしたいですか?入院したいですか?」と、家族が見守るなか聞いてみた。
彼女は、「ここでこのまま死んでもいいから絶対に入院はしない」とハッキリ言われた。

これほどしんどいのに、キッパリと意思表示されたことに驚いた。
彼女は、「ちゃんと覚悟はできているから大丈夫」とも言われた。

家の外に出てずっと付き添ってきた家族たちにも聞いてみた。
「あと数時間で亡くなる可能性があります。入院すれば少し延命できるかも」と。

しかし家族は、「いえ、母のいうとうり、最期までここで診てください」との返事。
「ただし、ひとつだけお願いがあります。」と言われた。

お願い??

「母は、最期だけ少し酸素を吸ってみたいと言っています。
だからそれを叶えてやってください」と。

末期の肺がんに、採択酸素療法の適応は無い。
大半の在宅での肺がん患者さんは、酸素なしで立ち立たれる。

一方、病院から在宅に帰って来る肺がん患者さんは、酸素10ルットルで帰る。
病院の医者は、末期肺がん=酸素10リットルだと思っているのかな。

酸素を用意することなど朝飯前だ。
「結果的に数時間になるかも。でもすぐにやってくれる?」と酸素業者に連絡。

果たして1時間後には、彼女の願いは叶った。
もうひとつ、これは私からやるべき事があった。

それは、呼吸困難感へのモルヒネ投与による緩和だ。
結果的に亡くなる数時間前に、モルヒネ座薬を1ケだけ使った。

裏をかえせば 、半年間に及ぶ在宅療養の中で麻薬を必要とせずここまで経過したこと。
末期がん=麻薬ではない。

果たして予告通りに、数時間後に私の携帯電話が鳴った。
看護師が駆けつけたちょうど1時間後に私も到着した。

みんな集まってワイワイ、死に化粧をやっている。
元々若い顔が、いっ気に10歳若返った。

あとで聞くとおどろくべき事実が続々と。

4日前は外出し、、動物園で動物を見て楽しんでいる。
3日前に、「私はあと3日で死ぬからね。ありがとう」と言ったと。

1日前にも、「あと1日だから、お父さんを頼むで」と言い、
数時間前には私に初めて「先生、ありがとう!」と言った。

そして、亡くなる30分前まで一人でベッドに座っていたという。
そして亡くなる10分10分前まで家族と会話していたと・・・

そして亡くなったあとは、お祭りのような賑わい。

どうだろうか?
病院での最期とかなり違っている。

・最期まで生活している
・最期まで食べて話している

在宅では、肺癌でも膵臓癌でも、穏やかな最期ばかりだ。
そこには沢山の管も鎮静(セデーション)も何も必要無い。

・家族には笑顔がある
・本人も家族も満足、納得している・・・

こんな講演を、病院の医者にすると嫌がられる。
「いつまでそんな美談を言っているのだ」と。

しかしこれは美談でも何でもなく、私たちの日常だ。
経験したもの(家族)だけが知っている。 →こちら

こうした内容は、言葉では信じてもらえない。
映像だけが説得力を持つ。

しかしなんとか言葉で伝えようと、工夫している。
「病院でも家でも満足して大往生する101のコツ」を読んで欲しい  →こちら

毎日、朝から晩まで、知人や知らない人から終末期の相談ばかり。
どれも切実な相談ばかりで、ちゃんと聞いていたら半日かかる。

そんなことをしたら死んでしまうので、その人たちに向かって本を書いている。
しかし肝心の当事者や家族は、99%、私の本を読まずに相談されるので私も辛い。

どうか本を読んでから相談して欲しい。

だから私は、書籍という形で伝える。

11月には、京都で日本肺がん学会があり、そこで
「肺がん患者さんの在宅ホスピス」という演題で、がん研有明の
施設ホスピスの向山先生という緩和医療の第一人者とデイベートする予定。

しかしわずか20分のプレゼンで医者にこれを伝えるのは至難の業だ。
先日、肺がんの専門医に講演したら、みんな寝ていた・・・

だからこそ、患者さんが賢くなって欲しい。
だから、本で伝えたいのだ。

たまたま、今週の平穏死について書いたが、
毎週毎週、同じようなことが繰り返されている。

充実した町医者生活を送らせて頂いている。
あの世に旅立った患者さんの顔を思い浮かべながら、新幹線の中でこれを書いている。


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※本ブログは転載・引用を固くお断りいたします。

この記事へのコメント

長尾先生の看取りで亡くなられた方々はラッキーなのだと思います。

在宅看取りにはいくつもの難題があります。
訪問介護、ケアマネのレベル、訪問看護などの制度上の問題に加えて医師の倫理と技術の問題。
それは、
①『「本気で」看取ります』という医師を見つけるのが困難。
私が知っている範囲ですが、どの医師もどこかで「いざとなったら入院させればよい」という「逃げ」がある。その「いざとなったら」はどういう時かというと「周囲の人が見るに堪えないほどに本人が苦しむ時」なのです。

② ①の医師の「逃げ」の理由でもあるのですが、緩和ケアを熟知している医師がきわめて少ない。
麻薬などの苦痛緩和薬剤の使い方は、医師が受けてきた教育と知識と経験によってものすごく違いがあります。いまだに「少々の痛みは我慢して」「病気なんだから仕方ない」レベルの医者がほとんどでです。
患者の苦痛を理解しようとしない。
多くの医師は「患者は苦しむのが当然、病気なんだから。その病気を治す過程も苦しいのが当然、それが医療というもの。」こういった教育を受けそのまま実践している。だから「苦痛なく死ねる」というと短絡的に「安楽死」に結びつけてしまう。そういった医師達は「死に至る苦痛を緩和する医療行為」に恐れを感じているのではないでしょうか。

長尾先生がお元気な間に、長尾イズムを継承できる医師をたくさん育ててくださるよう、お願いいたします。

Posted by komachi at 2014年08月02日 05:07 | 返信

人が死ぬというのは、生まれるのと同じくらい、大変な事なのですね。
長尾先生の「看取り」は、物凄く手厚い、繊細な看取りですね。
長尾先生の下で、長年看取りをしてらっしゃる訪問看護師さんは、長尾先生の「看取り」を、習熟していらっしゃるでしょう。
でも、ちょっと、在宅医療を見学に来ただけのお医者さんや、インターンにはちょっと真似ることは無理なのじゃないでしょうか?
多様なケース、多様な病状があるでしょうし、どのお医者さんにもこれを、期待するのは難しいような気がしました。
職人技であるように思いましたし、この世から旅立つ患者さんと、何年もかけた「あ.うん」の呼吸が大事と思いました。人間的な信頼が大事だと思いました。

Posted by 大谷佳子 at 2014年08月03日 02:32 | 返信

 安楽死予告を試みた29歳のアメリカ人女性、ブリタニーさんを思い、長尾先生が「叶うならばブリタニーさんに尼崎に来てほしい。」と記したapitalのメッセージが、本当にブリタニーさんの目に留まってほしいと思います。
 先日放送されたTV番組、Mr.サンデーをリアルタイムで見ました。番組内の映像はショッキングでしたし、番組のコメンテーターが、ネット予告する事の社会的影響を憂慮していたように、私もそう思っていました。けれど、救い手が居ますよ、という朗報は何よりのことと思います。番組内で見た安楽死場面の映像は、上記ブログにあるお二人の死のお姿とは、あまりにも違いすぎます。
 臓器移植手術を受けるために、人が国境を超えるように、別な死に方、生き方を求めて、是非とも日本に、長尾先生の元に来てほしいと思います。上の大往生の場面を読み、ブリタニーさんの尼崎での余生を想像したら、胸が苦しくなってきました。(私は健康です。)

 追伸:長尾先生サイン入り、御著書「満足して大往生する101のコツ」を読み終えてから、長尾先生が本を推薦なさると、つい買って読んでいます。五木寛之先生著「孤独の力」も読みました。感想文も、と思いますが、長くなるので止めておきます。「抗がん剤が効く人、効かない人」を読むと、お医者様との付き合い方(病院のかかり方、選び方)も示されていて読みやすいです。蛇足ですが、「花岡青洲の妻」有吉佐和子先生著は、10代の頃に読みました。(感想略)世界的に有名な花岡青洲先生、とブログで知りました。

Posted by もも at 2014年10月28日 04:36 | 返信

誤字の訂正
花岡青洲 × ⇒ 華岡青洲 〇 (医聖に大変な失礼を致しました。お詫び申し上げます。)

長尾先生へPS :本日のブログ(沖縄旅行)の記念写真を拝見し、ブルーのスーツ姿は "探偵物語"の松田優作様かと見間違えました。歌もお聞きしてみたかったです。

ももからももへの返信 at 2014年10月30日 03:03 | 返信

PSに追記
 ”沖縄の記念写真、追加リクエスト可”とありましたので、想像ですが海のお写真、夕陽、朝日、があればお願い致します。星空の写真と朝の空がUPされていましたので、もしやと思いました。沖縄の海は綺麗です。厚かましくも、ダメ元でお願いしてみました。
 弾丸日程での往復、お疲れ様でした。

ももからももへの返信 at 2014年10月31日 01:05 | 返信

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