- << 早期胃がんを放置する?
- HOME
- 療養病院におけるリビングウイル >>
このたびURLを下記に変更しました。
お気に入り等に登録されている方は、新URLへの変更をお願いします。
新URL http://blog.drnagao.com
患者申出療養(仮称)
2014年10月23日(木)
清郷伸人氏の文章を先日ご紹介したところ、様々なご批判を頂いた。
しかし彼は一人のがん患者であり、日本の医療を良くしたいと念じている。
彼は裁判では敗れたが、それがきっかけになり新しい展開になっている。
しかし彼は一人のがん患者であり、日本の医療を良くしたいと念じている。
彼は裁判では敗れたが、それがきっかけになり新しい展開になっている。
*****************************************************
清郷伸人氏が敗訴で勝ち取った「患者申出療養(仮称)」
健保連 大阪中央病院
顧問 平岡 諦
2014年10月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
---------------------------------------------------------------------
「混合診療の原則禁止」と「ドラッグ・ラグ」に苦しめられている多くの難病患者たち(とその主治医)がいます。この苦しみを取り除く新たな仕組みが曲がりなりにも出来そうです。それが「患者申出療養(仮称)」(2014年6月24日閣議決定)です。そのキッカケは、清郷伸人氏が敗訴した最高裁判決(2011年10月25日)に付された、判事たちの意見でしょう。この新しい仕組みが「金儲けの手段」にならないよう、施行までに検討される運営の在り方に注視する必要があります。
混合診療の原則禁止:
混合診療とは保険診療と保険外診療の併用(厚労省Hpより)のことです。混合診療をすると、保険診療に対する「保険診療報酬と患者の一部負担金」および保険外診療に対する「患者負担金(差額徴収)」の両者が、医療機関の収入となりそうですが、そうではありません。混合診療が原則禁止されているからです。
その昔(医師に「お任せの医療」の時代)、情報格差を利用して患者に不適切な保険外診療を受けさせ、「差額徴収」を行って儲けようとする悪徳医師が現れました。そして、このような悪徳医師が患者に医学的、経済的な損害を与えるのを防ぐため、出てきたのが「混合診療の原則禁止」という政策です。併用可能な保険外診療を「例外」として限定することにより、混合診療を「原則」禁止としたのです。それが1984年の健康保険法の改定における特定療養費制度の設定、およびそれに伴う保険医療機関及び保険医・療養担当規則(いわゆる療担)の改定です。特定療養費制度とは、「保険医療機関などが患者から保険適用外の医療に係わる金額の支払いを受けることが出来る場合を、厚生労働大臣が定める高度先進医療又は選定医療に限る」ということです。現行法(2006年改定)では、特定療養費制度が保険外併用療養費制度に、高度先進医療が評価療養(保険導入のための評価を行うもの)に変わっていますが考え方は同じです。評価療養には高度先進医療のほかに、保険導入に向けた治験中の薬剤等が含まれています。
ドラッグ・ラグ問題:
時代が移り情報化社会(患者の「自己決定の医療」の時代)になると、医療の進歩も相まって、保険診療に限界を感じた患者は保険外診療を世界中に探し求めるようになりました。次のように思うようになったからです。
「普通の病気は保険診療で十分であり、もっと良い治療があったとしても知らなくても、あるいは受けなくてもさほど問題ではない。しかし重篤な病気になったら別である。保険治療で助からないこともある。患者も医者も必死であらゆる治療法を探る。日本で認められていなくても欧米で効果があると聞くと試してみたくなる。このとき、通常の安全性の問題は視界から消える」(清郷伸人著「混合診療を解禁せよ―違憲の医療制度」、ごま書房、2006, p.61)。「本来は保険で薬を使えるようになるのが一番いい。しかし、いつ死ぬかわからない状態で、保険が適用されるまで待てない患者が多くいる」(同、p.33)。「どのような制度、法でも遵守義務があるという意見に対しては、法律でも緊急避難行動は許されている、生死の分かれ目を前にしたがん治療ではそういうケースもあると私は考えます」(同、p.13)。
このような切羽詰まった患者にとって、「保険導入のための評価を行う」評価療養では、評価に時間がかかって間に合わないのです。これがドラッグ・ラグ問題と呼ばれるものです。悪徳医師から患者を守るための政策が切羽詰まった患者を苦しめる政策に、転化してしまったのです。
清郷伸人氏が裁判で引き出したもの:
清郷氏は腎がんに対し、保険診療であるインターフェロン療法を受けていました(清郷伸人著「官僚国家vsがん患者;患者本位の医療制度を求めて」、蕗書房、2012より)。これが効かなくなったため、主治医との相談の下、同じ病院でインターフェロン療法に加えてLAK療法を受けることになりました。LAK療法は保険外診療(すなわち患者負担の自由診療)です。これがマスコミで報じられるところとなり、「混合診療の原則禁止」によりインターフェロン療法もすべて自費で受けざるを得なくなりました。国は「混合診療の原則禁止」により保険診療に対する保険給付を一切行わないと主張しているからです(その主張の根拠になっている不可分一体論については後述します)。経済的負担が大きすぎるため、清郷氏はしかたなくLAK療法を断念することになりました。そこで清郷氏はこの政策に問題あり(保険料を支払ってきた国民が、保険外診療の併用で、保険給付が一切打ち切られるという問題)として裁判を起こしました。最高裁まで闘いましたが敗訴しました。敗訴しましたが、その判決文には5人中、4人の裁判官の意見が付くという亜w)ル例の判決文となったのです。その意見とは次のようなものです(清郷伸人著「患者本位の医療制度を求めて-官僚国家 vs がん患者」蕗書房、2012, p.193~195)。
「医療技術や新薬の開発は目覚ましく、外国で承認されたそれらの早期使用(下線は平岡、以下同様。ドラッグ・ラグ問題に対する意見で有ることを示しています)は既存の治療から見放された患者の切望するところであり、それらが評価療養の対象となるよう制度のいっそう適切に運用されることが望まれる(田原判事)」。「先進医療が定められた手続きによって、その有効性の検証が適正、迅速に行われ、評価療養に取り入れられることが肝要である(岡部判事)」。「患者側の医療ニーズは高く、保険外診療の有効性も考えられることから、混合診療問題の穏当な解決へのレールである評価療養のさらなる迅速で柔軟な制度運営が期待される(大谷判事)」。「公的医療平等論は昭和59年の法改正前から国の制度論を支えていた哲学と見られ、自由診療を保険制度と関連づけることを極力避けようとする傾向から、評価療養の認定対象はきわめて限定されると考えられる。さらに原告の主張は保険診療を受けて、保険給付がある者とLAK療法を受けたばかりに否定される者があるのは不当だというもので、まさにこの仕組みの『手段としての目的との間の合理的な関連性』に掘w)カわるものである。旧法および現行法では、制度を運用する基準がいかなるものであるかが明らかでないという疑問は解消されない(寺田判事)」。
前3者の意見で共通している指摘が、現行の評価療養ではドラッグ・ラグ問題が解決されない、それが解決できるように評価療養を見直しなさいという指摘です。最後の寺田判事の意見に見られる「手段としての目的との間の合理的な関連性」とは次のことを指摘しています。「混合療法の原則禁止」という政策、その例外とされた保険外併用療養費制度、その中の評価療養という手段は、全体として悪徳医師から患者を守る目的で設けられました。しかしこの裁判では本来の目的とは異なり、国が裁判に負けないためという目的のために用いられました。結果として患者の医療ニーズを抑制することになったのです。国は不合理な関連性(不可分一体論の項で詳述します)を主張して患者の医療ニーズを抑制してはいけない、そのようなことが二度と起こらないように評価療養を見直しなさいという指摘です。これらの指摘から導き出されたのが、つぎに示す「患者申出療養(仮称)」でしょう。
「患者申出療養(仮称)」:
その内容は次のようになっています。
「困難な病気と闘う患者からの申出を起点として、国内未承認医薬品等の使用や国内承認済みの医薬品等の適応外使用などを迅速に保険外併用療養として使用できるよう、保険外併用療養費制度の中に、新たな仕組みとして、「患者申出療養(仮称)」を創設し、患者の治療の選択肢を拡大する。」(平成26年6月24日閣議決定)
考えられている実施体制は次のようになっています。患者から臨床研究中核病院への申出を起点とし、臨床研究中核病院での実施計画の作成(将来の保険収載に向けて、治験などに進むための判断ができること)と国への申請、国における実施内容の確認(申請から原則6週間での国の判断)で、受診できるようにするという流れです。また、臨床研究中核病院の認定により、患者に身近な医療機関(協力医療機関)で最初から受診できるような申請体制が考えられています。
今後の問題点は、この新しい仕組みを「金儲けの手段」とさせないことです。それには「将来の保険収載に向けて、治験などに進むための判断」をする時期(判断をするために必要な治療症例数になるだろうと思います)を前もって決めておく必要があります。そうでなければ、いつまでも治験に進まず、保険収載されず、保険外診療のままになって、「課に設けの手段」になる恐れがあります。また、保険外診療部分の全額自己負担「額」の決め方も注視する必要があります。
清郷氏が一人で闘った壮絶な裁判闘争、敗訴とはなったが患者の必死の訴え、それが最高裁判事の多数意見となり、行政を動かして「患者申出療養(仮称)」に結実しようとしているのだと思います。清郷氏の闘いを無駄にしないためにも、真に患者のための仕組みとなるよう注視する必要があります。
不可分一体論:
国が主張した「不合理な関連性」とは混合診療における不可分一体論です。国は裁判で次のように主張しました。保険診療と保険外診療を併用すると、両者は不可分一体であるから全体として保険外診療となる。だから混合診療では保険診療に対する保険給付は有りえないという論理です。これが患者にとっての「混合診療の原則禁止」の意味だと国は主張したのです。そこでインターフェロン療法(保険診療)を受けていた清郷氏が、LAK療法(保険外診療)を併用したことによりインターフェロン療法に対する保険給付が受けられなくなったのです。
「混合療法の原則禁止」という政策、その例外とされた保険外併用療養費制度、その中の評価療養という手段、その一つに先進医療があります。厚労省Hpによると、先進医療「部分」は全額自己負担、そして通常の治療と共通する「部分(診察、検査、投薬、入院料)」は保険給付と、分類しています。この考えでは、保険診療であるインターフェロン療法でも共通する部分(診察、検査、投薬、入院料)とそれ以外の部分(インターフェロンという薬剤部分)とに分離可能だということになります(診療報酬がそれぞれに点数を決めて支払われることから、これは当然のことです)。つぎにインターフェロン療法とLAK療法の併用を考えてみましょう。それぞれが、共通部分とそれ以外の部分に分離可能だと言うことになります。すなわち、経済的には、共通部分はあるが、少なくとも一部は可分・別体であるということです。
「混合療法の原則禁止」という政策の基礎とした国の主張が不可分一体論です。しかし、その政策の一部である先進医療には、少なくとも一部は「可分・別体」であることを国は示しています。この矛盾は次のように説明できます。
A診療には有効性aとともに有害性aが伴います。B診療には有効性bとともに有害性bが伴います。これを併用するとどうなるでしょうか。患者は有効性aと有効性bだけでなく、併用療法による効果(相乗効果)cをも期待して受けることでしょう。一方、有害性もaとbだけでなく、相乗効果による有害性cが起きる可能性があります。AとB診療の療法では、有効性においても有害性においても、相乗効果があり得るので不可分一体論が成立します。しかし、診療報酬あるいは保険給付から考えると、少なくとも一部は可分・別体となります。たとえばインターフェロン療法(保険診療)とLAK療法(保険外診療)の併用を考えると、インターフェロンという薬剤については少なくとも点数の確定は可能だということです。
清郷氏は裁判で、国の不可分一体論に対して「完全な可分・別体論」を主張しています。上述のように「完全な可分・別体論」は間違っています。そのため国の不可分一体論を論破できず敗訴になったと考えられます。なお、日米経済界の求める規制改革も「完全な可分・別体論」を採用している限り、「混合療法の原則禁止」という政策を解消させることはできないでしょう。
ご意見を bpcem701@tcct.zaq.ne.jp まで頂ければ幸いです。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
中央社会保険医療協議会「患者申出療養」、臨床研究中核と大学本院が主
「原則6週間審査」に慎重さを求める声も
2014年10月23日(木) 橋本佳子(m3.com編集長)
中央社会保険医療協議会総会(会長:森田朗・国立社会保障・人口問題研究
所所長)は10月22日、「患者申出療養(仮称)」について議論、厚生労働省は
4つの論点を提示、細部については幾つか意見が出たものの、おおむね了承さ
れた(資料は、厚労省のホームページに掲載)。
厚労省が提示した論点に、22日に出た意見を踏まえると、「患者申出療養(仮
称)」は、(1)対象は、基本的には限定しないが、一定の安全性・有効性が
認められたものとし、明らかに保険収載の見込みがないものは対象外、(2)
リスクが高い医療は臨床研究中核病院と特定機能病院での実施が基本で、リス
クが中程度の医療はそれ以外の協力医療機関も実施可能、(3)「患者の申出」
が起点で、申請は、主治医等が説明し、患者が理解・納得した上で行う、(4)
国は「患者申出療養会議(仮称)」を設置し、新規に「患者申出療養(仮称)」
で行う医療については、臨床研究中核病院の申請から原則6週間で審査を行い、
可否を判断するが、6週間にこだわらず、安全性は十分に確認する――という
制度になる。
「患者申出療養(仮称)」は、今年6月の「日本再興戦略 改訂2014」で、「保
険外併用療養における新たな仕組み」として創設を提言されたもので、次期通
常国会への関連法案の提出が予定されている(『「患者申出療養」、来年の法
案提出目指す』を参照)。例えば、治験の対象患者に合致しない場合でも、審
査が通れば、治験薬を保険外併用療養として使用できるようになる見通しだ。
ただし、どこまで広がるかは対応医療機関に左右され、今後、「協力医療機関」
がどの定義されるかが注目点だ。
「患者申出療養(仮称)」の創設自体や制度の骨格については、支持する意
見が多かった。日本医師会副会長の中川俊男氏は、「(保険外併用療養の)評
価療養の仕組みは非常に高く評価しているが、十分とは思っていなかった。今
の先進医療は、対応医療機関が10以下で、その近くの患者以外は、先進医療を
受けにくい現実があった。対応医療機関が増えることは、患者にとって朗報」
との見解を示した。
健康保険組合連合会副会長の白川修二氏も、「未承認薬、適応外薬が使用で
きず、患者が苦しんでいるのか、そのデータがない。正直言って、どのくらい
のニーズがあるかは分からないが、全体のスキームとしてはこれでいいのでは
ないか」とコメント。
一方で、「患者申出療養(仮称)」の運用に当たっては、幾つか懸念点も出
た。日本薬剤師会常務理事の安部好弘氏は、適応外薬や未承認薬の使用なども
想定されることから、「治験をショートカットする手段として使われると、こ
の制度が推進しない。この点は留意してほしい」と指摘。この点については中
川氏も同意、「製薬企業が、患者申出療養に(治験候補の薬などを)組み込む
ため、患者や主治医に働きかけることは、絶対に許されないこと。それができ
ない仕組みにしてもらいたい」と求めた。
連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員の花井十伍氏は、インターネ
ットで海外等で行われている治療法をエビデンスの裏付けもなく、実施医療機
関に持ってくると混乱を来す可能性もあることから、「夢を持ってくる患者」
(花井氏)に対し、「前裁き的」に対応する体制が必要だとした。
制度が「患者の申出が起点」とされているため、「全て患者の責任になるこ
とを懸念している」と述べたのは、連合総合政策局長の花井圭子氏。これに対
し、厚労省保険局医療課は、健康被害が発生した場合などは、現行の先進医療
と同様の補償制度を用意するなどの対応をする方針だと説明。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
清郷伸人氏が敗訴で勝ち取った「患者申出療養(仮称)」
健保連 大阪中央病院
顧問 平岡 諦
2014年10月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
---------------------------------------------------------------------
「混合診療の原則禁止」と「ドラッグ・ラグ」に苦しめられている多くの難病患者たち(とその主治医)がいます。この苦しみを取り除く新たな仕組みが曲がりなりにも出来そうです。それが「患者申出療養(仮称)」(2014年6月24日閣議決定)です。そのキッカケは、清郷伸人氏が敗訴した最高裁判決(2011年10月25日)に付された、判事たちの意見でしょう。この新しい仕組みが「金儲けの手段」にならないよう、施行までに検討される運営の在り方に注視する必要があります。
混合診療の原則禁止:
混合診療とは保険診療と保険外診療の併用(厚労省Hpより)のことです。混合診療をすると、保険診療に対する「保険診療報酬と患者の一部負担金」および保険外診療に対する「患者負担金(差額徴収)」の両者が、医療機関の収入となりそうですが、そうではありません。混合診療が原則禁止されているからです。
その昔(医師に「お任せの医療」の時代)、情報格差を利用して患者に不適切な保険外診療を受けさせ、「差額徴収」を行って儲けようとする悪徳医師が現れました。そして、このような悪徳医師が患者に医学的、経済的な損害を与えるのを防ぐため、出てきたのが「混合診療の原則禁止」という政策です。併用可能な保険外診療を「例外」として限定することにより、混合診療を「原則」禁止としたのです。それが1984年の健康保険法の改定における特定療養費制度の設定、およびそれに伴う保険医療機関及び保険医・療養担当規則(いわゆる療担)の改定です。特定療養費制度とは、「保険医療機関などが患者から保険適用外の医療に係わる金額の支払いを受けることが出来る場合を、厚生労働大臣が定める高度先進医療又は選定医療に限る」ということです。現行法(2006年改定)では、特定療養費制度が保険外併用療養費制度に、高度先進医療が評価療養(保険導入のための評価を行うもの)に変わっていますが考え方は同じです。評価療養には高度先進医療のほかに、保険導入に向けた治験中の薬剤等が含まれています。
ドラッグ・ラグ問題:
時代が移り情報化社会(患者の「自己決定の医療」の時代)になると、医療の進歩も相まって、保険診療に限界を感じた患者は保険外診療を世界中に探し求めるようになりました。次のように思うようになったからです。
「普通の病気は保険診療で十分であり、もっと良い治療があったとしても知らなくても、あるいは受けなくてもさほど問題ではない。しかし重篤な病気になったら別である。保険治療で助からないこともある。患者も医者も必死であらゆる治療法を探る。日本で認められていなくても欧米で効果があると聞くと試してみたくなる。このとき、通常の安全性の問題は視界から消える」(清郷伸人著「混合診療を解禁せよ―違憲の医療制度」、ごま書房、2006, p.61)。「本来は保険で薬を使えるようになるのが一番いい。しかし、いつ死ぬかわからない状態で、保険が適用されるまで待てない患者が多くいる」(同、p.33)。「どのような制度、法でも遵守義務があるという意見に対しては、法律でも緊急避難行動は許されている、生死の分かれ目を前にしたがん治療ではそういうケースもあると私は考えます」(同、p.13)。
このような切羽詰まった患者にとって、「保険導入のための評価を行う」評価療養では、評価に時間がかかって間に合わないのです。これがドラッグ・ラグ問題と呼ばれるものです。悪徳医師から患者を守るための政策が切羽詰まった患者を苦しめる政策に、転化してしまったのです。
清郷伸人氏が裁判で引き出したもの:
清郷氏は腎がんに対し、保険診療であるインターフェロン療法を受けていました(清郷伸人著「官僚国家vsがん患者;患者本位の医療制度を求めて」、蕗書房、2012より)。これが効かなくなったため、主治医との相談の下、同じ病院でインターフェロン療法に加えてLAK療法を受けることになりました。LAK療法は保険外診療(すなわち患者負担の自由診療)です。これがマスコミで報じられるところとなり、「混合診療の原則禁止」によりインターフェロン療法もすべて自費で受けざるを得なくなりました。国は「混合診療の原則禁止」により保険診療に対する保険給付を一切行わないと主張しているからです(その主張の根拠になっている不可分一体論については後述します)。経済的負担が大きすぎるため、清郷氏はしかたなくLAK療法を断念することになりました。そこで清郷氏はこの政策に問題あり(保険料を支払ってきた国民が、保険外診療の併用で、保険給付が一切打ち切られるという問題)として裁判を起こしました。最高裁まで闘いましたが敗訴しました。敗訴しましたが、その判決文には5人中、4人の裁判官の意見が付くという亜w)ル例の判決文となったのです。その意見とは次のようなものです(清郷伸人著「患者本位の医療制度を求めて-官僚国家 vs がん患者」蕗書房、2012, p.193~195)。
「医療技術や新薬の開発は目覚ましく、外国で承認されたそれらの早期使用(下線は平岡、以下同様。ドラッグ・ラグ問題に対する意見で有ることを示しています)は既存の治療から見放された患者の切望するところであり、それらが評価療養の対象となるよう制度のいっそう適切に運用されることが望まれる(田原判事)」。「先進医療が定められた手続きによって、その有効性の検証が適正、迅速に行われ、評価療養に取り入れられることが肝要である(岡部判事)」。「患者側の医療ニーズは高く、保険外診療の有効性も考えられることから、混合診療問題の穏当な解決へのレールである評価療養のさらなる迅速で柔軟な制度運営が期待される(大谷判事)」。「公的医療平等論は昭和59年の法改正前から国の制度論を支えていた哲学と見られ、自由診療を保険制度と関連づけることを極力避けようとする傾向から、評価療養の認定対象はきわめて限定されると考えられる。さらに原告の主張は保険診療を受けて、保険給付がある者とLAK療法を受けたばかりに否定される者があるのは不当だというもので、まさにこの仕組みの『手段としての目的との間の合理的な関連性』に掘w)カわるものである。旧法および現行法では、制度を運用する基準がいかなるものであるかが明らかでないという疑問は解消されない(寺田判事)」。
前3者の意見で共通している指摘が、現行の評価療養ではドラッグ・ラグ問題が解決されない、それが解決できるように評価療養を見直しなさいという指摘です。最後の寺田判事の意見に見られる「手段としての目的との間の合理的な関連性」とは次のことを指摘しています。「混合療法の原則禁止」という政策、その例外とされた保険外併用療養費制度、その中の評価療養という手段は、全体として悪徳医師から患者を守る目的で設けられました。しかしこの裁判では本来の目的とは異なり、国が裁判に負けないためという目的のために用いられました。結果として患者の医療ニーズを抑制することになったのです。国は不合理な関連性(不可分一体論の項で詳述します)を主張して患者の医療ニーズを抑制してはいけない、そのようなことが二度と起こらないように評価療養を見直しなさいという指摘です。これらの指摘から導き出されたのが、つぎに示す「患者申出療養(仮称)」でしょう。
「患者申出療養(仮称)」:
その内容は次のようになっています。
「困難な病気と闘う患者からの申出を起点として、国内未承認医薬品等の使用や国内承認済みの医薬品等の適応外使用などを迅速に保険外併用療養として使用できるよう、保険外併用療養費制度の中に、新たな仕組みとして、「患者申出療養(仮称)」を創設し、患者の治療の選択肢を拡大する。」(平成26年6月24日閣議決定)
考えられている実施体制は次のようになっています。患者から臨床研究中核病院への申出を起点とし、臨床研究中核病院での実施計画の作成(将来の保険収載に向けて、治験などに進むための判断ができること)と国への申請、国における実施内容の確認(申請から原則6週間での国の判断)で、受診できるようにするという流れです。また、臨床研究中核病院の認定により、患者に身近な医療機関(協力医療機関)で最初から受診できるような申請体制が考えられています。
今後の問題点は、この新しい仕組みを「金儲けの手段」とさせないことです。それには「将来の保険収載に向けて、治験などに進むための判断」をする時期(判断をするために必要な治療症例数になるだろうと思います)を前もって決めておく必要があります。そうでなければ、いつまでも治験に進まず、保険収載されず、保険外診療のままになって、「課に設けの手段」になる恐れがあります。また、保険外診療部分の全額自己負担「額」の決め方も注視する必要があります。
清郷氏が一人で闘った壮絶な裁判闘争、敗訴とはなったが患者の必死の訴え、それが最高裁判事の多数意見となり、行政を動かして「患者申出療養(仮称)」に結実しようとしているのだと思います。清郷氏の闘いを無駄にしないためにも、真に患者のための仕組みとなるよう注視する必要があります。
不可分一体論:
国が主張した「不合理な関連性」とは混合診療における不可分一体論です。国は裁判で次のように主張しました。保険診療と保険外診療を併用すると、両者は不可分一体であるから全体として保険外診療となる。だから混合診療では保険診療に対する保険給付は有りえないという論理です。これが患者にとっての「混合診療の原則禁止」の意味だと国は主張したのです。そこでインターフェロン療法(保険診療)を受けていた清郷氏が、LAK療法(保険外診療)を併用したことによりインターフェロン療法に対する保険給付が受けられなくなったのです。
「混合療法の原則禁止」という政策、その例外とされた保険外併用療養費制度、その中の評価療養という手段、その一つに先進医療があります。厚労省Hpによると、先進医療「部分」は全額自己負担、そして通常の治療と共通する「部分(診察、検査、投薬、入院料)」は保険給付と、分類しています。この考えでは、保険診療であるインターフェロン療法でも共通する部分(診察、検査、投薬、入院料)とそれ以外の部分(インターフェロンという薬剤部分)とに分離可能だということになります(診療報酬がそれぞれに点数を決めて支払われることから、これは当然のことです)。つぎにインターフェロン療法とLAK療法の併用を考えてみましょう。それぞれが、共通部分とそれ以外の部分に分離可能だと言うことになります。すなわち、経済的には、共通部分はあるが、少なくとも一部は可分・別体であるということです。
「混合療法の原則禁止」という政策の基礎とした国の主張が不可分一体論です。しかし、その政策の一部である先進医療には、少なくとも一部は「可分・別体」であることを国は示しています。この矛盾は次のように説明できます。
A診療には有効性aとともに有害性aが伴います。B診療には有効性bとともに有害性bが伴います。これを併用するとどうなるでしょうか。患者は有効性aと有効性bだけでなく、併用療法による効果(相乗効果)cをも期待して受けることでしょう。一方、有害性もaとbだけでなく、相乗効果による有害性cが起きる可能性があります。AとB診療の療法では、有効性においても有害性においても、相乗効果があり得るので不可分一体論が成立します。しかし、診療報酬あるいは保険給付から考えると、少なくとも一部は可分・別体となります。たとえばインターフェロン療法(保険診療)とLAK療法(保険外診療)の併用を考えると、インターフェロンという薬剤については少なくとも点数の確定は可能だということです。
清郷氏は裁判で、国の不可分一体論に対して「完全な可分・別体論」を主張しています。上述のように「完全な可分・別体論」は間違っています。そのため国の不可分一体論を論破できず敗訴になったと考えられます。なお、日米経済界の求める規制改革も「完全な可分・別体論」を採用している限り、「混合療法の原則禁止」という政策を解消させることはできないでしょう。
ご意見を bpcem701@tcct.zaq.ne.jp まで頂ければ幸いです。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
中央社会保険医療協議会「患者申出療養」、臨床研究中核と大学本院が主
「原則6週間審査」に慎重さを求める声も
2014年10月23日(木) 橋本佳子(m3.com編集長)
中央社会保険医療協議会総会(会長:森田朗・国立社会保障・人口問題研究
所所長)は10月22日、「患者申出療養(仮称)」について議論、厚生労働省は
4つの論点を提示、細部については幾つか意見が出たものの、おおむね了承さ
れた(資料は、厚労省のホームページに掲載)。
厚労省が提示した論点に、22日に出た意見を踏まえると、「患者申出療養(仮
称)」は、(1)対象は、基本的には限定しないが、一定の安全性・有効性が
認められたものとし、明らかに保険収載の見込みがないものは対象外、(2)
リスクが高い医療は臨床研究中核病院と特定機能病院での実施が基本で、リス
クが中程度の医療はそれ以外の協力医療機関も実施可能、(3)「患者の申出」
が起点で、申請は、主治医等が説明し、患者が理解・納得した上で行う、(4)
国は「患者申出療養会議(仮称)」を設置し、新規に「患者申出療養(仮称)」
で行う医療については、臨床研究中核病院の申請から原則6週間で審査を行い、
可否を判断するが、6週間にこだわらず、安全性は十分に確認する――という
制度になる。
「患者申出療養(仮称)」は、今年6月の「日本再興戦略 改訂2014」で、「保
険外併用療養における新たな仕組み」として創設を提言されたもので、次期通
常国会への関連法案の提出が予定されている(『「患者申出療養」、来年の法
案提出目指す』を参照)。例えば、治験の対象患者に合致しない場合でも、審
査が通れば、治験薬を保険外併用療養として使用できるようになる見通しだ。
ただし、どこまで広がるかは対応医療機関に左右され、今後、「協力医療機関」
がどの定義されるかが注目点だ。
「患者申出療養(仮称)」の創設自体や制度の骨格については、支持する意
見が多かった。日本医師会副会長の中川俊男氏は、「(保険外併用療養の)評
価療養の仕組みは非常に高く評価しているが、十分とは思っていなかった。今
の先進医療は、対応医療機関が10以下で、その近くの患者以外は、先進医療を
受けにくい現実があった。対応医療機関が増えることは、患者にとって朗報」
との見解を示した。
健康保険組合連合会副会長の白川修二氏も、「未承認薬、適応外薬が使用で
きず、患者が苦しんでいるのか、そのデータがない。正直言って、どのくらい
のニーズがあるかは分からないが、全体のスキームとしてはこれでいいのでは
ないか」とコメント。
一方で、「患者申出療養(仮称)」の運用に当たっては、幾つか懸念点も出
た。日本薬剤師会常務理事の安部好弘氏は、適応外薬や未承認薬の使用なども
想定されることから、「治験をショートカットする手段として使われると、こ
の制度が推進しない。この点は留意してほしい」と指摘。この点については中
川氏も同意、「製薬企業が、患者申出療養に(治験候補の薬などを)組み込む
ため、患者や主治医に働きかけることは、絶対に許されないこと。それができ
ない仕組みにしてもらいたい」と求めた。
連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員の花井十伍氏は、インターネ
ットで海外等で行われている治療法をエビデンスの裏付けもなく、実施医療機
関に持ってくると混乱を来す可能性もあることから、「夢を持ってくる患者」
(花井氏)に対し、「前裁き的」に対応する体制が必要だとした。
制度が「患者の申出が起点」とされているため、「全て患者の責任になるこ
とを懸念している」と述べたのは、連合総合政策局長の花井圭子氏。これに対
し、厚労省保険局医療課は、健康被害が発生した場合などは、現行の先進医療
と同様の補償制度を用意するなどの対応をする方針だと説明。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
- << 早期胃がんを放置する?
- HOME
- 療養病院におけるリビングウイル >>
このたびURLを下記に変更しました。
お気に入り等に登録されている方は、新URLへの変更をお願いします。
新URL http://blog.drnagao.com
この記事へのコメント
>しかし彼は一人のがん患者であり、日本の医療を良くしたいと念じている
どうして『しかし』と、逆説的に捉える理由が『がん患者』であったり、『日本の医療を良くしたいと念じる』ことで、馬鹿な言説が免罪されるというのだろう?
長尾先生も説得力がないなぁ。、。
>エビデンスの裏付けもなく、実施医療機関に持ってくると混乱を来す可能性もあることから、「夢を持ってくる患者」(花井氏)に対し、「前裁き的」に対応する体制が必要だとした。
ただ根拠のない『夢』に前向きに対処しないといけない論拠も無茶苦茶な主張を連合がしているとすると、やはりお馬鹿としか言いようがない
夢を語るだけで根拠のない治療を保険医療機関にも押し付けるというのは、インチキにも免罪を与えることにも繫がり兼ねない。
リンパ球療法や丸山ワクチンなど、エビデンスの欠片もない、『夢』で、普通の医療を引っ掻き回すのはやめて欲しい
エビデンス レベルを比較しようもない普通の人達を混乱させる不安産業は、金品を強奪する点では、近藤誠の放置療法以上の破壊力
持ってますが、長尾先生は、本気でアメリカの医療を誤解している『夢』を大衆化させることに賛成なのですか?!
Posted by 漢方が何をしたというのかな? at 2014年10月24日 08:18 | 返信
コメントする
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL: