このたびURLを下記に変更しました。
お気に入り等に登録されている方は、新URLへの変更をお願いします。
新URL http://blog.drnagao.com
要介護の認知症高齢者に見つかったがん
2015年03月03日(火)
要介護の認知症高齢者に見つかったがんに、どう対峙するのか。
本人が放っておいてくれと言っているのに、家族がダメという時に
医者はどうしていいのか本当に分からなくなる。
本人が放っておいてくれと言っているのに、家族がダメという時に
医者はどうしていいのか本当に分からなくなる。
先日、若い在宅医からこんな質問を受けました。
足腰が弱って在宅医療を受けているご夫婦がいます。
少し認知症もあります。
老老、認認という、よくあるパターンです。
88歳の男性が排尿障害を訴えました。
問診で前立腺肥大が疑われたので、そのお薬を出しました。
ついでにPSAとう前立腺がんの腫瘍マーカーを測りました。
すると350という高値でした。(正常値は5以下)
しかし本人は、要介護2で、大の病院嫌い。
こんな時、どうすればいいの?という相談でした。
実は、これはよくある話。
しかしとても難しい問題です。
いろんな可能性、リスクがあるからです。
1 病院の泌尿器科に紹介する
2 紹介せず、様子をみる
本人と奥さん、そしてご家族と1週間かけて相談しました。
患者さんは、2を希望されますが、
遠くの長男長女は、1を強く希望されています。
がんの検査の段階で、本人と家族の意見が真反対に
分れてしまったのです。
どうすればいのか?という悩みなののです。
88歳の認知症男性のPSAが350、と分かってしまった。
前立腺がんが強く疑われますが、前立腺炎の可能性もあります。
確定診断のためには、前立腺の生検が必要です。
そのためには、検査入院が必要です。
しかし入院すると老老、認認の生活リズムが崩れます。
本人は要介護1で、奥さんは要介護2です。
あと、本人にどう説明するのか、という問題が立ちはだかります。
遠くの長男長女は、忙しくてなかなか帰って来れません。
そこで近くに住む次男さんに相談してみました。
次男さんは、「前立腺がんの疑い」と本人に言わないで欲しいと。
がんという言葉を聞いてうつになれば困るから、という理由でした。
実はPSAが高いことは軽く説明済みですが覚えていないようです。
第二に、次男さんは「病院への紹介はして欲しい」とのこと。
病院へ紹介することは、検査する=入院する、という意味ですが、
とりあえず、がんかどうかははっきり調べて欲しいとの希望です。
もし前立腺がんであれば全身に転移していないかの検査もあります。
骨シンチやMRIなど、じっとしておかねばらぬ検査ができるか?
そして、ホルモン治療などの治療をするかどうかも考える必要あり。
次男さんは、「検査はするけど、治療は希望せず」との意見でした。
ならば、検査をする必要が本当にあるのか?
そっとしておいたほうが入院しなくてもいいし、いいのではないか?
次男さんだけでは判断できないとのことで、遠くの長男長女にも
相談してもらうことになりました。
以上の話合いだけで、延べ2時間以上を要しました。
認知症高齢者にがんが見つかることは決して稀ではありません。
なぜなら、
2人に1人はがんになる時代だから。
これは生涯のうちにという意味です。
裏を返せば既に80歳、90歳まで生きのびた人は
5割以上の確率でがんを持っているということ。
そして3割以上ががんで亡くなるということです。
認知症高齢者が全員、認知症や老衰で最期を迎えるとは限らない。
半数近くが、がんで終末期を迎えるのです。
あまり実感が無いかもしれませんが数字で考えるとそうなります。
事実、介護老人施設入所者にがんが見つかることがよくあります。
食欲が減ったと思ったら、かなり進行した胃がんだった。
黄疸が出たと思ったら、かなり進行した膵臓がんだった、など。
もう歳だから・・・
なんて言おうものなら、家族に激しく怒られる場合があります。
あるいは遠くの長男長女が飛んで来て、やいやい言います。
普段会っていない分だけ後ろめたい気持ちから注文が増えます。
88歳認知症男性の前立腺がん疑いの扱いについても正解はありません。
しっかり検査、治療するのもひとつの道。
反対に、何もせず、痛みが出てから緩和医療だけを行うのもひとつの道。
しかし、年齢だけで医療の適応を決めるのも間違いです。
昨年、日野原重明先生は、102歳で心臓の手術をされました。
心臓のステント手術も100歳を過ぎても行われているのが日本の医療。
結局、家族内での話合いの結果、「病院へ紹介」の結論を出しました。
しかし本人は「病院へは行きたくない。放っておいてほしい」の一点張り。
実は、要介護2の認知症の奥さんも「行かないでほしい」でした。
困ったので、ケアマネさんにお願いして、「ケア会議」を開きました。
多職種が集まり、本人と家族代表と話合いました。
病院に行くか行かないかで、1時間話合いました。
しかしそれでも結論が出ません。
結局、みなさんは最後にこう言われました。
「先生が決めてください!」
なに?先生が決めるの?
せっかく本人と奥さんの意志が明確なのに・・・
認知症であっっても軽ければ、判断能力は充分あると思われます。
だから私は言いました。
「やはり、本人の意志が明確なので、もう一度よく話合って頂き
それを尊重してもらえませんか?」と。
結局、PSAが350と高値が分ってから3週間が経過しました。
遠くの長男・長女は、病状の進行を日々、強く案じています。
しかし肝腎の本人は無症状で、いたって上機嫌で在宅療養されています。
認知症や高齢者の意思決定システムが無い我が国では終末期医療だけでなく
がんの診断や治療の段階においてさえ、意思決定に多大な労力を要します。
本人の意志を尊重すればいいだけじゃないか、
みなさんは、そう思われるかもしれません。
実は、遠くの長男・長女は弁護士さんなのです。
自分たちの言う事を聞かないと「訴える」とほのめかされました。
訴えられたら、医者ができない。
だから家族が言うことに盲従するしかないのが医療現場です。
日本の高齢者の終末期医療の意思決定は、
・数%は本人が
・3分の2は家族が、
・3分の1は医者が、しています。
おそらく、がん医療においても同じような傾向にあるのでしょう。
こうしたややこしい問題に巻き込まれたくないと、在宅医療を避ける
医師が大半なのも分かる気がします。
もちろん24時間365日拘束も、敬遠される大きな理由なのですが。
昨日から今朝にかけても電話があちこちかかったので、熟睡はできません。
ボーっとした頭のまま外来をして会議をこなし、深夜まで在宅を回ります。
そして、PSA高値の人と家族に粘り強く向き合います。
患者さんの意志が尊重される法的な後ろ盾があれば医療者は助かります。
しかし日本は、そんなものは議論の必要すらない!という国です。
朝日新聞も「医療者のための議論にすぎない」と上から目線だけ。
長く書きましたが、日本の医療問題はつきつめていけば家族の問題です。
本人の意志と家族の意志が相反することが常。
だから家族が一切いない完全孤独のおひとりさまの医療が一番好きです
このたびURLを下記に変更しました。
お気に入り等に登録されている方は、新URLへの変更をお願いします。
新URL http://blog.drnagao.com
この記事へのコメント
老老にんにん
リズミカルな
暮らし
最後
かぞくに
とは
ひとり
くらし
には
途方に
くれます
ほんてた
のひ、と、り
いったい
誰が
決める野?
おぎようこ
おこらんど
墨あそび詩あそび土あそび
Posted by おぎようこ at 2015年03月03日 03:41 | 返信
一人暮らし。LW協会会員。家族の認証済。負債財産なし。
かかりつけ医師あり・介護認定申請済。
介護職員初任者研修終了。
臨死体験あり。
Posted by kayabuki110 at 2015年03月03日 08:00 | 返信
昨日は、職場の所長とターミナルケアの研修へ行ってきました。
大瀧厚子先生でした。とってもユーモアのある熱い方でした
こんな考え方のボスと仕事がしたいと思いました。
長尾先生、お体は大丈夫ですか?
ブログで勉強させていただきながら、先生の体も心も心配です。
Posted by 岡村典子 at 2015年03月03日 09:04 | 返信
がん治療は、年令や環境によって異なるので、簡単ではない、のですよね。
何歳まで治療を受けるべきなのか?と思っていたときがありましたが、今は、年令ではなく、その人その人の人生観で治療法を選ぶのがいいいのではないか、と、思う今日この頃です。
手術・放射線・抗がん剤だけではなく、緩和もがん治療において、大切な治療です。
それにしても、弁護士の子供が、親を診てくれている医師を訴えるとほのめかすとは・・・品がなさ過ぎます。
法は、私たちを守るものではありますが・・・そこまでいくと乱用だと感じます。
大病院に入れてしまえば、後になって後悔が残る可能性が高いのに・・・。でも、それは、経験をした者にしか分からないのかもしれませんね。
私自身も、大事な友人が、再発で苦しんでいたのに、大病院で治療をすれば大丈夫だと、無知で間違った事を言ってしまいました。 その後悔は、残された人生において、消えることはありません。
Posted by Yoshimi at 2015年03月03日 11:46 | 返信
私の母は、最近蕁麻疹が出ます。本人は、言わないのですけど、お風呂介助のヘルパーさんが、見つけて下さいます。痒いのはかゆいらしく、爪で掻いて皮膚炎になっています。母の弟も、一時、蕁麻疹が治らず、灸でなんとか治らないかと試してみましたけど、結局大腸がんの手術をして、蕁麻疹も消えました。
母は90歳ですし、7~8年前に、大腸がんの検査で、セーフだったので、お医者さんが抗アレルギー剤を出して下さって、様子を見ています。
年を取ると、色々な症状が出るもんだなあと思います。
でもどうするかと言う結論は、本人と家族で決めるものだと思います。
お医者さんは、あくまでアドヴァイスするだけだと思います。
Posted by 大谷佳子 at 2015年03月04日 12:23 | 返信
>実は、遠くの長男・長女は弁護士さんなのです。
>自分たちの言う事を聞かないと「訴える」とほのめかされました。
医師以上の一家言をもつ弁護士様。
どうぞ、ご自身で判断なさってお決め下さいまし。
という気持ちになりますね、医療従事者の端くれとしては。
Posted by ねこ at 2015年03月05日 02:29 | 返信
88歳のご高齢。
検査や治療がいろいろ始まるよりも、個人的には、このまま静かに過ごしていただければよいような気がします。
状態が不安定になってきたら、訪問看護導入でいざという時に備えるというのはどうかと、家族と話し合ってみるかなぁ・・・。
いちケアマネです。
Posted by とっと! at 2015年03月09日 01:12 | 返信
コメントする
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL: