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ALS患者さんへの人工呼吸器装着に思う

2015年04月20日(月)

常に何人かのALS等の神経難病の方を在宅医療で診させて頂いている。
人工呼吸器を装着している人もいるし、これから装着?という人もいる。
呼吸器を装着するかどうかの意思決定には極めて慎重な話合いが必要だ。
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私は信念として、意思疎通ができる神経難病の患者さんには、
全員、人工呼吸器の装着を勧めている。

ALS患者さんへの人工呼吸器は、車いすや松葉杖と同じだと考えるからだ。
私自身は、そうした場合の人工呼吸器は、延命処置とは考えていない。

しかし多くの患者さんは気管切開まではOKしても、機械の装着を嫌がる。
私は地上げ屋さんのように昼夜を問わず押しかけて説得してきた。

日本でのALSへの呼吸器装着率は2~3割だと認識している。
欧米は日本より一桁少ないが、土台となる保険制度の違いもあり気にしていない。

せっかく装着をOKされても、導入目的に入院されると意思が逆転したことかある。
病院の医師からは、必ずこう説明されて、患者さんは、おじけづくのだ。

「呼吸器は一度付けたら、一生、外せませんよ!」


驚いた家族は、病院から必ず電話をかけてくる。
「一生外せないのであれば、先生もういいです。本人も諦めました」

私は、「そんなことはありません。私は条件を満たせば外します。
    第一、具合がいいか悪いか、付けてみないと分らないじゃないか!」

「病院の先生は、”平穏死”させたほうが本人のためだと言っています!」

「それが”平穏死”とは私は思わないし、言ったこともない。
 呼吸器を付けても、いつかは多臓器不全になります。
 そこが終末期であり、現在はまだ終末期ではありあせん!」

必死で家族も説得するのだが、なにせ病院の先生の言葉のほうが重い。

「だって、病院の先生方はいったん付けたら絶対に外せないの一点張り。
 長尾先生が言っていることと真逆。それに長尾先生は平穏死を勧めているのでしょう?」

「だから、まだ終末期でも平穏死でもない!
 まだまだ生きられる。人生を楽しめるのだから、呼吸器を付けませんか」

こんなやりとりを何度か続ける。


特に若い患者さんの場合は、必死で呼吸器を勧める。
実際、装着されたあとは、まるで嘘のように穏やかな日が来ることも知っている。

「一度付けたら外せない!」が、病院の付けないための殺し文句なら、
「条件を満たせば外せる。少なくとも私は」が、私の説得文句。

外す条件とは、
・本人が「外して欲しい」と希望して、かつ
・多臓器不全などで、死期が近いとみんなが判断されること

もちろん、それがOKかどうかの法律は日本では無い。
日本では、先進国で無いのは日本だけ。

病院の先生から「それは殺人罪」とも説明されているので、それに対しても
「私はそうは思わないし、もし罪に問われるなら牢屋に入るから付けて」と頼むのだが・・・


平穏死が間違って理解されている気がしてならない。
私はそんなことは一度も言ったことはないし、誤解されている。

ALSの終末期像とは多臓器不全。
呼吸器を装着したいくらか後に、その時がやって来る。

本人の希望というより、「絶対に外せない」という病院の説得に負けてしまうことがある。
せっかく意識は清明なのだし、まだまだ生きられるのに、勿体ないことだと、悔しく思う。


いろんな意見があるだろう。
医療費のことを言い出す政治家もいるだろう。

しかしお金の問題と命の重みを一緒に論じてはいけない。
今はまだ平時だし、皆保険制度も使えるのだから、せいぜい生きて楽しんで欲しい。

「○○さん、長尾より長生きしてね」とお願いする。
そんな冗談でもしかしたら、気が変わることを期待しながら。

もしかしたら、意外に思われる方がいるかもしれない。
しかし以上は、私の日常。

たとえ本人が、NOと意思表示されても、絶望やうつの中でのNOではないかと必ず疑う。
まだまだ生きて楽しむことができることを最後の最後まで説得して回る。


国会での終末期の医療に関する議論は完全にストップしている。
朝日新聞等のメデイアが私とALSを対立構図で報じるやり方は、理解に苦しむ。

だいいち充分なインフォームドコンセントがなされているとは到底思えない。
私を殺人者呼ばわりする暇があるのなら、こちらの方をしっかり報じて欲しい。

多くの人工呼吸器装着中のALSの患者さんやご家族さんが日本尊厳死協会に入会されている。
そんな基本的な現実さえ勉強していない記者が勝手な対立構図を描き、誤報を垂れ流している。


PS)
『筋委縮性側索硬化症 診療ガイドライン2013』に事実上の法制化の必要性が書かれている。
20150420004105.jpg

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この記事へのコメント

脊髄側索硬化症などの難病に治療方法が、見つかればよいと願っています。
鍼灸院にも「鍼で脊髄側索硬化症が、治りませんか?」と尋ねて来られる患者さんがいらっしゃいます。
そのたびに、悔しい思いで「鍼で治ることは、ありません。体調がよくなるようにと鍼灸をしています」としか答えようがないからです。
長尾先生も患者さんのために、長生きしてください。
なんとかips細胞とか遺伝子治療で治れば良いのになあと期待しています。

Posted by にゃんにゃん at 2015年04月20日 03:00 | 返信

日本経済新聞の4月20日(月)の第一面の「医出ずる国 資源を生かす⑤」〝完治せずとも穏やかな人生”に、長尾先生のインタビューが載っています。
 ”兵庫県尼崎市の長尾クリニックの長尾和宏院長(56)はこれまでに約800人を在宅で看取った。過剰な投薬や治療を止め、穏やかな最後を迎える「平穏死」を実践する。
ただ、あらゆる治療に消極的なわけでは無い。長尾院長は、胃に穴をあけてチューブで栄養剤などをいれる(胃瘻)を勧めることもある。胃瘻は「不用な延命措置」ととられがちだが、「治さないといけないものと、そうでないものを、はっきり説明したうえで対応する必要がある」という。”

Posted by にゃんにゃん at 2015年04月20日 04:23 | 返信

>外す条件とは、
>・本人が「外して欲しい」と希望して、かつ
>・多臓器不全などで、死期が近いとみんなが判断されること

死を目前にするまではずせないってことは一生はずせないって言われてるのと同じだと思うんですけど、、、

私はALSではないのでALSの患者さんの気持ちはわかりませんけど
呼吸器をつけたくないというALSの患者さんが恐れているのは閉じ込め状態になることだと思うんです
そうなったまま生き続けることの恐怖だと思うんです
だから閉じ込め状態になったらはずしてもらえるのかっていうことが重要だと思います
でもそうなったときには死を望んでるかどうかなんてわかりませんよね
結局一生はずせないでしょう

Posted by ノバ at 2015年04月20日 11:09 | 返信

 凄い内容のトークバトル、と思いながら読みました。難病に関して、当事者以外の立場な自分が軽々しいことは書ける筈もなく、息を呑むような気持ちになります。長尾先生が仰る「私はそうは思わないし、もし罪に問われるなら牢屋に入るから付けて」と頼むのだが・・・このくだりには、なんと表現したらよいのか迷いますが、『信念の強さ』では括りきれない『生命への畏敬の念』が根底から滲み出ていると感じました。
 この事案からは話がそれますが、文中「平穏死が間違って理解されているような気がしてならない」という部分、かねてから危惧していました。誤解だけではなく利用する人も現れるであろうと思っていました。過去ブログへのMyコメント「放置死にならない事を望みます。」と書き込みした記憶がありますが、人を思いやる気持ちの到達点は教えて均一になるものではないでしょうと思うのです。長尾先生が有名になり、書籍が飛ぶように売れても、果たしてどうなのか...と思ったりすることもあります。

Posted by もも at 2015年04月20日 11:42 | 返信

主人は人工呼吸器、遺漏の
多系統萎縮症です。
つけて一年半です。
おかげで、在宅で生きています。

訪看、訪問入浴、往診で落ち着いています。

主人と楽しく暮らしています。

面白く代弁すると、おなかを揺らして笑ってくれます。幸せです。

Posted by 竹内孝子 at 2015年12月20日 06:13 | 返信

義母がALSです。発病して呼吸器を装着して20年以上です。
計画装着です。現在80歳を過ぎました。
何らかの形で意思を伝えることが出来なくなって7,8年経ちます。
当初の10年間は大変なりに装着していろいろと楽しむことができたと思います。
ですが、現在の状況を思うとわからなくなります。
全く意思表示が出来なく、目も見えず横たわっている状態で約10年・・
家族にとっては生きているだけでも嬉しいですが、我が身が義母だったら物凄く恐怖です。
義母も今の状態で長生きするとは考えていなかったと思います。
手足を取られ、目も口も塞がれ、死を選ぶ事もできず・・・
それでも考える事は出来ているのかも。
考えれば考えるほど、その人の覚悟のようなものがないと呼吸器装着はできないと思います
本人の意思確認では無理なので、5年とか10年過ぎたら外す約束がないと怖いです。

Posted by naisyo at 2016年03月06日 06:16 | 返信

ALSの場合「死期が明らかに近い」になるまでの間の
「身じろぎ一つできない」「コミュニケーションに多大な困難やストレスがかかる」
時間が結構あるのが問題なのだと思います。
それに、もう明らかに死が目前、になるまえにTLSになるかもしれませんし
その恐怖たるやというか。

にゃんにゃんさんと同意で「死の目前」まで外せないってことは
結局進行して死ぬまで外せないのとほとんど変わりません。

一度つけた呼吸器を、もっと早くに外す選択肢があれば、と願います。
そうすればかなり切開を第一次に選択するひとは増えると思います。

うちは家族が球麻痺からなので、体はまだ動くのに気管切開しなければ先に呼吸が難しくなります。
せめて元気なうちは呼吸を楽にしてQOLを上げてあげたい、苦しくさせたくない
と思います。
でももし自分がまったく動けず、種々開発されているとはいえ意思表示するのさえ多大な困難がいずれある場合。
ましてTLSになってしまった場合。
そしてその状態で5年、10年、15年、これは恐怖であります。
その家族はそういったものにすごく恐怖を感じるタイプなので
意志で外せないなら選べないという感じです

いろんなケース、装着からの余命はそれぞれだと思いますが
介護者も先に逝ってしまうかもしれない
子や孫は近くにいないかもしれないし、そちらはそちらで病気や介護があるかもしれない。
入院できる施設も近くにはないかもしれない。

一緒に住む、別れがたい介助者や友人が周りにいなくなって頑張っている意味を見出せなくなって
ただただその状態になっていても外せないのであればやっぱり辛いと思います。
「もういやだ、辛い、やっぱりやめた」ができないという恐怖

私はジェットコースターやアトラクションに乗れません
途中で自分の限界を超える恐怖に襲われても途中で降りられないからです

TLSになってもいろいろなことを受容して暖かく生きていられる
かもしれませんが
装着時や、意思表示できなくなってすぐはそう思っても、気もちがかわるかもしれません
しかしその時にはどうすることもできないのが恐怖です。
考えただけで叫びたくなりますが、叫ぶこともできないわけですから…

Posted by あんず at 2017年04月10日 07:59 | 返信

>実際、装着されたあとは、まるで嘘のように穏やかな日が来ることも知っている。

本当にそうでしょうか?
ある在宅療養をされているALSのAさんの話です。
ご本人は当初気切をしない、と意思表示されていましたが家族の「生きていて欲しい」との強い思いと医師の説得により気切、人工呼吸器装着の決断をされました。
数年後、寝たきりとなったAさんが呼び鈴をならしても家族は来てくれなくなりました。
ふすま1枚隔てた向こう側に家族がいるのが分かっているのに、いくら呼んでも来てくれないんです。
Aさんは訪問看護師に伝の心で手紙を書きました。
「こんなはずじゃなかった。だまされた。しにたい。おねがいですからくすりをつかってわたしをころしてください。ぜったいにうらみません。おねがいです。しにたい。しにたい。しなせてください。」

このような思いをしている方は少なくありません。
最初は”自分たちが最期まで介護する”と強く思っていた家族が介護に疲れ虐待をしたり、施設に入所させて面会もほとんど行かなくなる、そんな状況は珍しくありません。
”穏やかな日が来る”となぜ簡単に言えるのですか?
自分の顔にゴキブリが這ってきても自分では払えない、呼び鈴を鳴らしてもすぐそこにいる家族は来てくれない。
そんな方に対して「ね、私の言う通り呼吸器を装着して良かったでしょ。」と言えるのですか?

Posted by ゆう at 2018年06月08日 11:54 | 返信

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