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「ステージⅣがん患者学」の提唱

2015年05月16日(土)

日本医事新報の5月の連載では、「ステージⅣがん患者学」を提唱した。
溺れるものはワラをもつかむではないが、高額な免疫療法の餌食になる。
圧倒的に情報が不足して偏っているのがステージⅣのがん医療だと思う。
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日本医事新報5月号 「ステージⅣがん患者学」の提唱  長尾和宏

 
食い物にされるステージⅣ

全身に転移したステージⅣの50歳代の胃がんの患者(男性)さんがおられる。まだ若いのでなんとかがんを克服しようと必死で闘っておられる。抗がん剤、放射線治療、免疫療法、温熱療法、そして民間療法・・・。なんと3つの病院をかけもちされている。それぞれの病院で検査をしてはそれぞれの治療を受けている。そのうえに、温熱療法や免疫療法や民間療法も並行して行っている。つまり6つの医療機関にかかっている。当然、超多忙だ。衰弱してもはや一人で歩けないため、身内が付き添われて外出してられる。ご飯も充分に食べられず、ガリガリに痩せてきた。在宅医療を依頼されるも、連日通院中で訪問日の調整がつかない。複数の医療機関へ通院自体が大きな負担になっているのだが、本人はそれにも気がつかない。いや薄々分かっているはずだが、認めなくないのだろう。どこの医療機関の医師も「一緒に治しましょう」としか言わない。「もう治療をやめようよ。やめどきだよ」なんてことを言う医師は一人もいない。それどころか全身骨転移の痛みが強いので、「在宅で緩和医療をしましょうか」と提案したら、免疫療法の主治医から「まだ早い」と言われたと。その患者さんと接していると、ステージⅣにたかられているように感じる。一方、ご家族は、経済的理由もあり早く高価な治療をやめて欲しいと願っている。

世の中には、がんを治すための様々な情報が溢れている。誇大広告を鵜呑みにした患者さんは、全部組み合わせればなんとかなるかも?と、すがりがちだ。周囲を見渡すと現在のがん医療では、ステージⅣの患者さんは結構彷徨っておられる。いわゆるがん難民も含まれる。緩和ケア医がうちに回されるのが遅い、とボヤいているのは20年前と全く変わっていない。ボクシングであればセコンド係がタオルを投げ込んで試合をストップさせてくれるのでボクサーはリングで死なない。しかし現代のステージⅣは、黙っていたら死ぬまで闘わされる。町医者をしているとこうした「食い物にされているステージⅣ」の若い患者さんとたまに出会う。現代のがん医療を横断的に見てしまうと思わず、医療否定本を渡してあげようかと思う時もある。まあ蜘蛛の糸にすがる患者さんには、いまさら町医者が言っても、聞く耳をもたないことが多い。
 

日本人の3人に1人がステージⅣを経験する
がんは国民病なのに有名人ががんになるたびに騒ぎになる。また現役を引退された有名ながん専門医が「自分ががん患者になって初めて分かったこと」という本を書かれているように、がんという病との付き合い方を一人称で捉えることは意外に難しい。

日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっている。これは紛れもない現実だ。がんは数多ある病気の中でも最もありふれた病気だ。そして1/2-1/3=1/6、すなわち6人に1人は、がんになってもがんで死なない(完治する)、もしくはかがんになっても他の病気で亡くなっている。たったこれだけの数字を並べるだけでも「すべてのがん放置提言」はおかしいことを患者さんに説明できる。

もちろん、ステージⅣ=末期がん、ではない。5年生存どころか完治する例もある。たとえば肝、肺、脳に転移巣があるステージⅣの大腸がんが外科切除と化学療法で完治した例は珍しくない。反対にステージⅠでもがん死する人もいる。ステージⅡ、Ⅲは完治するか、がん死するかのどちらかである。すなわち、がんの3人に1人は完治するが、3人に2人はステージⅣを経て死に至るのが日本人の現実だ。例外として天寿がんもあるが、概ね2分される。極論すると日本人の3人に1人がステージⅣを経験する。その割には、ステージⅣに関する世の情報が不足している気がする。ステージⅣ=終末期という誤解は根強い。完治するほうの情報は豊富でも、完治しないほうの情報は、あまりに錯綜しているように思えてならない。
 
5年生存率から見たステージⅣ
5年生存率はがん治療の経過を表す数字。5年生存率は、治る、治らないではなく、単純にがんと診断されて5年後にその人が生きているかどうかの確率である。2003年~2005年にがんと診断された日本人の「がんの統計13年度版のがん種別5年生存率を調べてみると、全てのがんの5年生存率は、58.6%だった。「5年生存率」が高いがんと低いがんがあり10倍以上の差がある。「5年生存率」が高いがんの上位5つを挙げると、前立腺がん 93.8%、甲状腺がん 92.2%、乳がん89.1%、子宮体がん 79.8%、喉頭がん 75.9%。反対に、「5年生存率」が低いがんとしては、食道がん、肝臓がん、胆のうがん、胆管がん、膵臓がん、肺がん、脳腫瘍、白血病などが挙げられ、7~34%という数字が並ぶ。

80歳男性にPSA検査から前立腺がんが見つかることがよくあるが、そもそもがんで死ななくても、85歳まで生きているかどうか分らない。5年後に生きている確率が94%もあるのであれば、既に男性の平均寿命を過ぎているので前立腺がんを治療するかしないかという選択はどうでもいい問題なのかもしれない。80歳女性に偶然発見された甲状腺がんも同じような理屈になる。すなわち高齢者であるほどこうした臓器にできたがんには「放置療法」は理にかなった考え方になることがある。世に蔓延する極論は、高齢者のおとなしいがんへの過剰医療への警告であると受け止めれば、必要悪なのかもしれない。
 
 
「ステージⅣがん患者学」が無い医療界と医学教育

考えてみれば学校教育の中で「がん医療学」を学ぶ機会は無い。小中高や医学部で、我が国で最もありふれた病気であるがん患者さんの3分の2が通過するステージⅣを充分に教えていないことが不思議でならない。医学教育でもステージⅠ、Ⅱ、Ⅲは熱心に教えても、ステージⅣになると臓器によって扱いがかなり異なるため教えにくいのかもしれない。圧倒的に各論が不足していると感じる。

ステージⅣのがん患者さんへの対応は、年齢、臓器、悪性度、認知症の程度、QOL、そして高齢者であれば本人の死生観など多因子によって決まるのであろう。意思決定プロセスは、終末期だけではなく、ステージⅣのがん医療においても活かされるべきである。すなわち、CGA(comprehensive geriatric assessment)の概念である。しかしある病院ではキャンサーボードに患者さん自身が入っていない現実は理解できない。ステージⅣのがん医療においても患者さんの意思は最大限尊重されるべきであろう。さらに、ステージⅠからの緩和ケアが謳われて四半世紀が経過するが、現実にはステージⅣであっても充分な緩和ケアの恩恵に預かっている人はまだ少ない。地域包括ケアシステムが推進される中、在宅医の緩和ケアのスキル向上も急務である。

この2年間、終末期を考える市民フォーラムの講師として全国各地に呼んで頂いた。終了後の市民の質問は、ほとんどがステージⅣの抗がん剤治療への疑問であった。拙書「抗がん剤・10のやめどき」(ブックマン社)を差しあげて“やめどき”を自己決定して主治医に相談してみたら、と回答してきた。全国行脚の経験から「ステージⅣがん患者学」を多職種と市民で考えることを提唱したい。

最近は、この拙書をがん治療に従事する第一線の若き専門医やがん専門看護師にお渡しして読んで頂いている。「こうした考えを初めて知りました」という感想を言われた私のほうが驚いている。国民全体で“臓器別にステージⅣのがん医療”を考える時期に来ているのではないか。終末期フォーラムもいいが、今後は、ステージⅣがん医療や新しい認知症医療が国民の大きな関心になるはずだ。医療界はこうした具体的ニーズにしっかり応えられるように変容すべきではないだろうか。

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この記事へのコメント

「藁をもつかむ」は、いけないことでしょうか。

私も、若くして大腸がんで、小さな子供たちと配偶者を亡くした親戚がいます。
当時の技術では、CTが今ほど鮮明でなかったことなどもありましたが、最期は抗がん剤でボロボロにされ、病院では人として扱われないような状態であったようでした。

でも、子供のために諦めたくないと、必死だったのだと思います。

そうした経験も含め、私は自分の親へは、がん治療を慎重に考え、副作用が大きくない使い方をしてもらいました。 最終的には、治療を続けられない他症状が出て、平穏死という着陸方法を選びました。 

いろいろとありましたが、私たち家族は悔いが無く、親戚も最後には何も言わない穏やかなものでした。

私も人生で様々なことを経験し、親も高齢になっていたので「藁をつかまない」ことを、決めることができました。 けれど、親戚のような若い状況であり、私も若ければ、同じ「藁をつかもうとする」状況であったと思います。

大腸がんでステージ5 
根治を目指す手術をすることが可能なのは、素晴しいことだと思いますが、完治といいきれるものなのでしょうか?

苦しい再発予防の抗がん剤の治療(?)が、エビデンスではないとわかっても、受けないよりはいいのでしょうか。 http://umezawa.blog44.fc2.com/blog-entry-2428.html

私は、苦しみ、のたうち、「ガンのせいで」と泣き崩れていた、アメリカで見た知人の姿を忘れることはできません。

そして、その様子が、怖くて震えていた自分を思い出すと、悔しくなります。 

ガン治療で苦しんでいた人たちを考えると、私には、標準治療だけが正しいとはどうしても思えず、だまし討ちではないか?と思うことがあります。 

もちろん、選ぶのは患者であり、その家族です。 他の者が無責任に口を挟むことや、中途半端に高いサプリなどをプレゼントすることは、いけないことだと私は考えます。

平穏死で、緩和ケアの大切さを語られる長尾先生なら、あの苦しむ姿の「人間」を、どのようにケアされるのだろうか? と考えます。

私が一般人です。何もできません。
自分の親の時は、火葬時にはしっかりした骨があり安心しました。苦しみを与えずにすんだのだと。 

けれど、その後に続いた、親戚の場合には、骨がやせて軽くなっていて、涙が出ました。 大病院で標準的に使われた、ゾメタの副作用で苦しんでいたことを思い出し、無力さを感じました。

今は何もできないけれど、いつか、少しでも役に立つことができるように、論文を読んだり、考えを留めずに、学習を続けたいと思います。

Posted by よしみ at 2015年05月20日 02:23 | 返信

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