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ステージⅣのがんと言われたら

2015年06月23日(火)

知り合いががんで亡くなる毎に、自分もがんになるのだろうな、と思う。
もしステージⅣと言われたら慌てふためいてパニックになるのだろうか。
そのあたりの想いを、公論7月号に書いてみた。→こちら
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一番必要なのは、(ステージⅣのがん患者学」ではないだろうか。



公論7月号   「ステージⅣのがん」と言われたら  長尾和宏
 
3人に1人がステージⅣを経験
 俳優の今井雅之さんがステージⅣの大腸がんであることを告白された。痩せた今井さんを見て日本中が驚いた。国民病であるがんは有名人ががん会見をするたびにニュースになる。一方、がん専門医も「自分ががん患者になって初めて分かったこと」という本を書かれるが、がんという病との付き合い方を一人称で捉えることは意外に難しい。日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっている。これは紛れもない現実だ。がんは数多ある病気の中でも最もありふれた病気だ。そして1/2-1/3=1/6、すなわち6人に1人は、がんになってもがんで死なない(完治する)、もしくはかがんになっても他の病気で亡くなる。たったこれだけの数字を並べるだけでも「すべてのがんを放置する提言」はおかしいことは誰でも理解できる。

 もちろん、ステージⅣ=末期がん、ではない。5年生存どころか完治する例もある。たとえば肝、肺、脳に転移巣があるステージⅣの大腸がんが外科切除と化学療法で完治した例はもはや珍しくない。反対にステージⅠでもがん死する人もいる。ステージⅡ、Ⅲは完治するか、がん死するかのどちらかである。すなわち、がんの3人に1人は完治するが、3人に2人はステージⅣを経て死に至るのが日本人の現実だ。例外として天寿がんもあるが、概ね2分される。極論すると日本人の3人に1人がステージⅣを経験すると言える。その割には、ステージⅣに関する世の中に情報が不足している気がする。ステージⅣ=終末期という誤解は根強い。完治するほうの情報は豊富でも、完治しないほうの情報があまりに錯綜している。
 
彷徨えるステージⅣ患者たち
 私の患者さんに以前、全身に転移したステージⅣの50歳代の胃がんの患者(男性)さんがおられた。まだ若いのでなんとかがんを克服しようと必死で闘っておられた。抗がん剤、放射線治療、免疫療法、温熱療法、そして民間療法・・・。なんと3つの病院をかけもちされた。それぞれの病院で検査をしてはそれぞれの治療を受けた。そのうえに、温熱療法や免疫療法や民間療法も並行して行った。つまり6つもの医療機関にかかるので当然、超多忙だった。徐々に衰弱してもはや一人で歩けなくなったので、身内が付き添われて外出しておられた。ご飯が充分に食べられずガリガリに痩せ、在宅医療を依頼されるも、連日通院中で訪問日の調整が難しかった。複数の医療機関へ通院自体が大きな負担になっているのだが、本人はそれにも気がつかない。いや薄々分かっていたはずだが、認めたくなかったのか。特筆すべきはどこの医療機関の医師も「一緒に治しましょう」としか言わなかったこと。「もう治療を止めようよ。止めどきだよ」なんてことを言う医師は一人もいなかった。それどころか全身骨転移の痛みが強いので、「在宅で緩和医療をしましょうか」と提案したら、免疫療法の主治医から「まだ早い」と言われたと。その患者さんと接していると、なんだかステージⅣにたかられているように感じた。一方、ご家族は、経済的理由もあり早く高価な治療をやめて欲しいと願っておられた。

 世の中には、がんを治すための様々な情報が溢れている。誇大広告を鵜呑みにした患者さんは、全部組み合わせればなんとかなるかも?と、藁をもすがる。周囲を見渡すと現代のステージⅣの患者さんは結構あちこち彷徨っておられる。いわゆるがん難民も含まれる。緩和ケア医が「うちに回されるのが遅い」とボヤくのは20年前と何ら変わっていない。ボクシングであればセコンド係がタオルを投げ込んでくれるのでボクサーはリングで死なない。しかし現代のステージⅣは、黙っていたら死ぬまで闘わされる。思わず、医療否定本を渡してあげようかと思う時もある。まあ蜘蛛の糸にすがっている患者さんには、いまさら町医者が言ったところで、聞く耳をもたない。
 
「ステージⅣがん患者学」の提唱
 学校教育の中で「がん医療学」を学ぶ機会は無い。小中高はもとより医学部でも、我が国で最もありふれた病気であるがん患者さんの3分の2が通過するステージⅣについてほとんど教えていない。医学部ではステージⅠ、Ⅱ、Ⅲは熱心に教えても、ステージⅣになると臓器によって扱いが大きく異なるためほとんど教えていない。結局、圧倒的に「ステージⅣがん患者学」の各論が不足しているため患者さんは彷徨っている。

  ステージⅣのがん患者さんへの対応は、年齢、臓器、悪性度、認知症の程度、QOL(生活の質)、本人の死生観などを勘案して決まる。こうした概念をCGA(comprehensive geriatric assessment)といい今後益々重要になる。もちろん本人の意思が充分に尊重されるべきだ。意思決定プロセスは、終末期だけではなく、ステージⅣのがん医療においても活かされるべき方策である。
この3年間、終末期を考える市民フォーラムの講師として全国各地に呼んで頂いた。しかし終了後の市民からの質問は、ほとんどがステージⅣの抗がん剤治療への疑問であった。拙書「抗がん剤・10のやめどき」(ブックマン社)を差しあげては、“やめどき”を主治医に相談してみたらどうか、と回答してきた。こうした全国行脚の経験から「ステージⅣがん患者学」を患者と医療者が一緒になって考えることを提唱している。

 最近は、その本を第一線でがん治療に従事する専門医やがん専門看護師にお渡ししている。ベテラン医師から「こうした考えを初めて知りました」という感想を言われると私のほうが驚く。ともあれ、そろそろ国民全体で“臓器別にステージⅣのがん医療”を考える時期に来ているはず。終末期フォーラムも大切だが、その手前のステージⅣがん医療も国民の大きな関心事である。医療界はこうしたニーズにしっかり応えられるように変容すべき時ではないか。

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※本ブログは転載・引用を固くお断りいたします。

この記事へのコメント

私は、自分自身がステージIVといわれたら、冷静でいられるかどうかはわかりません。
健康診断を受けるたびに、結果を開くのにさえ、躊躇します。

ステージIVは治らないけれど、現在のIT技術が進んだ医療システムで見えているガンでは、明日直ぐに、命がなくなるものではないし、どうするべきかを自分で責任を持って考えなければならないと思っていますが、様々な療法にも気が行ってしまうのではないかと予想します。

家族がガンになったときには、いろんなことを考えたのに、そこから離れると、また人事になっていることに、改めて反省です。

Posted by よしみ at 2015年06月24日 02:13 | 返信

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