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がんの在宅医療と漢方

2015年07月22日(水)

「漢方診療」の第7回目は、がんの在宅医診療と漢方、について書いた。
今日も補中益気湯が著効しているステージⅣのがん患者さんを診ていた。
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漢方在宅診療日誌第7回  がんの在宅医療と漢方 長尾和宏
 
がん患者さんの在宅期間は平均1ケ月半
 外来で診ている患者さんにエコーや内視鏡でがんが発見されることはよくある。早期発見・早期治療で助かる場合もあれば、病院でさまざまながん治療を行うも助からない場合もある。かかりつけの患者さんが在宅医療に移行するタイミングは意外と難しい。外来通院のイメージが残っているため、医療者が家に行くことに大きな抵抗を示されることがよくある。現実には、末期がん患者さんの平均在宅期間は、1.5ケ月であると言われている。週に1回の訪問なら、たった数回で終わってしまうのが末期がんの在宅医療だ。本当にあっと言う間のことが多い。

 認知症の在宅医療が年単位に及ぶのに対して、末期がんの在宅療養は短期決戦型と言われる所以である。もちろん臓器や年齢によって在宅期間はかなり差がある。乳がんや前立腺がんは数ケ月に及ぶことがあるが、膵臓がんや胃がんでは2週間程度のこともある。また年齢が高いほど、がんの進行が遅い印象がある。

 末期がんの在宅看取り率は、非がんと比べて格段に高い。私のクリニックでも8~9割を看とることになる。がん患者さんは多いが比較的短期間で亡くなるため回転率?が高く、反対に認知症の方ばかり残っていく(?)のが、町医者が行う在宅医療の現状かもしれない。当院では年間90人程度の在宅看取りがある。以前はがん患者さんが大半だったが、数年前から、非がんの看取りのほうが多くなった。今回、末期がんの在宅医療と漢方は実は相当にご縁が深く相性がいいことを紹介させて頂く。
 
ギリギリまで続く抗がん剤治療と副作用対策
 抗がん剤治療に1990年ころから分子標的薬が登場した。よくピンポイント攻撃に喩えられる薬だ。最近は、遺伝子検査で分子標的薬が奏功する可能性が高いと予測された患者さんにしか投与されないが、結構、亡くなる直前まで投与されていることが少なくない。分子標的薬の抗腫瘍効果に関しては当初期待されたほどではない、というのが一般的な評価であろうが、最近はかなり事情が変わってきた。ザーコリに代表される第二世代と呼ばれる分子標的薬の時代に移行しつつある。そして奏功率がなんと9割を超える分子標的薬が登場したのだ。

 このように良く効く飲み薬の抗がん剤であると、在宅医療に移行しても結構最期の最期まで飲ませていることが多い。分子標的薬は従来の抗がん剤のような激しい副作用は無くても、様々な副作用がある。たとえば手足に現れる独特の皮膚症状や神経症状という副作用に長く悩まされている患者さんが実に多い。こうした末梢神経障害は抗がん剤中止後も結構続く。外来診療やそれから移行する在宅医療で行われる緩和ケアには、こうした抗がん剤治療の身体的、精神的後遺症のアフターケア、トータルペインへの対応も含まれている。
 
 
補中益気湯と牛車腎気丸の著効例
 私は難治性の手足のシビレ症状に対して、牛車腎気丸をよく使用する。シビレの改善効果は患者さんしか分からないが、大半が継続処方を要求するということはよく効いているものと評価している。牛車腎気丸の末梢神経障害への効果に関しては多くの著効例を経験してきた。同時に食欲不振もあることが多いので、補中益気湯も併用する場合がよくある。

 最近、全くの無治療(本人の強い希望で)のステージⅣの肺がん患者さんに補中益気湯を投与した経験をご紹介したい。補中益気湯の4ケ月間投与でCEA値が460から16にまで低下したので、まったく驚いている。そうした好印象も加わり、がんの在宅免疫療法という意味合いも込めながら補中益気湯を処方する回数が増えている。

 もう10数年ぐらい前になるだろうか。京都大学のある教授のこの補中益気湯を使った免疫療法の研究成果をNHKスペシャルで観た記憶がある。がん患者さんのリンパ球を補中益気湯で“教育”して体内に返したら、がんに著効したとの内容であったと記憶している。その研究をされていた教授は残念ながら御自身ががんで他界され、その研究のその後を知らない。しかし著効例を経験すると、昔のその映像が蘇った。

 牛車腎気丸と補中益気湯。この2剤が私の中では在宅緩和ケアの主役である。もちろんコムラ返りへの芍薬甘草湯や嘔気への五苓散など、なにかと漢方薬のお世話になることが多い。末期がんの在宅医療と漢方薬は切っても切れない関係にあると感じる。

 
 
 

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