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プライマリケア医のうつ病診療にSSRIは要らない?
2015年08月06日(木)
プライマリ医のうつ病診療にSSRIは要らないという意見があるので紹介したい。
一方、大阪にはGPネットという、精神科医とプライマリケア医の連携の会がある。
SSRIについては様々な意見があるが、私は年々消極的になりつつある。
一方、大阪にはGPネットという、精神科医とプライマリケア医の連携の会がある。
SSRIについては様々な意見があるが、私は年々消極的になりつつある。
『プライマリケア医のうつ病治療に抗うつ薬はいらない?』
2015/8/3 宮岡等
http://goo.gl/RL34PM
うつ病の増加とSSRIの登場
「うつ病患者が増えた。精神科医だけでは対応しきれないので、かかりつけ医やプライマリケア医もうつ病を診るようにしよう」、「軽症のうつ病はプライマリケアの対象疾患だ」――。こうした言葉はよく耳にするし、「非専門医のためのうつ病講座」も各地で開かれている。そうした講座では、うつ病への対応として、認知行動療法などの非薬物療法も教えられるが、薬物療法が強調されることが多い。
うつ病の薬物療法講座で決まり文句のように教えられるのは、「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を含む新規抗うつ薬は、これまでの三環系抗うつ薬よりも副作用が少ないため、プライマリケア医やかかりつけ医も用いやすい」というものだ。
抗うつ薬の本当の効果
抗うつ薬の効果を論じる上で、まずは2つの重要なエビデンスを見てみよう。1つ目は日本で実施され、2009年に発表されたミルタザピン (商品名レメロン、リフレックス) の治験だ。
かつて抗うつ薬は、「標準薬に対する非劣性か優越性の検証」によって治験が行われてきた。本試験は、うつ病およびうつ状態の患者を対象とし、治療開始時から薬剤としての活性のないプラセボと実薬とを比較する二重盲検比較試験を初めて採用した治験だった。主要評価項目は、うつ病の重症度評価に用いるハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale:HDRS)とされた。投与開始前からの得点の変化量は、ミルタザピン30mg群で13.8点、プラセボ群で10.4点(P=0.0065)となり、 30mg群のプラセボ群に対する優越性が検証された(木下利彦.臨床精神薬理.2009;12(2):289-306.)。
HDRSについてここでは詳述しない。ただし、HDRSの3.4点という差が統計学的に有意な差であっても、臨床的にはどの程度の意義があるかは慎重に評価すべきだろう。プラセボであっても、投与開始前から10.4点低下したという事実も重要だと思える。その後、デュロキセチン(商品名サインバルタ)、エスシタロプラム(商品名レクサプロ)においてもプラセボと比較する治験が行われているが、類似の結果となった。
2つ目は、2010年にJAMA誌に掲載されたメタ解析論文だ。HDRS得点が24点程度を下回るうつ病では、抗うつ薬の効果とプラセボによる効果にほとんど差がない。ただし、それ以上の得点のうつ病、すなわち重症度の高いうつ病であれば、抗うつ薬の効果がプラセボに優るとしている。すなわち、軽症と中等症のうつ病では抗うつ薬の効果は乏しいことを示している(Fournier JC, et al. JAMA 2010 Jan 6;303:47-53.)。
患者さんへの「正しい」説明
これらの結果から、(1)抗うつ薬がどの程度プラセボに優るかは十分検討されねばならないし、軽症例では特に効果が乏しい可能性が大きいし、(2)日本で治療対象となるうつ病の多くは、プラセボを投与した場合でもHDRS得点が10点程度下がるということは、抗うつ薬を用いる医師の必須知識であると考える。
かつては抗うつ薬療法開始時の説明として「抗うつ薬が効きますから、きちんと飲んでください」が医師の常識であったし、一部の教科書にも書かれていた。しかし、少なくとも軽症から中等症のうつ病患者に対しては、この説明は不適切ということになる。
エビデンスを重んじて説明するとすれば、うつ病が軽症であれば、「日本の臨床試験のデータをみると、薬効のないプラセボでもある程度うつ病が良くなることが分かっていますが、抗うつ薬を飲んでみますか」であり、「効果はプラセボとほとんど変わらないというデータもありますが、試してみますか」であろう。「気分が落ち込んでいる人に『この薬を飲んでも効かないかもしれない』などと医師が言うのか」と質問されることがあるが、うつ病の重症度を勘案して、事実を歪めない説明を検討すべきである。
プライマリケア医は抗うつ薬を処方する必要なし?
さらに、非専門医の抗うつ薬処方には検討すべき問題がある。軽症のうつ病はプライマリケア医が治療にあたり、中等症から重症のうつ病は精神科医に依頼した方が良いと考えるなら、抗うつ薬の効果が見込めない軽症うつ病だけを診るプライマリケア医は、抗うつ薬を用いる必要はないということになる。
もちろん、精神科医には任せずに中等度以上のうつ病を治療する、あるいは患者が精神科受診を拒否するのでプライマリケア医が治療するケースもあるだろう。さらに最近は、精神科医の不適切処方も問題になっている。専門医でも非専門医でも、うつ病治療に抗うつ薬を用いる場合は、適切な知識で対応すべきであり、当然のようにプライマリケア医が行っている抗うつ薬処方は、再考すべきであろう。
【参考】宮岡等「うつ病医療の危機」(日本評論社、2014年)
2015/8/3 宮岡等
http://goo.gl/RL34PM
うつ病の増加とSSRIの登場
「うつ病患者が増えた。精神科医だけでは対応しきれないので、かかりつけ医やプライマリケア医もうつ病を診るようにしよう」、「軽症のうつ病はプライマリケアの対象疾患だ」――。こうした言葉はよく耳にするし、「非専門医のためのうつ病講座」も各地で開かれている。そうした講座では、うつ病への対応として、認知行動療法などの非薬物療法も教えられるが、薬物療法が強調されることが多い。
うつ病の薬物療法講座で決まり文句のように教えられるのは、「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を含む新規抗うつ薬は、これまでの三環系抗うつ薬よりも副作用が少ないため、プライマリケア医やかかりつけ医も用いやすい」というものだ。
抗うつ薬の本当の効果
抗うつ薬の効果を論じる上で、まずは2つの重要なエビデンスを見てみよう。1つ目は日本で実施され、2009年に発表されたミルタザピン (商品名レメロン、リフレックス) の治験だ。
かつて抗うつ薬は、「標準薬に対する非劣性か優越性の検証」によって治験が行われてきた。本試験は、うつ病およびうつ状態の患者を対象とし、治療開始時から薬剤としての活性のないプラセボと実薬とを比較する二重盲検比較試験を初めて採用した治験だった。主要評価項目は、うつ病の重症度評価に用いるハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale:HDRS)とされた。投与開始前からの得点の変化量は、ミルタザピン30mg群で13.8点、プラセボ群で10.4点(P=0.0065)となり、 30mg群のプラセボ群に対する優越性が検証された(木下利彦.臨床精神薬理.2009;12(2):289-306.)。
HDRSについてここでは詳述しない。ただし、HDRSの3.4点という差が統計学的に有意な差であっても、臨床的にはどの程度の意義があるかは慎重に評価すべきだろう。プラセボであっても、投与開始前から10.4点低下したという事実も重要だと思える。その後、デュロキセチン(商品名サインバルタ)、エスシタロプラム(商品名レクサプロ)においてもプラセボと比較する治験が行われているが、類似の結果となった。
2つ目は、2010年にJAMA誌に掲載されたメタ解析論文だ。HDRS得点が24点程度を下回るうつ病では、抗うつ薬の効果とプラセボによる効果にほとんど差がない。ただし、それ以上の得点のうつ病、すなわち重症度の高いうつ病であれば、抗うつ薬の効果がプラセボに優るとしている。すなわち、軽症と中等症のうつ病では抗うつ薬の効果は乏しいことを示している(Fournier JC, et al. JAMA 2010 Jan 6;303:47-53.)。
患者さんへの「正しい」説明
これらの結果から、(1)抗うつ薬がどの程度プラセボに優るかは十分検討されねばならないし、軽症例では特に効果が乏しい可能性が大きいし、(2)日本で治療対象となるうつ病の多くは、プラセボを投与した場合でもHDRS得点が10点程度下がるということは、抗うつ薬を用いる医師の必須知識であると考える。
かつては抗うつ薬療法開始時の説明として「抗うつ薬が効きますから、きちんと飲んでください」が医師の常識であったし、一部の教科書にも書かれていた。しかし、少なくとも軽症から中等症のうつ病患者に対しては、この説明は不適切ということになる。
エビデンスを重んじて説明するとすれば、うつ病が軽症であれば、「日本の臨床試験のデータをみると、薬効のないプラセボでもある程度うつ病が良くなることが分かっていますが、抗うつ薬を飲んでみますか」であり、「効果はプラセボとほとんど変わらないというデータもありますが、試してみますか」であろう。「気分が落ち込んでいる人に『この薬を飲んでも効かないかもしれない』などと医師が言うのか」と質問されることがあるが、うつ病の重症度を勘案して、事実を歪めない説明を検討すべきである。
プライマリケア医は抗うつ薬を処方する必要なし?
さらに、非専門医の抗うつ薬処方には検討すべき問題がある。軽症のうつ病はプライマリケア医が治療にあたり、中等症から重症のうつ病は精神科医に依頼した方が良いと考えるなら、抗うつ薬の効果が見込めない軽症うつ病だけを診るプライマリケア医は、抗うつ薬を用いる必要はないということになる。
もちろん、精神科医には任せずに中等度以上のうつ病を治療する、あるいは患者が精神科受診を拒否するのでプライマリケア医が治療するケースもあるだろう。さらに最近は、精神科医の不適切処方も問題になっている。専門医でも非専門医でも、うつ病治療に抗うつ薬を用いる場合は、適切な知識で対応すべきであり、当然のようにプライマリケア医が行っている抗うつ薬処方は、再考すべきであろう。
【参考】宮岡等「うつ病医療の危機」(日本評論社、2014年)
- << 発売5日で重版されました
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