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紋切型で舌足らずのNHK

2015年09月20日(日)

「平穏死」という造語の生みの親である石飛幸三先生が
今夜、「老衰」でNHKスペシャルに出るということだったので、
偶然にも平穏死の看取りを終えて急いで帰宅してテレビを観たが・・・
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みなさまは、今夜の映像を観て、どのように感じられたのでしょうか。

・感動した!
・素晴らしかった!
・はじめて知った!

という人が、ほとんどでしょう。

たしかに、「老衰」は古くて新しいテーマだし、
看とりの実際や子供との会話を報じた意味は大きかった。


それを承知のうえで、現場の医師の立場から、敢えて辛口コメントを書いてみたい。


1 認知症に胃ろうをすることに意味は無い、と断じていたが、どうなのか。
  
  しかしあれはアメリカ老年医学会の見解であり、日本では違う。
  日本は、「胃ろうをやってもいいし、やらなくてもいい」と言っている。

  認知症終末期の胃ろうに延命効果が無い、というのは海外の話であって
  日本では2年程度の延命効果がある、というエビンデンスがあることは一切報じなかった。

  だから何十万人もの沢山の胃ろう人が、現実にいるし、この番組を観ている人の中にも
  たくさんの胃ろう患者さんがいる。

  前回の胃ろうの特集の時にも指摘したのだが、同じ過ちを繰り返している。

  あの特養を、前回、報道ステーションが特集した時には、経鼻栄養の入所者が何人かいた。

  しかしそうした現実にはまったく言及せずに、敢えて都合のいい人だけを選んでの放映だ。

  最初から結論ありき、にしか見えなかった。
  報道ステーションの映像のほうがまだリアルにさえ思えた。

  アメリカのデータで日本の胃ろうが語れないから困っているのだ。
  拙書「胃ろうとい選択、しない選択」に書いたとおり。

  そんな単純ではないので、みんな困っているのだが、複雑な話は切り捨てて
  極論にもっていく手法は、どこか近藤誠医師を連想させた。

  おそらく、日本静脈栄養学会や、PEGドクターズネットワーク(PDN)は、
  公平性を欠いた報道に抗議をするのではないか。



2 今、胃ろうをやっている人が、明日から本当に胃ろうを止められるのか?

  この放送を観た家族の中には、真に受けて、明日から「胃ろう」を止めるという人が
  沢山出るのではないのかなあ?と思った。

  もしそれを主治医に頼んだとき、本当に中止する医師がどれだけいるのだろうか。
  現場の医師からクレームが来ないのかなあ、と思った。

  日本老年医学会は「終わりが近ければ中止しても構わない」と言っているが
  その意思決定プロセスが無いまま中止、という事態が増えまいか。

  中止は”尊厳死”の範疇だが、それを”安楽死”と誤解する医師が大半ではないのか。
  拙書「長尾和宏の死の授業」に書いたように、そんな単純な話ではないのだ!!

  こうした報道の余波を予測して、それを緩和するための解説等のフォローが必要だが
  それも無いまま、情緒的に流してしまおうとしていたが、よほど強い意図があるのか。



3 私が大嫌いな、QOD(死の質)という言葉を唐突に使っていた。

  イギリスがQOD世界一だと報じていたが、そもそも
  どこの誰が、どんな方法で、質を調査したのか?

  そもそも「質」を誰が評価するの?
  ・本人?(でも、死んでもういない)
  ・家族?(沢山いるし、誰なの?)
  ・医者?(医者もいろいろ)

  ネットで見ると、日本人のQODは、40ケ国中21位らしい。→こちら
  でも、これはイギリス人が勝手に評価したものではないか。
 
  QODなんて言葉は要らないし、死に行く人に失礼だと思う。
  私はいっさい、こんな上から目線言葉は使わないし、使えない。

  番組を正当化するために、唐突にQODと言われると、私でさえ引いてしまう。
  なんでも横文字を使えば、素人を納得させられると思っているのかなあ。


4 死の映像は日本の特養、しかしエビデンスは外国、という陳腐さ

  日本人は外国に弱い。
  敢えてガイジンの研究者に語らせて、それをエビデンスとして真実を装う手法。
 
  そもそも、
  歳がいくと、同じように食べても太らずに痩せていくのは当たり前の話ではないか。

  あるいは、
  「慢性炎症」や「炎症性サイトカイン」という急に難しい言葉を使って
  視聴者を煙に巻こうという姿勢が気になった。

  がんも膠原病も「慢性炎症」であり、「炎症性サイトカイン」が悪さをしていて
  なにも「老衰」だけの話ではない。

  無理やりに老衰のエビデンスらしきものを並べて、正当化しようとしていると感じた。


5 あんな可愛い家族ばかりではない!

  物分かりがよく、優しく、可愛い家族ばかりが登場していたが、それなら誰も苦労しない。
  現実には、そうではない家族が続続と登場して、その狭間で狼狽するのが現場だと思う。

  日本の終末期医療の問題は、一言でいえば、家族の問題なのだ。
  あんな風にはいかない家族が大半なことには一切触れなかった。
  
  だから「平穏死という親孝行」という本を書き、その点を指摘した。
  家族との葛藤は、アウエイ(=在宅)ではあんなものではない!

  家族に訴えられるリスクがほぼセロの安全地帯と
  地雷がたくさん埋まっているかもしれない危険地帯の差は、NHKには関係ないのか。


石飛先生は素敵だった。
淡々と現場の医師としての務めを果たされている姿に感動した。

しかし番組の造り方が、あまりにも紋切り型で、最初に結論ありき、に感じた。


国の意向もあるだろうし、そのように誘導したい気持ちは分かる。
私だって尊厳死協会の副理事長として全国を飛び回っている身だ。

しかし、現場で起きていることは、そんな単純なことではない。
もっと複雑なことが絡み合っているので、みんな悩んでいるのだ。

臓器不全症然り
がんも然り・・・

90歳代の「老衰」を、「特養」という極めて分かり易い場所で
都合のいい映像とエビデンスもどきだけを並べて報じる姿勢に違和感を覚えた。


ひとことで言うならば、
あまりにも紋切り型で舌足らずの報道だった。


あんな美談だけなら、誰も苦労しない。
しかし美談だけで、ひとつの結論に導きたい意図がまる見えの内容。

現実は、もっと複雑で、ドロドロしている。
家族も現場もヨロヨロ揺れている。

そこを報じるのが映像メデイアの役割なのに、最初から
造り手が描いた絵が透けて見えるような薄い内容だった。

おそらく、99%の視聴者は「素晴らしかった!」であろう。

だから敢えて、違う見方もあることを記しておきたい。

本気でこうしたテーマを扱うのであれば、こうした美談仕立てではなく、
ドロドロした現実の中に見え隠れする本質を浮き彫りにして欲しい。

・欲望
・無知
・親の年金狙い
・在宅
・介護
などの基本的なテーマを抜きにして、終末期医療は到底語れないのに
これらの要素はすべて無し。


1回の番組では絶対無理なので、最低でも5回くらいに分けないと。

正直に言うと、期待した分だけ、落胆が大きかった。

このブログでみんなに宣伝した責任があるので、ここでは正直な感想を書いておく。


偏向報道が目立つ、NHKさんには、次に期待したい。(毎回そうだが)



PS)
書いているうちに、また深夜往診の依頼が。
ドロドロ???
  



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この記事へのコメント

深夜往診、お疲れ様です。ドロドロではなくサラサラだといいですね。(無意味なJokeです)
踊る大捜査線「事件は会議室で起こっているのではない! 現場で起きているんだ!!」織田裕二のセリフ
のような長尾先生が仰る感想、コメントを支持します。
録画もしたので、他チャンネルと行き来しながらの視聴でした。雰囲気先行な出来、作りでしたから。
石飛先生が素敵でした。番組は見栄えする御家族を綺麗に撮り、番組の終わり頃にも美人な老人を
アップにして、なにせイメージ、イメージ、でしたね。
長尾先生が日々直面していらっしゃる、ドロドロ、ヨロヨロはドキュメントでは難しいでしょうから
ドラマとして作られたら結構、視聴率取れるかも?

Posted by もも at 2015年09月21日 01:09 | 返信

ちょうど石飛先生登場のところでした。
中村先生も、石飛先生のような感じで接しておられるのでしょうか。
いつのころからか、食する量が3分の1、体重が20キロ減になっています。
これも、「老衰」なのでしょうか?
年に何度か、体調がダウン。五木寛之さんにならって?、
小鳥のように絶食絶水で、自然治癒力が回復するまで、待ちます。
回復しなければ、そのまま自然死ということでしょうか。
「ひとり死」を覚悟していますので、逆算できそうです。
再放送時には録画しておかなくては、と思っているところです。

それにしても、連休中ゴルフ三昧という、われらが宰相!

Posted by 鍵山いさお at 2015年09月21日 07:51 | 返信

担当させていただいているお年寄り、ご家族、そして同僚のケアマネ、隣接事務所のヘルパースタッフに、放送の予告をしました。話のネタには十分な内容だったと思います。特に、老衰死に不安を抱いているお年寄りやご家族、老衰死に関わったことのない介護スタッフには感想を聞いてみたいと思います。
ささやかながら、今私ができるエンドオブライフケア援助の活動です。

Posted by 平穏CM at 2015年09月21日 08:57 | 返信

死んでいく方達の、お顔を明確に映すことは、本人に許可を取っているのでしょうか?
お若い頃のお写真が、あまりに美しいので、無残に思いました。
お顔の部分だけぼかしを入れても良かったのでは?
老人ホームで、老人ばかり集まって、お医者さんも老人で、少しボケていらっしゃったのかなと思いました。
そこが老人ホームの良いことろなのかも。

Posted by 匿名 at 2015年09月22日 01:18 | 返信

日本はそういう意味では戦争中と何にも変わってないですよね。良いこと?きれいなとこ?だけ伝えて、なるべく国民に刺激を与えないようにする。なぜか?それを偏って受け取ってしまう人がいると、番組サイドが対応に追われ、それに対応できるトップがいないからではないでしょうか。番組を見て分からない人は実際に長尾先生のような本物の専門家に、話を聞けばいいのです(それでも理解できない人は変わりないのでしょうが、、、)美談だけ伝える日本の美徳。真実に近い真実を言うと、辛口だの、偏っているだの騒ぐマスメディア。私もぺーぺーでまだまだ勉強中ですが、日々仕事をしながら、日本という国で生活をしながら思っている、日々目の当たりにしている現実を前に感じていることです。毎日、遅くまで働かれている姿に勇気づけられます。これからもお身体ご自愛ください。

Posted by とある特養の相談員 at 2015年09月22日 09:46 | 返信

老衰死…
これまた 簡単じゃないですね

シルバーウイークもお仕事です
お昼ご飯中に やっと 録画を見ることができました

今朝の利用者さまのことが 頭に浮かぶ
97歳の老衰状態の男性です
毎日 500mlの点滴をやりに 行っています
主治医は 始めちゃった点滴を いつ やめようか 胃瘻と同じなんだよなぁ〜と相談された
はぁ〜?って感じです
わたしも ご家族にお話をさせていただいてますが…
ご家族は 先生の お考えが すべてなんです
しっかり ご家族と 話しあって欲しいです

本日 あと3軒の訪問に 行ってきま〜す

…と今回、初めて 訪問看護の依頼があった先生に
長尾先生の 平穏死の本を読んでくださいとお渡ししました
地道な戦いです

Posted by 訪問看護師 宮ちゃん at 2015年09月22日 01:25 | 返信

選挙開票速報の如く、着々と数字が進むシェア、ツイート数。
長尾ブログでの印象は「山本太郎の質問に泣く」が250シェアがトップだったと記憶。
このNHK番組に関しては、ブログUP直後から着々と数字を上げる状態、更新中。
ブログ文中にある、日本静脈栄養学会、PEGドクターズネットワーク、倫理に関する抗議で
あるとか、そういった医療専門家のリアクションなのでしょうか。
難かしい問題がはらむのだろうなァと想像しますけれど、難しいからこそ、知りたいと思います。

Posted by もも at 2015年09月22日 09:53 | 返信

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