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川島なお美は腹水を抱え1週間前まで舞台に立った

2015年10月24日(土)

先週の産経新聞の連載は、川島なお美さんの腹水について書いた。→こちら
がん性腹膜炎の腹水は安易に抜かないことが、「平穏死10の条件」のひとつ。
ご批判もあろうが私はもう10年くらい、腹水・胸水を抜かずに看取っている。
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産経新聞・がんの基礎知識第8回   がん性腹膜炎・胸膜炎
                  腹水・胸水とどう付き合うか
 
 今週も川島なお美さんの生き方について考えてみましょう。彼女は胆管がんで亡くなられたのですが、胆管にできた腫瘍だけでは亡くならなかったはずです。がん細胞が胆管だけでなくお腹じゅうに広がり“がん性腹膜炎”になったので命を奪われたはずです。お腹にできるがんといえば、胃がん、大腸がん、膵臓がん、胆管がんなどがありますが、これらのがんの最終型は多くの場合“がん性腹膜炎”です。もしお腹の中を覗いてみるならば、米粒大のがん細胞の小さな塊がお腹じゅうに散らばっている状態のことです。腸の外側に沢山の小さながん細胞の塊があり、お互いにくっついた結果、“癒着”を起こします。自由に動きまわれるはずの腸管が自由に蠕動運動できない状況に陥ると消化液が停滞して口側に上がり、嘔吐します。つまり腸がつまるのですが、その状態を腸閉塞と呼びます。

 また“がん性腹膜炎”は、文字どおり“炎症”ですからそれに反応した液体が貯まります。それを“腹水”と呼びますが、単なる“お水”ではありません。血液のうち赤血球を除いた成分、つまり血漿と呼ばれる栄養分を多く含む液体です。お腹のがんの最終型の多くは“がん性腹膜炎”であり、腸閉塞や腹水という症状が出ます。実は、お水は胸の中にできるがん、つまり肺がんなどでも同様です。つまり、がんが胸の中いっぱいに広がり、“がん性胸膜炎を”起こした結果、胸水が貯まるのです。

 報道によると川島さんは5ℓの腹水が貯まった状態で、亡くなる1週間前まで舞台に立たれたそうです。「え?腹水が5ℓもあるのに立てるの?抜かなくていいの?」という質問を頂きました。私は「多少の腹水なら仕方が無い。抜かなくても大丈夫」と思いました。日本人は律儀な性分なので、水と聞くと反射的に「じゃあ、抜かなあかん」と思う人が多い。「膝に水が貯まった」と言われたら、反射的に「抜いて!」と訴えるのが多くの日本人。膝の水はともかく、がん性腹膜炎・胸膜炎で貯まる水とどう付き合えばいいのでしょうか。

 私は「腹水や胸水は決して異物ではなく炎症の結果に過ぎない。貯まる理由を考えましょう」と説明します。実際、“がん性腹膜炎”という根本問題が解決しない限り、いくら腹水を抜いてもまたすぐに貯まってきます。ですからできるだけ水を抜かない方法を提案します。ひとつは利尿剤です。飲み薬や注射の利尿剤により、栄養分を残したまま体内から水分だけを抜くことができます。もうひとつは、“待つ”ことです。人間は生きるために1日最低1ℓの水分が必要です。もし口から水分がほとんど入ってこなければ、人間は自分のお腹の中に貯まった水を使って生き延びようとします。つまり何らかの理由で絶飲絶食になれば、生存のために必要な水分は主に腹水や胸水から提供されるはずです。

 実はこの10年間、在宅ホスピスで多くのがん患者さんを最期まで診てきましたが、腹水や胸水を抜いた人は一人もいません。ちなみに30年前の私は、毎日水を抜きまわるのが仕事でした。何も知らなかったのです。川島さんは腹水と共存しながら、そして利用しながら舞台に立っているように見えました。つまりがんの終末期に“枯れて”いく過程を“待つ”ことができたのではないか。穏やかな最期を迎えるヒントに思えました。
 
 
キーワード  がん性腹膜炎
腹腔内の消化器がんや婦人科のがんが進行して終末期になると、腫瘍からがん細胞が脱落して腹膜の全面にわたりがんの小さな結節が播かれたような状態になり、それをがん性腹膜炎と呼ぶ。

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