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認知症は漢方的視点で診る
2015年10月24日(土)
漢方診療10月号 認知症の在宅医療は漢方的視点と漢方薬で 長尾和宏
漢方的視点で認知症を診る
「認知症の人は訪問診療で診ましょう」というスローガンを耳にすることが増えた。認知症の人は日時の感覚が無くなれば、来院することを忘れる。重大な合併症があっても治療中断となる可能性が高い。一方、介護保険を利用するには医師の意見書が必要なので、実際に診察しないと書けない、というジレンマに悩まされることがある。今後、認知症をかかりつけ医が在宅医療で診ることが増えると予想する。そこで今回は、漢方薬の具体的処方ではなく、認知症の在宅診療に漢方的視点がどのように役に立つかについて考えてみたい。
私は認知症をさも分ったような顔をして診ている。いくつかの検査をして、たとえば「○○型認知症です」と診断を下す。ニンチという烙印を押したうえに、家族が望むならばいとも簡単に抗認知症薬を処方している。もちろんよく分らない場合は専門医に紹介し判断を仰ぐが、全例を紹介することは物理的にもできない。
そもそも、○○型認知症は一生、○○型のままなのだろうか?○○型として死ぬのだろうか?そんな素朴な疑問がある。ちなみに○○とは、アルツハイマー、レビー、前頭側頭、脳血管性などである。まさかそんなはずはないだろう。他に適当な医学用語を知らないので、○○型認知症といった既存の疾病概念を用いて語っているが、本当にそれでいいのだろうか。ふと、そう思う時がある。
たとえば同じアルツハイマー型認知症といっても、抗認知症薬の必要性を感じない元気ボケであったり、反対に抑うつ的であったりする。名古屋フォレストクリニックの河野和彦医師は陰証、陽証という視点で認知症の人を診るという。同じアルツハイマー型認知症であっても、証によって処方を変えることを啓発している。陰証にはこれこれ、陽証にはこれこれ、と具体的な処方内容を医師のみならず市民にまで提示・公開している。コウノメソッドとして有名になっているが、まさに漢方的視点による認知症診療に他ならない。
抗認知症薬の増量規定と易怒性
現在保険診療で使える抗認知症薬として、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類がある。いずれも2~3段階の増量規定が義務づけられている。ドネペジルであれば、3mgで開始して2週間後に必ず5mgに増量することが義務づけられている。自分で着衣ができない高度認知症には、10mgへの増量が推奨されている。しかし、現実には3mgで調子が良い人でも、5mgに増量した途端に怒り散らしたり、暴れる人がいる。
こうした易怒性の出現を「それは副作用ではなく主作用である。怒る元気も無かった人が怒る元気が出るのはいいことなので、決して薬剤を中止してはならない」と解説する専門医がいるが、私はまったく理解できない。もし易怒性が出れば、5mgを3mgに戻すか中止を検討すべきであると考える。しかし易怒性を「薬が効いていない」と判断して、減量どころか反対に10mgに増量する医師さえいる。当然のことながら、易怒性はさらに激しくなり、強力な抗精神薬が必要になる。そしてフラフラになったその人は転倒し骨折して、入院する。さらに認知症は増悪し、もはや在宅療養は無理と判断され、施設や精神病院で余生を送ることになる。抗認知症薬の処方と増量規定がその人の運命を大きく変えたことに、後で気がつく。
認知症の在宅医療は、漢方的視点と漢方薬で
そもそも、脳に作用する薬剤は個別性を重視すべきである。たとえば、がんの痛みの緩和に用いられるオピオイドの使い方を考えてみよう。最初は1という量で開始したベース薬は、レスキューの回数に応じて増量していく。その人の痛みが除ける量をまるで階段を昇るかのように探していくわけだが、この作業のことをタイトレーション(至適容量設定)という。至適容量は患者さんごとにかなりの幅がある。ある人は1という量で痛みがとれるが、ある人は10で、ある人は100という場合がある。つまり100倍もの個人差があるのだ。
これと同様に脳のアセチルコリンを増加させる抗認知症薬の至適容量もおそらく10倍ないしそれ以上の個人差があるものと想像する。しかし画一的な増量が強制されているため、その規則に従わなくてはペナルテイを受ける。もし従わないと、各都道府県の審査委員にもよるがレセプト審査で診療報酬をカットされる。ちなみに河野医師は摘要欄に増量できないコメントを書いたにもかかわらずカットされ、その額は約400万円にものぼるという。
どうして増量規定なるものがあるのか。私は細かな事情を知る立場にはないが、製薬会社が厚労省に提出した臨床データに従って定められたのであろう。根拠となる生データを見たことがないので断定はできないが5mgで有効性が認められたのであろう。しかし必ず易怒性例が存在したはずだが、除外されたのであろうか。臨床ではいくらエビデンスがあるといっても一部の人に重大な副作用があれば、医師の裁量、サジ加減を認めるべきであると考える。
脳は神経細胞の集合体でネットワーク臓器である。生検ができないため分析的態度のみによるアプローチだけでは限界がある。認知症こそ、陰証、陽証をはじめとする漢方的視点が必要であると考える。もし抗認知症薬が合わないと感じる場合には漢方薬の出番である。易怒性や攻撃性には抑閑散を汎用するが、陰証には補中益気湯や十全大補湯が有用である。今後増加するであろう認知症の在宅診療には、漢方的視点と漢方薬が欠かせないと思う。
漢方的視点で認知症を診る
「認知症の人は訪問診療で診ましょう」というスローガンを耳にすることが増えた。認知症の人は日時の感覚が無くなれば、来院することを忘れる。重大な合併症があっても治療中断となる可能性が高い。一方、介護保険を利用するには医師の意見書が必要なので、実際に診察しないと書けない、というジレンマに悩まされることがある。今後、認知症をかかりつけ医が在宅医療で診ることが増えると予想する。そこで今回は、漢方薬の具体的処方ではなく、認知症の在宅診療に漢方的視点がどのように役に立つかについて考えてみたい。
私は認知症をさも分ったような顔をして診ている。いくつかの検査をして、たとえば「○○型認知症です」と診断を下す。ニンチという烙印を押したうえに、家族が望むならばいとも簡単に抗認知症薬を処方している。もちろんよく分らない場合は専門医に紹介し判断を仰ぐが、全例を紹介することは物理的にもできない。
そもそも、○○型認知症は一生、○○型のままなのだろうか?○○型として死ぬのだろうか?そんな素朴な疑問がある。ちなみに○○とは、アルツハイマー、レビー、前頭側頭、脳血管性などである。まさかそんなはずはないだろう。他に適当な医学用語を知らないので、○○型認知症といった既存の疾病概念を用いて語っているが、本当にそれでいいのだろうか。ふと、そう思う時がある。
たとえば同じアルツハイマー型認知症といっても、抗認知症薬の必要性を感じない元気ボケであったり、反対に抑うつ的であったりする。名古屋フォレストクリニックの河野和彦医師は陰証、陽証という視点で認知症の人を診るという。同じアルツハイマー型認知症であっても、証によって処方を変えることを啓発している。陰証にはこれこれ、陽証にはこれこれ、と具体的な処方内容を医師のみならず市民にまで提示・公開している。コウノメソッドとして有名になっているが、まさに漢方的視点による認知症診療に他ならない。
抗認知症薬の増量規定と易怒性
現在保険診療で使える抗認知症薬として、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類がある。いずれも2~3段階の増量規定が義務づけられている。ドネペジルであれば、3mgで開始して2週間後に必ず5mgに増量することが義務づけられている。自分で着衣ができない高度認知症には、10mgへの増量が推奨されている。しかし、現実には3mgで調子が良い人でも、5mgに増量した途端に怒り散らしたり、暴れる人がいる。
こうした易怒性の出現を「それは副作用ではなく主作用である。怒る元気も無かった人が怒る元気が出るのはいいことなので、決して薬剤を中止してはならない」と解説する専門医がいるが、私はまったく理解できない。もし易怒性が出れば、5mgを3mgに戻すか中止を検討すべきであると考える。しかし易怒性を「薬が効いていない」と判断して、減量どころか反対に10mgに増量する医師さえいる。当然のことながら、易怒性はさらに激しくなり、強力な抗精神薬が必要になる。そしてフラフラになったその人は転倒し骨折して、入院する。さらに認知症は増悪し、もはや在宅療養は無理と判断され、施設や精神病院で余生を送ることになる。抗認知症薬の処方と増量規定がその人の運命を大きく変えたことに、後で気がつく。
認知症の在宅医療は、漢方的視点と漢方薬で
そもそも、脳に作用する薬剤は個別性を重視すべきである。たとえば、がんの痛みの緩和に用いられるオピオイドの使い方を考えてみよう。最初は1という量で開始したベース薬は、レスキューの回数に応じて増量していく。その人の痛みが除ける量をまるで階段を昇るかのように探していくわけだが、この作業のことをタイトレーション(至適容量設定)という。至適容量は患者さんごとにかなりの幅がある。ある人は1という量で痛みがとれるが、ある人は10で、ある人は100という場合がある。つまり100倍もの個人差があるのだ。
これと同様に脳のアセチルコリンを増加させる抗認知症薬の至適容量もおそらく10倍ないしそれ以上の個人差があるものと想像する。しかし画一的な増量が強制されているため、その規則に従わなくてはペナルテイを受ける。もし従わないと、各都道府県の審査委員にもよるがレセプト審査で診療報酬をカットされる。ちなみに河野医師は摘要欄に増量できないコメントを書いたにもかかわらずカットされ、その額は約400万円にものぼるという。
どうして増量規定なるものがあるのか。私は細かな事情を知る立場にはないが、製薬会社が厚労省に提出した臨床データに従って定められたのであろう。根拠となる生データを見たことがないので断定はできないが5mgで有効性が認められたのであろう。しかし必ず易怒性例が存在したはずだが、除外されたのであろうか。臨床ではいくらエビデンスがあるといっても一部の人に重大な副作用があれば、医師の裁量、サジ加減を認めるべきであると考える。
脳は神経細胞の集合体でネットワーク臓器である。生検ができないため分析的態度のみによるアプローチだけでは限界がある。認知症こそ、陰証、陽証をはじめとする漢方的視点が必要であると考える。もし抗認知症薬が合わないと感じる場合には漢方薬の出番である。易怒性や攻撃性には抑閑散を汎用するが、陰証には補中益気湯や十全大補湯が有用である。今後増加するであろう認知症の在宅診療には、漢方的視点と漢方薬が欠かせないと思う。
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