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新オレンジプランへの疑問

2015年10月25日(日)

月刊公論11月号の連載には新オレンジプランへの疑問を書いた。→こちら
かなり問題のある施策であると思う。
今夜の政治家さんを交えた講演会でもそう述べた。
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公論11月号   “新オレンジプラン”が認知症を造る!?
         抗認知症薬の適量処方を実現する会の発足経緯
 
「ボケ」が「認知症」として医療化された

 認知症という言葉は誕生してまだ10年たらずなのに今や小学生でも知っている。一方、10年前までは「ボケ」や「痴呆」だったことを知らない医療・介護職が大勢いるのもまた驚きだ。なぜか最近、「ボケ」が差別用語になったと聞き驚いている。「認知症」という造語は、少なくとも以下の2点で腑に落ちない。まず「認知機能障害」なら分かるが、不思議なことに途中を省略して「認知症」という短縮型である。よく「ニンチが進んだ」と言うが、本来なら認知機能が改善していいことのはずだが、反対の意味で使われている。10年前まで「ボケ」で済まされていたものが、ある時から「病気」に格上げされた。病気だからきちんと診断して、治療して、管理しなきゃ、となった。今年から始まった“新オレンジプラン”のことである。

「ボケ」が「医療化」された理由のひとつは抗認知症薬の登場であろう。病気に昇格した途端に巨大な“市場”が生まれる。たしかに若年性認知症の方は間違いなく病気である。しかし90歳の陽気な老人が短期記憶を保持できないことはとても病気とは思えず、「ボケ」の方が相応しい。

 認知症と単なる物忘れは別物で、日常生活に支障が来す状態になりはじめて認知症となる。ただし両者には連続性がある。そもそも認知症は何十もの病気の総称だ。認知症ケアに医療が占める割合は5%以下という医者がいる一方、95%が医療だ、つまりお薬だという専門医もいる。5%と95%、これは凄い認識のギャップだ。“新オレンジプラン”によると、早期に専門医に診断を受けて服薬することが勧められている。
 
抗認知症薬の増量規定とは

 認知症が薬で治るのか?これは大変難しい質問だ。そもそも「治る」の定義が、昔の正常な状態まで戻すことと考えるならば、常識的に考えて困難だろう。しかし、日常生活にさほど困らない程度にまで改善させることならば、お薬の投与で充分可能な場合がある。

 日本では現在、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類の抗認知症薬が発売されている。いずれも主に脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンを出す薬だ。もし抗認知症薬を飲まないとQOLが徐々に低下するので、服薬が推奨される。

 しかし認知症の薬は飲んですぐに効果を実感できるものではない。何年単位で見て進行を遅らせるという程度。一般に抗認知症薬は3割の人に反応があり、7割の人には目立つ反応が無いという。だから「治るのですか?」と聞かれたら、「上手に使えば改善する人もいます」と答えている。もちろん「治った!」と思うほど改善した人もいる。ただし本稿では「改善するどころか悪化する人のほうが多い」ことを指摘しておきたい。
 
抗認知症薬の適量処方を実現する会」が発足

 4種類の抗認知症薬はいずれも少量から開始して、約1・7~4倍まで増量する規定が添付文書に書かれている。たとえばドネペジル(商品名アリセプト)の場合、アルツハイマー型認知症に対して3mgで開始して2週間後には必ず5mgに増量しないといけない。3mgで調子が良くても、5mgに増量した途端に興奮、暴力、歩行障害、嚥下障害などが起きて介護負担が増大することが少なくない。本来、こんな場合は薬を減量ないし中止すべきだが、増量規定が邪魔をしている。

 逆に「薬が効いていないので10mgに増量だ」という医師もいる。もちろん易怒性はさらに激しくなり、強力な鎮静剤が必要となる。するとフラフラして転倒し、寝たきり→食事量低下→胃ろう、という悪循環に入る。つまり、増量規定による「造られた認知症」、さらに言えば「医原病としての認知症」が増えている。脳に作用する抗認知症薬こそ、その時のその人に合う量を探すサジ加減が大切で最も個別化医療が必要な病態である。コウノメソッドの創始者である河野和彦医師は、2007年からこの問題を指摘してきた。レセプトの摘要欄にコメントを書いたにもかかわらず「査定」をされ続け、「損害額」は約400万円にのぼるという。

 抗認知症薬の増量に伴う「易怒性」は誰が考えても副作用であろう。暴れるため泣く泣く施設や精神病院に入った人が多数いる。なのにある認知症専門医がNHKで「易怒性は副作用ではなく主作用なので中止や減量してはダメ。続けることが大切」と市民に解説していた。製薬会社の強い意向なのだろうが、同じ医師として恥ずかしい。そんな専門医に洗脳された一般医は中止どころか、逆に増量しがちだ。もちろんさらに深刻な事態に至る。私は、認知症の人が新オレンジプランの網にかからないことを願い、「ばあちゃん、介護施設を間違えたらもっとボケるで!」や「家族よ、ボケと闘うな!」(いずれも共著、ブックマン社)などの一般書を書き、講演等でも啓発してきた。

 認知症=アルツハイマー型認知症(AD)ではない。約半分を占めるADが抗認知症薬の保険適応である。一方、前頭側頭型認知症には禁忌であるにもかかわらず、誤診・誤処方が続いている。さらに昨年末からレビー小体型認知症(DLB)がアリセプトの保険適応に加わった。薬剤過敏性が特徴とされるDLBへのアリセプトは5mgでも10mgでもいいとなっている。しかし本来は1ないし1.5mgから開始して、さじ加減で至適容量設定を行うべき病態だ。

 以上の経緯から「一般社団法人・抗認知症薬の適量処方を実現する会」を立ち上げた。11月23日(祝)午後2時から都内で設立総会を行う予定である。
 

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この記事へのコメント

MCIの段階で、アリセプトを使用すると一時的にすごく良くなるケースが多いです。もっとも一年もすると短期記憶は壊滅的になり、作話だらけに成ってしまいますが・・・。介護者がその事を理解しているとあまり問題に成らない事が多いです。
MCIの時は、本人も短期記憶障害の自覚があり、強い不安を感じていましたが、再度短期記憶が低下してきても、本人は何も感じていない様子でした。
アルツハイマーの多くは、単なる「ボケ」と言っても良いかも知れません。MCI~初期アルツハイマーの時は、治療をした方が良いかも知れませんが、1年もすれば効果は無く抗認知症薬は不要の薬と言えるかもしれません。
アルツハイマーを前提としたオレンジプラン・新オレンジプランは、実効性に乏しいでしょう。

現在一番の問題は、レビー対策でしょう。時に一部の悪性レビーをどうするかが大きな問題になります。
悪性レビーは、レビーの1割に満たないのですが、急速に進行し1~3ヶ月で寝返りも困難な寝たきりになります。介護療養型病床などで見てると、入院してくる方の多くは悪性レビーです。
認知症治療病棟でも、多くは悪性レビーでした。入院した時は歩いていた方も、ほとんどの方が3~6ヶ月もすれば寝たきりになります。
悪性レビーは、脳幹部や大脳半球の広い範囲にタウが多量に蓄積する為起こるようです。体幹~下肢の強直(強い固縮)により、ADLが一気に低下します。頸部の硬直や眼球運動障害がおき、進行性核上性麻痺と区別が難しい状態に成るケースや、小脳症状を伴い多系統萎縮症と区別できないケースも多いです。
現在訪問診療で認知症に対応していますが、特に悪性レビーが結構いて対応に苦慮しています。ADLの低下だけでなく、前頭葉症状や妄想などの精神症状の急速な出現~悪化もありますが、コウノメソッドがほとんど通用しないため、途方に暮れています。

レビーの多くのケースは、認知症専門医療機関に受診してもアルツハイマーと誤診され、多量の抗認知症薬で悪化している事が多いです。そういうケースは、抗認知症薬を止めるだけで改善することが多いです。
「一般社団法人・抗認知症薬の適量処方を実現する会」の活動に期待しております。

Posted by 小関洋 at 2015年10月25日 02:03 | 返信

友達に教えて貰って、母を西宮協立病院の三宅先生に見て貰いました。
「あなたの誕生日はいつですか?」と聞かれて、珍しく正確に言えたので、三宅先生にお褒め頂きました。
その頃、他の脳神経外科にも行ったので誕生日はいつか聞かれる事に慣れていたのかも知れません。
2週間後にMRI写真を撮る予約をしたのに、当日になって「もう91歳だから、もうすぐ死ぬから、レントゲンを撮ったり、手術するのはやめておくわ」と言うので、予約していた介護タクシーもキャンセルして、運転手さんも残念に思っていたようでした。
その後母は徐々に弱って来ています。
アリセプトは、飲んだり飲まなかったりです。認知症はあるのですけど、食欲が出ないので、色々工夫しています。
今は、介護用ベッドで、鼾を掻いて寝ています。当初は、腹が立ったのですけど、まあこれで良かったのかなあと思っています。

Posted by 匿名 at 2015年10月25日 02:32 | 返信

新オレンジプランへの疑問 ・・・・・ を読んで


今回のブログの中程に “抗認知症薬”には《増量規定》
が定められていて、過剰投与による「造られた認知症」、
さらに言えば「医原病としての認知症」が増えている。”
との記述が見られます。


これが本当であるとすれば、由々しき問題と思います。


医療は経験則でもあり、科学(化学)の領域のことで
もあるので、真実は1つとは限らないとは言え、医師
に拠って、同じ “抗認知症薬” を処方するのに、片方
は “増量規定” に従い、ある一団は “少量投与や投与
中断” の処方を取るというのでは合理性を欠いている
・・・・・・ としか思えません


“ガン放置主義派の医師” と “ガンは早期発見・早期
治療派の医師” が存在し、どちらの派閥の医師の診断
を受けるかで、その人の運命が左右されるように、
“認知症” においても、2つの派閥 “増量規定肯定派”
と“抗認知症薬の適量処方を実現する派” が存在する
ということは、あってはならないことと思っています。


“ガン治療” も “認知症治療” も、両派閥がとことん
論争・検証し、一日も早く本当の “標準治療法” を確立
して欲しいと希求しています。


どちらの派閥の医師に診断と処方を委ねたか? で
その先の人生が左右されることのない社会を一日も
早く実現させて戴きたいと思います。


11月23日(祝)に設立総会を予定されている “一般
社団法人・抗認知症薬の適量処方を実現する会” が
広く支持を集め、多くの医師に気づきを与え、 “薬によ
る被害者《薬害》” をこれ以上排出しない社会を実現
してくれることを心より祈っています。

Posted by 小林 文夫 at 2015年10月25日 03:02 | 返信

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