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医療は患者さんと医療者の共同作業

2015年11月16日(月)

「きらめきプラス」12月号の連載には、
認知症の母親を精神科に連れて行き、そのまま入院さされた子供
さんから頂いた質問への回答を書いた。→こちら
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きらめきプラス師走号

医療は患者さんと医療者の共同作業   長尾和宏


【質問】
85歳になる認知症の母の幻視・幻聴がひどく夜も眠らず介護する私もまいっていたため、
かかりつけの医師に相談、紹介状を持って精神科へ連れていったところ、初めて受診したその日に入院となりました。
以前テレビでみた患者を薬漬けにしているという精神科の話が気になっていたこともあり、
入院3日目にこちらから主治医に電話して母のことでお話を聞きたいと願い出て、お話を聞くことができましたが、迷惑そうに「どうしてきたの?」という感じの対応でした。こちらが聞く事に答える程度で、すすんで今後の対応(治療)について説明してくださるという態度ではありませんでした。それ以来病院に対する不信感が募り母のことが心配でたまりません。
どこでも医師の対応はこんなものでしょうか?
 
 
【回答】
医師への対応に関する疑問、不信感に関するご質問、ありがとうございます。
 
 85歳の認知症の母親を紹介状を持って精神科を受診したその日に入院された、とのことですが、入院時に家族は同意されたのでしょうか。どの程度の説明があったのでしょうか。精神病で暴れ回って警察が出動するような場合は、指定医が認めれば強制的に“措置入院”という処置をする場合があります。しかし認知症で幻聴・幻覚があるだけでは入院の絶対的適応にならないはず。ちなみに私自身は、幻聴・幻覚のある認知症の人を訪問診療で診ています。もちろん外来通院でもいいのですが、付き添いが要る場合は訪問診療に切り替えて対応します。本人が幻聴・幻覚で困っていると訴える場合は、多少の抗精神薬を投与しますが、幻聴・幻覚が完全に消えなくても普通に生活しておられる方は沢山います。往診をしてくれる精神科医は全国的にみてもあまりいないので、私のような普通の開業医が在宅で診ていることが多いと思われます。いずれにせよ、受診したその足で入院をするような状態だったのか、本人や家族がその心づもりがあったのかが気になりました。
 
 よく入院してから病院や医師への不信感を訴える方がいますが、入院時にどれだけのエネルギーを費やしたかを振り返ってみてください。そもそも入院承諾書にサインをするということは「お任せします」という意思表示です。特に精神科の場合は、入院が必要な理由、どんな治療をするのか、入院期間の見通し、その病棟がどんな雰囲気なのかをよく考えてからサインをするべきだと思います。つまり、最初から病院にすべてお任せ、という態度であるならば、患者さんや家族側にも問題があるということになります。
 
 
 精神病院に入院させたら一件落着ではありません。実は入院時から退院後の準備が始まっています。これは一般の入院も同じです。急性期病院では約2週間後には必ず出ていかなければならない医療制度になっているので、入院時から次のことを心づもりしておく必要があります。日本の精神病院は国際的に見て、異常に入院期間が長いことで有名ですが、それでもいつかは出ることになるので、早期から退院後のことを考えておくべきです。以上のことを知った上で、入院承諾書にサインをされたのか振り返ってみてください。
 
 主治医に病状説明を求める電話をされたとのことですが、もしかしたら多忙の最中だった可能性があります。医師も人間ですから、忙しい時に家族に呼び出されると充分な対応ができないことがあります。スマートな方法としては、看護師さんにお願いして医師の手が空いた時に、こちらの電話番号に医師から電話してもらうと助かります。その方がゆっくり話ができます。
 
 さて、薬漬けのことを心配されています。精神科における向精神薬話の多剤投与が問題になっているのでそれを知ってのご質問でしょう。たしかに日本の向精神薬の多剤投与状況は世界的に見て異常です。しかしそれをいきなり主治医にぶつけた場合、主治医も人間ですからへそを曲げるかもしれません。私自身も、外来や在宅現場で攻撃的な家族に質問攻めにあうことがあります。医師は応召義務があるので、その場から逃げることはできません。ですからその家族への丁寧な説明を諦め、傾聴だけに専念する時があります。時間を考えずに同じ質問を繰り返される時には、「嵐よ早く過ぎ去ってくて」と心の中で願うこともあります。そんな家族のことを「モンスター家族」と呼ぶそうです。「モンスターペイシェント(モンペ)」は有名ですが、認知症の場合は、本人は平和だけど家族がモンスターである場合をよく経験します。ですから貴方自身が、モンスターファミリーとの印象を与えなかったか振り返ってみてください。
 
反論を覚悟のうえで敢えて書かせてもらいますが、医療は患者さんと医療者の共同作業です。なにかと医療者が批難されることが多い世の中ですが、患者さん側にもそのような対応になる原因がある場合もよくあります。夫婦喧嘩ではありませんが、言った言わない、でモメることもあります。ちょっとした行き違いで、大きな問題に発展する場合も稀ではありません。
 

  「どこでも医師の対応はこんなものでしょうか?」との質問ですが、医師を患者に置き換えて考えてみてください。現実社会には、いろんな医師、いろんな患者、いろんな家族がいることは誰にでも分かります。医師には一般社会人より一段上の倫理やマナーが求められるのは当然ですが、だからと言って100%患者や家族が満足する言動を達成できる、なんてことはまずあり得ません。
 
 認知症は「関係性の障害」とも言われています。同じ認知症であっても関わる人の態度で、良くも悪くもなるという意味です。実は、これは医療の本質を言い表している言葉でもあると思います。すなわち医師と患者さんのコミュニケーションが上手くいかない時、100%医師に責任がある、とは言いきれない。「医師の態度が悪い」と一方的に批難されれば、なんともお答えしようがないのですが、そもそも医学教育においてコミュニケーションスキルに関するトレーニングはありません。いくら偏差値が高くてもコミュニケーションが下手な医師はいくらでも存在します。まあ、それはどんな職場でも同じことです。もしかしたらそんな医師が担当なのかもしれません。しかし貴方自身の関わりで、その医師の対応が大きく変容する可能性もあります。
 
 以上のことを踏まえて、再度その主治医とコミュニケーションを取ってみてはいかがでしょうか。お薬への疑問も上手に伝えて充分に話あってください。それでも満足できない状況であるなら、答えは2つです。諦めてかかり続けるか、医師を変えるかです。主治医交代ができる病院とそうでない病院があるでしょう。もし交代できないのであれば、元の精神科開業医に相談してください。あるいは、認知症の在宅診療を得意とする在宅医に相談に行ってもいいと思います。ちょうど貴方のような方に向けた本が出たばかりです。「その医者のかかり方は損です」(青春出版)を是非参考にしてください。
 
 
 
 
 

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