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人類4000年の闘い がん医療は試行錯誤

2015年12月10日(木)

産経新聞のがんの基礎知識シリーズ第15話は、
「人類4000年の闘い がん医療は試行錯誤の連続」で書いた。→こちら
医療の不確実性について私なりの言葉で伝えたい。
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産経新聞がんの基礎知識シリーズ第15回   人類4000年の闘い
                                           がん医療は試行錯誤の連続
 
 がんかがんでないか診断がつかない場合もあることを前回、述べました。今回は、がん治療はやってみないと分からないという不確実な要素もあることについて書きます。

 がんという病気は現代病と言われていますが、実は紀元前2500年から人間はがんに悩まされてきました。人類は「脳の巨大化」と引き換えに、「がんになり易い」というリスクを負いました。人間は犬や猫の何十倍、魚の何百倍、がんになり易い動物。太古の昔から、人類はがんと闘ってきました。1804年、世界で最初に全身麻酔で乳がんの手術に成功した華岡青洲の実験台は、なんと自分のお母さんや妻でした。こうした医療の歴史を振り返ると、10年もたてば浦島太郎のようなスピード感です。

 30年前、私は日本における腹腔鏡の先駆者がいた病院で研修を受けました。大先輩の腹腔鏡検査の助手を務めながら、内心「なんと野蛮な検査」と思っていました。しかし数年後には胆石の手術をその腹腔鏡で行う外科医が出て来ました。臆病な私は「そんなことして大丈夫?」と思いました。しかし現在では胆石の手術を開腹して行う病院はありません。それどころか胃がんや大腸がんの手術も腹腔鏡で行うことが標準になりつつあります。

 思い出して下さい。30年前は、胃潰瘍で胃を切っていました。もっと昔は胃炎で胃を切っていました。今、そんなことをすれば大問題でしょうが、その時代にはそれが最高水準の医療だったのです。がんの三大治療と呼ばれる手術、抗がん剤、放射線治療ももしかしたら100年後には笑い話になっていることでしょう。どんな標準治療も最初は代替医療なのです。残念ながら、がんの克服にはまだまだ時間がかかりそうです。その時代に一番よいとされる医療が標準治療と呼ばれているだけであり、未来永劫に正しい医療であるという保証などどこにもありません。がん医療は試行錯誤の連続なのです。

 そして外科手術や内視鏡手術にはどうしても上手・下手があります。なんの世界もそうでしょうが、名人もいればそうでない人もいます。喩えが適当でないかもしれませんが同じゴルファーでもシングルさんもいれば130も叩く人もいます。そしてシングルハンデイの人でも調子が悪い日は100を叩きます。そもそも最初からシングルハンデイの人などおらず、みんな初心者からスタートします。医療においては熟練者が初心者を教えるというシステムがあるので初心者でも上達します。開腹手術の経験しか無かった外科医は再度研修を受けて腹腔鏡手術を学びました。現在、前立腺がんにはダビンチ手術と呼ばれるロボット手術が導入されています。腹腔鏡手術が2次元画面ならばダビンチ手術は3次元画面。このように医療技術は常に日進月歩です。その時代に最高の技術と同業者が認める治療を行いますが、それでも上手くいかないことがあるのが医療の不確実性です。

  「がんは放置せよ」という極論本が流行っていますが、すでに平均寿命を超えた人や抗がん剤がほとんど期待できない臓器にできた切除不能のがんにはピッタリかもしれません。しかし若くて元気な人ならば、早期発見・早期治療ができれば、一般論としてはそれにこしたことがありません。
 
 
キーワード  ダビンチ手術
1990年代に米国で開発れた。小さな創から内視鏡カメラとロボットアームを挿入し、医師が3Dモニターを通して術野を目で捉えながら実際に鉗子を動かす感覚で行う手術。傷口が小さく早期退院が可能である。

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