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医療の進歩が国家を破綻させる

2015年12月28日(月)

C型肝炎の治療薬は3ケ月で600~700万円するが治るのでいい。
一方、新しい分子標的薬は何年も効くので、一桁多い医療費がかかる。
まさに医療の進歩が、国家経済を逼迫する時代となってきた。
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医学の進歩が国家を破壊する

【演題】肺癌新治療の費用対効果

【演者】國頭 英夫 氏、福田 敬 氏、成川 衛 氏、後藤 悌 氏、瀬戸 貴司 氏


 日本赤十字社医療センター 化学療法科 部長 國頭 英夫 氏

このような記事タイトルで先生方は驚かれたでしょうか?――中には、全くその通りだとご納得いただけた方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、シンポジウムの場では刺激が強すぎるために言及しなかった「解決策」を含めて私見を述べたいと思います。

会場を埋め尽くした満員の参加者を前にして、私は驚きませんでした。皆、この問題に薄々気づいているはずですから。けれど、問題の深刻さを理解したとしても、日本の医師は患者に頼まれればどんなに高額でも処方せざるを得ないでしょう。自分の懐が痛むわけではありませんし。後藤先生が示された医学部4年生へのアンケートは「自分の金を出すなら」という前提であって、「他人の金なら(いくらでも)出せる」のでしょう。

しかし他人の金とはいえ、日本国民みんなのお金です。医療費は40兆円に達し、うち薬剤費は10兆円です。仮に非小細胞肺癌の約半数に当たる5万人に対してオプジーボを1年間投与すると、この薬代だけで1兆7500億円かかる計算になります。有効例でも無効例でも、いつ投与を止めていいか分からないという状況※ですので、毎年この金額がかかっていきます。もとが10兆円のところに、いきなり1兆2兆の負担が増えて、やっていけるはずがない。

※なお、抗体医薬全般に言えることですが、最大耐量が分からないので用量は適当に決めています。この点は雑誌「腫瘍内科」(科学評論社)2016年1月号に医師向けの解説文が載る予定なのでぜひご覧ください。

どうして、厚生労働省はこんな薬価を付けたのか、非常に理解に苦しみます。高齢化はしばらく続き、病人が増える中、保険適応にする薬にこのような高額をつける前例を作ったら、「医療」どころか「国」が成り立たないのは必定です。医学は刻々と進化し、良く効く高い薬が今後も次々と登場してくるのです。みんな、この薬価がもとになってしまう。現在、費用対効果の検討を進めているそうですが、仮に薬価を1/4にしたって十分高いです。昔の標準治療は安かったですが、今では上乗せするベース自体が既に高額なので、そこを基準にした費用対効果分析では不十分です。

これは非常に暗い話です。「金がない」ことばかりは、どうしようもないですね。一つ解決策を示すとしたら、「75歳以上には対症療法しか提供しない」と決めてしまうことです。この考えはペンシルバニア大学副学長のエゼキエル・エマヌエル医師が「自分にはこうしてほしい」と提唱されたものですが、私はこの考えを一般化すべきではないかと思います。例えば肺炎になっても抗菌薬は使わずに、苦痛を取るだけにする。これが実現できれば、一息つけるのかも知れません。詳細は月刊誌「新潮45」の2015年11月号に書きました。

――暴論でしょうか?確かに75歳以上でも元気な人はたくさんいますが、そういう社会的な活動性や障害の有無などで「生命の価値」を判断するならナチスと同じです。では自費で払うならいいですか?いったい年間3500万円を払い続けられる人はどれだけいるのでしょう。3割負担としても1000万円ですよ。お金を出せるかどうかを判断するのは、多くの場合は家族です。家族に「命の値段」を判断させるなんて残酷でしょう?それなら年齢で一律に決めてしまった方がよっぽど公平で、諦めもつきます。

有効な薬は使い続けなければいけないから、「大したことない」薬よりも影響が大きい。思えば、これに気がつくべき唯一の機会は、白血病治療薬グリベックが登場した時だったかもしれません。この手の薬が増えたらどうなるのか、患者数が多い疾患で出て来たらどう対応するのか。この時に議論して、準備しておくべきでした。もっと言えば、こんな風に医療費の危機を迎える以前に、「何のために治療するのか」「人間はなんのために生きるのか」ということを考えておきたかったですね。今は金に迫られている状態です。

果たして、「75歳以上には対症療法しか提供しない」というような決定を、日本人が受け入れることはできるのか? 無理でしょうかね。私には、とやかく言っているうちに結局ギリシャのようになってしまうように思います。だけどそれでも、もう手遅れかも知れないのだけれど、我々は考え、悩み苦しむ義務があります。そうでないと次の世代に申し訳が立たないじゃないですか。

 

口演内容

状況を正しく理解し、正しく絶望する

パシフィコ横浜のメインホールが文字通り「満員」となった。「肺癌新治療の費用対効果」というテーマでこれほどの聴衆を集めるとは、一昔前では考えられなかったはずだ。誰もが「本当の闇」を感じ取っているからこそ、足を運んだのではないだろうか――。

当シンポジウムでは、分子標的薬に引き続き、免疫チェックポイント阻害薬の登場により、コスト抜きに語れなくなってきた癌治療について、費用対効果の考え方、薬価の決め方、肺癌の治療や研究におけるコストに関する発表を通じて「状況を正しく理解し、正しく絶望する」(國頭氏)ことを目的に開催された。

最も新薬が使いやすい国、日本

薬剤の保険適応において、日本は2つの点で世界のトップに君臨している。それは新薬の薬事承認から保険償還までの平均日数と、薬事承認された新薬のうち保険償還対象とされたものの割合である。しかも高額療養費制度により患者の負担額は最大でも月14万円に抑えられる。「最も新薬が使いやすい国」というわけだ。

そもそも日本ではどのように薬価が決まるのか?――2つの方法がある。新薬の約6割は「類似薬比較方式」で決められており、これは既存の類似薬と1日あたりの額を同じにし、場合により加算するという方法である。類似薬のない新薬の場合は「原価計算方式」となる。製造原価に販売費や営業利益などを加えた額を、外国での価格を参考に調整する方法で、約3割がこれに当たる。新薬開発のコストは9年ごとに倍増しているというから、それが薬価に反映され、高騰は必定。しかし薬価と薬の効果は相関しない。

余命を1年伸ばすのに支払えるコストは?

このような状況は1980年代から懸念されていた。新たな医療技術の導入にあたっては費用対効果という考え方を導入する方針が示され、2012年には中央社会保険医療協議会に費用対効果評価専門部会が設置され、現在では平成28年度診療報酬改定での試行的導入と速やかな本格導入を目指している。

では、治療の費用対効果はどのように評価するのか。福田氏は「医療がより効果の高い薬を求めるのは当然で、重要なのは追加で発生する金額を支払う価値があるかどうか」と言う。その価値を評価する指標が増分費用効果比(ICER)であり、薬の変更により増加した分の費用を、得られた効果の増加分で割ることで求められる。例えば、既存薬は1億円かけて60人に効き、新薬は1.5億円で80人に効くという場合は、費用の増加分は0.5億円、効果の増加は20人であるから、ICERは250万円になる。多くの場合は効果指標に質調整生存年(QALY)を使用する場合が多く、患者のQOL評価を基に0QALY(死亡)~ 1QALY (完全な健康状態で生存する1年)として算定される。

ICER算出後は、この追加投資が社会にどこまで認められるかという判断が必要になる。日本では1 QALY 当たり500~600万円まで許容されると言われている。ただし、後藤氏が医学部4年生を対象に行ったアンケートでは、余命1年と告知されている人の1 QALYに支出できる金額は0円と答えた学生が約3割で、約半数は500万円以下と回答したという。

高額治療による臨床試験は無駄?

癌治療による医療費圧迫の懸念は、高額なレジメン同士などの臨床試験の価値をも揺るがし得る。瀬戸氏は臨床家の視点から「費用対効果の議論をするために社会にデータを提供することも必要」と述べた。実際にシミュレーションでは費用を大きく見積もり過ぎていたことを臨床試験で明らかにした事例を紹介し、臨床試験以外では正確なコスト計算は不可能であると指摘。承認申請の時点で臨床的ベネフィットに基づく薬価の決定や、医師主導型臨床試験とコスト研究から適切な薬価を導くことの重要性を訴えた。

また、瀬戸氏は臨床試験の価値をPFSやOSだけで測ることについても異議を唱えた。PFSやOSに有意な改善がなくても、例えば末梢神経障害がより少ない治療法なら、それは余命いくばくもない患者が人間らしく生きるために良い治療法と言えないだろうか。癌治療の費用対効果はまだ発展途上。現段階で臨床試験の価値を決めることはできないだろう。

本当の闇は「効果が非常に大きい薬剤」

当シンポジウムが満員になった理由の一つに、免疫チェックポイント阻害薬の登場があるだろう。ニボルマブは驚くべき効果を示す有望な薬剤だが、1人に1年投与すると約3500万円かかる。投与対象となる患者数は多く、現時点では有効な患者群を選択できない。長生きするから長く投与することになる。偽増悪もあり得るため、有効か無効か分からないまま投与し続け、いつ中止して良いかも分からない――。

國頭氏は「本当の闇は、効果が小さくて高い薬剤ではなく、効果が非常に大きくて高い薬剤である。医学の進歩そのものが国家を破壊するのだ」と警告した。後藤氏によれば、ニボルマブ登場に対する外国医師の反応は「有効な患者を選ばないと使えない」、「今のコストで保険償還されるとは思えない」といったものだそうだが、最も新薬が使いやすい国である日本では「高額だが投与せざるを得ない」のではないかと予測している。なぜならば、現在の日本の医療システムで損をする人はいないからだ。現在の癌治療によるfinancial toxicityを被るのは将来世代、子どもたちであるのだから。

國頭氏はシンポジウムの最後をこう締めくくった。「これは不愉快きわまりない話であり、もしかしたら既に手遅れかもしれないけれど、だけど我々は考えなければいけない。」

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この記事へのコメント

おはようございます。
現場のお医者様からこのようなご意見があるのは大変貴重で重要だと思います。「75歳以上は対症療法」の英断は是非にと感じます(自分の親世代ですが)。「現在の日本の医療システムで損をする人はいない」かもしれませんが、一方で誰もが苦しんでいるのではないでしょうか。そういう点では表面に見えない損をたくさん抱えています。いつか必ず人は死ぬことを本当の意味で理解しないといけませんね、誰もが!損得でなく善悪で考えていきたい今の世の中です。

Posted by 匿名 at 2015年12月28日 07:38 | 返信

記事の中にあります「何のために治療するのか」「人間は何のために生きるのか」この一文が
印象に残りました。今からでも遅くはないと思います。大学病院や学会で、これをテーマにして
議論して頂きたいと思いました。大雑把な表現ですが、これまでは実績主義、出来高主義として
大学病院が、どれ程の手柄を挙げたかを競っていた印象があります。珍しい病気であれば、こぞって
名乗りをあげて患者を取り合うような事もあったでしょう。
けれど、これからは原点回帰して頂き、底辺にくまなく目を向けて頂く作業をする事が、高齢化社会
での対応に相応しく、加えて人の気持ちに優しい医療機関となるべく、意識改革に繋がると思いました。

Posted by もも at 2015年12月28日 05:54 | 返信

有害事象ばっかりなのになぜか判で押したように定番のごとく処方される某認知症治療薬も安くないが、
薬代だけにとどまらず、それ以上に二次的な無駄な医療費がかかるのが恐ろしい所で。
先日この薬出されてから大暴れして精神病院へ2件入院した90歳の方がいました。結局自宅で介護できず施設入所。こういうのおそらく氷山の一角にすぎないでしょう。
この薬でどれだけの莫大で無駄な医療費(精神病院入院治療費)がかかっているのかと思うと絶句。
不適切使用薬の有害事象によるBPSDの医療保護入院患者が溢れかえっている精神病院。
認知症治療薬の不適切使用で精神病院の経営と精神科学会が潤っている。不適正使用はむしろ大歓迎。
こうして無駄な医療費が日々消費されて患者も家族も不幸になるという事例が繰り返されているのが現実ですね。

Posted by ある実践医 at 2015年12月29日 10:38 | 返信

君たちヤブ医者の診療報酬を大幅に引き下げたらどうかね?
日本の医療費の30兆は、威張り腐っているだけで何の役にも立たない医者どもの給料に消えるのだから。

Posted by 患者会役員 at 2016年01月02日 02:46 | 返信

>どうして、厚生労働省はこんな薬価を付けたのか、非常に理解に苦しみます。

薬価収載時の適応が悪性黒色腫のみだったからです。
患者数が極端に少ないから原価計算方式で計算すると異常に高くなっただけです。
そして、既に、特例拡大再算定を適用して薬価を引き下げることが決まっています。
1996年には薬価収載後の効能拡大に対する再算定も行なわれています。
また、日本では定期的な薬価改定でどんどん薬価は下がります。
厚生労働省の役人も馬鹿ではないので黙って指をくわえて「薬代だけで1兆7500億円かかる」ことを見過ごすはずがありません。

>みんな、この薬価がもとになってしまう。

オプジーボの薬価は承認順によって生じた一時的な珍事でしかありません。
だから、「この薬価がもとになってしまう」ことはあり得ません。

>暴論でしょうか?

某論です。
効能拡大された患者数を元にしてコストを再計算すれば済むことです。
それをせずに使用制限等を行なうのは筋違いです。

Posted by 患者本位の混合診療を考える会(仮) at 2016年04月27日 09:02 | 返信

疑問一:二割程度しか効かないし、誰に効くかもわからない薬を何故認証したのでしょうか?
疑問二:最初 破格値段がついた訳は、対象が患者さんが少なかったから…という理由でなんとか納得できます。しかし肺癌適用の時、そして今年度の薬価改定の時に見直さなかったのは何故でしょう??

Posted by りた at 2016年05月22日 01:40 | 返信

國頭の記事、ただただ情けない。医師というのはもう少し賢いと思っていたのですが

Posted by Higeji at 2016年06月16日 12:53 | 返信

簡単に解決できる事であるならば、今頃とっくに解決されている事でしょう。皆ある側面のみしか捉えられない中で、理論的に考え、あたかもここに解決策があるような論理展開をしがちだと思うのですが、解決されない現象そのものが、問題の深刻さが理論的に思案された解決方法を上回っている事を物語っていると考えます。物事はめまぐるしく変化していく中で、万が一にも何かのタイミングで解決される日がくるかもしれませんが、いずれにせよ、現状は個々人の力、ある一グループの力のみではどうにも身動きがとれず、ただただ苦悩するしかなさそうだと印象を抱いております。國頭先生は勇気があり、我々医師をはじめ敬意を表するべき方だと思います。こういった日本でタブー視されるような問題を、なかなか思っていても実際の行動に移せる医師はいません。この問題を前にした場合、おごり高ぶった口調で発現できる人間はいてはなりません。私も一医師として、苦悩し続けます。

Posted by 現役医師赤ひげ at 2016年07月16日 10:32 | 返信

この期に及んで、国家財政の持続可能性を全く考慮しない愚論もいいとこの暴論だね。
先進国最悪レベルで少子高齢化が深刻化している現実を目に前にして、
高齢者は若年層にたかることしか頭にないんだね。
「高齢者は弱者だ!」と叫べば、既得権が永遠に維持されると思ってるのかね?

そのうちシステムもろとも崩壊するよ。有能な若者や儲かってる企業は、いくらでも日本から脱出できる。稼ぎのない高齢者がいくら高額医療を貪りたくても。そのコストを提供してくれる次世代はほぼ壊滅状態。

ギリシャみたいになってから後悔しても遅い。

ぺぺから患者本位の混合診療を考える会(仮)への返信 at 2016年12月19日 05:02 | 返信

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