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タバコが有害である根拠
2015年12月28日(月)
タバコが有害であるという根拠を示すのは意外と難しい。
かくして今日もタバコによるがんで苦しむ姿を見て、歯がゆい思いをしている。
アピタルに根拠となる記事が載っていたので、ご紹介したい。
かくして今日もタバコによるがんで苦しむ姿を見て、歯がゆい思いをしている。
アピタルに根拠となる記事が載っていたので、ご紹介したい。
「たばこは有害」示したコホート研究
http://www.asahi.com/articles/SDI201512246051.html
前回、たばこの消費量と肺がん死亡率のグラフを見比べてみて、喫煙と
肺がん死亡との間に関連があることを示しました。しかし、注意深い読者
の方の中には「これだけの理由で本当に喫煙と肺がんの間に関連があると
言っていいのか?」という疑問をもつ方もおられると思います。
グラフによれば、たばこは無害?
前回のグラフでは、たばこの消費量は1900年から上昇し1960年代から減
少傾向を示しています。おりしも欧米先進国で工業化がすすんだ1950-60
年代、有害化学物質とか大気汚染物質も同じように増えた時代です。「肺
がんの原因は化学物質や大気汚染。たばこが原因だとするのは、科学者の
偏見、決めつけだ」という意見もあり得るでしょう。
確かに、実際にある統計資料のグラフだけで検討した今回の手法には限
界があります。「喫煙によって肺がんになる可能性は増えるか?」という
問いを科学的に調べるためには、もう少しきちんとした方法で立証する必
要があります。そのために役立つのが、疫学独特の研究手法の一つ「コホ
ート(Cohort)研究」です。
いきなり「コホート」と言われてもピンとこない人が大半と思いますが、
コホートとは古代ローマの「300-500人の一連隊」のことを示します。ちな
みにインターネットで英語辞書を引いてみると、コホートの同意語として
「supporter(サポーター)」「group(グループ)」が、日本語翻訳として
「仲間」、中国語では「支持者」があがっています(インターネット辞書
って面白いですね)。
さて、疫学では研究を計画する段階でこの「コホート」を設定し、長期
間その集団を追っていくことで、原因と思われるものと病気との関係を検
討します。前回ご紹介したDollたちの研究では、イギリスの男性医師の集
団を対象にして、その医師集団を長い期間追跡をして、病気にかかったり
死んだりした人数を数え上げました。下に示した図がそれにあたります
(Mortality in relation to smoking: 50 years' observations on male British doctors (BMJ 2004;328:1519)より)。
これは、1910-1919年に生まれたイギリスの男性医師を50年間追跡して死
亡率を示したグラフです(英国医師研究)。横軸は年齢、縦軸は35歳からの
生存率をさします。たとえば50歳くらいのとき、たばこを吸っていない集
団では生存率が97%なのに対し、たばこを吸っている集団では94%と、死
亡した人の割合が3ポイント開いていることがわかります。この開きが年齢
を追うごとに大きくなっていき、80歳で生存していたのは吸っていない集団
で59%、吸っている集団で26%と、33ポイントも開いてしまうことがわかると
思います。
このような方法を用いて、Dollたちは、たばこを吸っている/吸っていない
集団を統計データで単に比べるのではなく、直接追跡調査をすることによっ
て調べ上げ、死亡率に開きが出てしまうことを示し、「たばこは死亡を増加
させる要因である」と結論づけたのでした。
「原因は化学物質や大気汚染だ」という主張に関しては、この集団は喫煙
習慣の有無で分けているだけなので、化学物質や大気汚染の影響がどちらか
のグループだけに大きく偏っている可能性は低いと思われます。それゆえに、
仮に化学物質などの影響があったとしても、「たばこが死亡増加の要因」と
いう結論そのものは揺るがないわけです。
ちなみに「たばこを吸うと寿命が10年縮む」という話を聞いたことのある
人がいるかもしれません。これも英国医師研究から明らかになっており、以
下のグラフがそれにあたります(1900-30年の英国医師の結果)。
日本でも同じような検討が行われており、男性で8歳、女性で10歳程度
縮むと報告されています。
さて、コホート研究は便利で、内容も比較的わかりやすいのですが、実際
に行うのはなかなか大変です。
みなさん、学校のクラスの同窓会の幹事をされたことはありますか? 同
窓会ではまず卒業生という「仲間(集団)」に連絡を取るところから始まりま
す。マメに連絡をとっていれば問題ないですが、そうでないと「あの人はい
ずこへ?」のような状態になります。数十人程度の卒業生の追跡でも大変な
のに、コホート研究のような数千、数万人の集団の追跡となると、すでに一
人の研究者ができる範囲を超えています。
通常は研究チームを組織し、参加者の同意を得たうえで、参加者のモチベー
ションを上げるような資料配布など様々な工夫をして、参加者とともに研究
を進めていきます。 このように大変な時間と労力をかけ実施するコホート
研究ですが、英国医師研究ではその当時喫煙率の高かった男性に照準をしぼ
り、医学的知識をもち、医師会という結束力の強い組織(仲間)をもつ医師
を対象としたところに、研究成功のひけつがあったように思います。
コホート研究は通常行われる統計調査(アンケートなど)と異なり、ある
要因をもつ/もたない人々が病気を起こすかどうかについて調べるために、
個人の追跡という方法を使って調べています。「○○とがんは関連があるこ
とが××の研究から報告された」という新聞記事を目にされた際は、「△△
年間追跡」などという語句が入っているかみて、コホート研究かどうかをチ
ェックしていただきたい思います。
http://www.asahi.com/articles/SDI201512246051.html
前回、たばこの消費量と肺がん死亡率のグラフを見比べてみて、喫煙と
肺がん死亡との間に関連があることを示しました。しかし、注意深い読者
の方の中には「これだけの理由で本当に喫煙と肺がんの間に関連があると
言っていいのか?」という疑問をもつ方もおられると思います。
グラフによれば、たばこは無害?
前回のグラフでは、たばこの消費量は1900年から上昇し1960年代から減
少傾向を示しています。おりしも欧米先進国で工業化がすすんだ1950-60
年代、有害化学物質とか大気汚染物質も同じように増えた時代です。「肺
がんの原因は化学物質や大気汚染。たばこが原因だとするのは、科学者の
偏見、決めつけだ」という意見もあり得るでしょう。
確かに、実際にある統計資料のグラフだけで検討した今回の手法には限
界があります。「喫煙によって肺がんになる可能性は増えるか?」という
問いを科学的に調べるためには、もう少しきちんとした方法で立証する必
要があります。そのために役立つのが、疫学独特の研究手法の一つ「コホ
ート(Cohort)研究」です。
いきなり「コホート」と言われてもピンとこない人が大半と思いますが、
コホートとは古代ローマの「300-500人の一連隊」のことを示します。ちな
みにインターネットで英語辞書を引いてみると、コホートの同意語として
「supporter(サポーター)」「group(グループ)」が、日本語翻訳として
「仲間」、中国語では「支持者」があがっています(インターネット辞書
って面白いですね)。
さて、疫学では研究を計画する段階でこの「コホート」を設定し、長期
間その集団を追っていくことで、原因と思われるものと病気との関係を検
討します。前回ご紹介したDollたちの研究では、イギリスの男性医師の集
団を対象にして、その医師集団を長い期間追跡をして、病気にかかったり
死んだりした人数を数え上げました。下に示した図がそれにあたります
(Mortality in relation to smoking: 50 years' observations on male British doctors (BMJ 2004;328:1519)より)。
これは、1910-1919年に生まれたイギリスの男性医師を50年間追跡して死
亡率を示したグラフです(英国医師研究)。横軸は年齢、縦軸は35歳からの
生存率をさします。たとえば50歳くらいのとき、たばこを吸っていない集
団では生存率が97%なのに対し、たばこを吸っている集団では94%と、死
亡した人の割合が3ポイント開いていることがわかります。この開きが年齢
を追うごとに大きくなっていき、80歳で生存していたのは吸っていない集団
で59%、吸っている集団で26%と、33ポイントも開いてしまうことがわかると
思います。
このような方法を用いて、Dollたちは、たばこを吸っている/吸っていない
集団を統計データで単に比べるのではなく、直接追跡調査をすることによっ
て調べ上げ、死亡率に開きが出てしまうことを示し、「たばこは死亡を増加
させる要因である」と結論づけたのでした。
「原因は化学物質や大気汚染だ」という主張に関しては、この集団は喫煙
習慣の有無で分けているだけなので、化学物質や大気汚染の影響がどちらか
のグループだけに大きく偏っている可能性は低いと思われます。それゆえに、
仮に化学物質などの影響があったとしても、「たばこが死亡増加の要因」と
いう結論そのものは揺るがないわけです。
ちなみに「たばこを吸うと寿命が10年縮む」という話を聞いたことのある
人がいるかもしれません。これも英国医師研究から明らかになっており、以
下のグラフがそれにあたります(1900-30年の英国医師の結果)。
日本でも同じような検討が行われており、男性で8歳、女性で10歳程度
縮むと報告されています。
さて、コホート研究は便利で、内容も比較的わかりやすいのですが、実際
に行うのはなかなか大変です。
みなさん、学校のクラスの同窓会の幹事をされたことはありますか? 同
窓会ではまず卒業生という「仲間(集団)」に連絡を取るところから始まりま
す。マメに連絡をとっていれば問題ないですが、そうでないと「あの人はい
ずこへ?」のような状態になります。数十人程度の卒業生の追跡でも大変な
のに、コホート研究のような数千、数万人の集団の追跡となると、すでに一
人の研究者ができる範囲を超えています。
通常は研究チームを組織し、参加者の同意を得たうえで、参加者のモチベー
ションを上げるような資料配布など様々な工夫をして、参加者とともに研究
を進めていきます。 このように大変な時間と労力をかけ実施するコホート
研究ですが、英国医師研究ではその当時喫煙率の高かった男性に照準をしぼ
り、医学的知識をもち、医師会という結束力の強い組織(仲間)をもつ医師
を対象としたところに、研究成功のひけつがあったように思います。
コホート研究は通常行われる統計調査(アンケートなど)と異なり、ある
要因をもつ/もたない人々が病気を起こすかどうかについて調べるために、
個人の追跡という方法を使って調べています。「○○とがんは関連があるこ
とが××の研究から報告された」という新聞記事を目にされた際は、「△△
年間追跡」などという語句が入っているかみて、コホート研究かどうかをチ
ェックしていただきたい思います。
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この記事へのコメント
喫煙=有害物質を体内に取り込むという行為であるため、人体に悪影響を及ぼすという観念は
当然であり、それを承知の上でも止められないという「依存性」については、脳のメカニズムに依る
のでしょうか。脳がどのように刺激を受け、どのような満足感を及ぼすのか、非喫煙者には理解し難い
ものがあります。
通勤のバス停で、居合わせることが多い年配女性(古参OL)の吐息が煙草臭くて、かなわない思いを
しました。思わず「かなりの匂いですよ!」と教えてあげたい心境にもなりますが、顔をちらっと見ると、
見返されて、表情や印象から察するところ「言っても無駄だな、さもありなん、そいう人間性と
お見受けします」と内心で呟いています。いつでしたか帰りのバス停でも隣に並ばれてしまい、驚いた
ことに、いつなん時でも同じ匂い吐き出していらっしゃる、その二酸化炭素による大気汚染も、
迷惑千万だなと思ったことがありました。
Posted by もも at 2015年12月28日 03:04 | 返信
私の父は、肺癌ではありませんでしたが、タバコを吸っていて、大腸がん、耳下腺腫瘍になりました。
また不眠症、骨粗鬆症になって、睡眠薬を大量に飲んで、ふらついて、圧迫骨折しました。
あとで、NHKの今日の健康に、そういう事が載っていて、父はタバコの害の歩く標本だなあと思いました。
疫学調査は大事ですけど、中々、統計で正確に出すのは難しいですね。
愛新覚羅溥儀さんは、ご両親や当時の中国人の多くが、アヘン中毒だったので、ご自分はアヘンが大嫌いだったそうですけど、私も、父を思い出しますと、タバコは、百害あって一利無しだなあと思います。
でも先日、薬剤師さんの資料にありましたけれど、既にパーキンソン病になった患者にタバコを吸わせると、ドーパミンが出て、一時的にせよ、パーキンソン症状が、緩和すると言う説もあるそうです。
だからと言ってタバコを奨励するつもりはありませんけど。
Posted by 匿名 at 2015年12月29日 02:47 | 返信
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