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抗認知症薬の増量規定
2016年01月14日(木)
一昨日の産経新聞の連載は「抗認知症薬の増量規定」で書いた。
なんのことか分からない、という読者がおそらく大半だろう。
それどころか、まだ気がついていない医師もゴマンといる話です。
なんのことか分からない、という読者がおそらく大半だろう。
それどころか、まだ気がついていない医師もゴマンといる話です。
産経新聞・認知症の基礎知識シリーズ第4回 増量規定の弊害
認知症の薬で怒りだした時
我が国ではアルツハイマー型認知症に対して現在、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類の抗認知症薬が使われています。いずれも脳内の神経伝達物質を増やす薬で、QOL(生活の質)の低下を和らげるという根拠で保険適応になっています。しかし認知症の薬は飲んですぐに効果を実感できるものではありません。あくまで年単位で見て病気の進行を遅らせるという薬。なおドネペジルのみはレビー小体型認知症にも認められています。これらの抗認知症薬は3~4割の人に効果があるものの残りの人には目立った効果が無いことが海外で指摘されています。「薬で認知症が治るのですか?」との質問には「上手に使えば長期的視点では認知機能が改善する人もいます」とお答えしています。「上手に使えば」とはその人に合う量を使えば、という意味。少量でも症状が改善する人もいますが、薬を増やしていくとある時点から怒りっぽくなる人がいます。
さて抗認知症薬で怒りだした時、どうすればいいでしょうか?ある専門家はテレビで「怒る元気も無かった人が怒る元気が出たことは良いことなので絶対に中止してはいけません」と述べています。一方、「それは副作用なので薬を減量ないし中止すべきだ」という意見の医師もいて、私は後者の立場です。実は前者の考えの根底には「抗認知症薬の増量規定」なるものがあります。4種類の抗認知症薬はいずれも少量から開始して、約1・7~4倍まで増量する規定が添付文書に書かれています。たとえばドネペジル(商品名アリセプト)の場合、3mgで開始して2週間後には必ず5mgに増量する決まりです。しかし3mgで調子が良くても5mgに増量した途端に興奮、暴力、歩行障害などが起きて介護負担が増えることがあります。本来こんな時は3mgに減量ないし中止すべきでしょう。しかし増量規定で減量が許されていない県が全国に9県あることが最近の調査で分っています。たとえ副作用があっても減量できないという規則は、いったい誰のためのものでしょうか。
逆に「薬が効いていないので10mgに増量だ!」という考えの医師もいます。もちろん易怒性はさらに激しくなり、強力な鎮静剤が必要となります。するとフラフラして転倒し、寝たきり→食事量低下→胃ろうという悪循環に陥ったり、暴れるため泣く泣く施設や精神病院に入ることがあります。つまり、増量規定の弊害に悩まされている人が相当いるのではないかと想像しています。脳に作用する薬こそ、その時のその人に合う量を探るサジ加減がとても大切なはずで、最も個別化医療が必要な病態です。
以上の経緯から私どもは「一般社団法人・抗認知症薬の適量処方を実現する会」を立ち上げましたので是非ホームページを見て下さい。また今日の話は近著「認知症の薬をやめると認知症が良くなる人がいるって本当ですか?」(現代書林)に詳しく書きましたのでご参照ください。大変残念なことですが、当たり前のことがまだ当たり前でないのが一部の認知症医療の現状です。いずれにせよ抗認知症薬に過度な期待は禁物。それが必要な病態に必要な量を探し出して処方することが、本来あるべき認知症医療ではないでしょうか。
キーワード 抗認知症薬の適量処方を実現する会
抗認知症薬をその人に合った量を投与するという医師の処方権を確立する目的で2015年10月に医療・介護職や市民らにより設立された一般社団法人。ホームページ上で抗認知症薬の副作用情報の収集、調査、啓発などを行っている。
認知症の薬で怒りだした時
我が国ではアルツハイマー型認知症に対して現在、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンの4種類の抗認知症薬が使われています。いずれも脳内の神経伝達物質を増やす薬で、QOL(生活の質)の低下を和らげるという根拠で保険適応になっています。しかし認知症の薬は飲んですぐに効果を実感できるものではありません。あくまで年単位で見て病気の進行を遅らせるという薬。なおドネペジルのみはレビー小体型認知症にも認められています。これらの抗認知症薬は3~4割の人に効果があるものの残りの人には目立った効果が無いことが海外で指摘されています。「薬で認知症が治るのですか?」との質問には「上手に使えば長期的視点では認知機能が改善する人もいます」とお答えしています。「上手に使えば」とはその人に合う量を使えば、という意味。少量でも症状が改善する人もいますが、薬を増やしていくとある時点から怒りっぽくなる人がいます。
さて抗認知症薬で怒りだした時、どうすればいいでしょうか?ある専門家はテレビで「怒る元気も無かった人が怒る元気が出たことは良いことなので絶対に中止してはいけません」と述べています。一方、「それは副作用なので薬を減量ないし中止すべきだ」という意見の医師もいて、私は後者の立場です。実は前者の考えの根底には「抗認知症薬の増量規定」なるものがあります。4種類の抗認知症薬はいずれも少量から開始して、約1・7~4倍まで増量する規定が添付文書に書かれています。たとえばドネペジル(商品名アリセプト)の場合、3mgで開始して2週間後には必ず5mgに増量する決まりです。しかし3mgで調子が良くても5mgに増量した途端に興奮、暴力、歩行障害などが起きて介護負担が増えることがあります。本来こんな時は3mgに減量ないし中止すべきでしょう。しかし増量規定で減量が許されていない県が全国に9県あることが最近の調査で分っています。たとえ副作用があっても減量できないという規則は、いったい誰のためのものでしょうか。
逆に「薬が効いていないので10mgに増量だ!」という考えの医師もいます。もちろん易怒性はさらに激しくなり、強力な鎮静剤が必要となります。するとフラフラして転倒し、寝たきり→食事量低下→胃ろうという悪循環に陥ったり、暴れるため泣く泣く施設や精神病院に入ることがあります。つまり、増量規定の弊害に悩まされている人が相当いるのではないかと想像しています。脳に作用する薬こそ、その時のその人に合う量を探るサジ加減がとても大切なはずで、最も個別化医療が必要な病態です。
以上の経緯から私どもは「一般社団法人・抗認知症薬の適量処方を実現する会」を立ち上げましたので是非ホームページを見て下さい。また今日の話は近著「認知症の薬をやめると認知症が良くなる人がいるって本当ですか?」(現代書林)に詳しく書きましたのでご参照ください。大変残念なことですが、当たり前のことがまだ当たり前でないのが一部の認知症医療の現状です。いずれにせよ抗認知症薬に過度な期待は禁物。それが必要な病態に必要な量を探し出して処方することが、本来あるべき認知症医療ではないでしょうか。
キーワード 抗認知症薬の適量処方を実現する会
抗認知症薬をその人に合った量を投与するという医師の処方権を確立する目的で2015年10月に医療・介護職や市民らにより設立された一般社団法人。ホームページ上で抗認知症薬の副作用情報の収集、調査、啓発などを行っている。
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この記事へのコメント
抗認知症薬の増量規定 ・・・・・・・ を読んで
10日【日】の“(西宮)かいご楽快”のランチョン
セミナーで、長尾先生の“抗認知症薬の増量規定”
の概要をお聞きして ・・・・・・・、
そして今回のブログで、残念ながら認知症と診断され
て、“ドネペジル:アリセプト”を、3mg処方されて
若干症状が改善されて喜んでいたところ、薬の増量規定
により自動的に5mgに増量され、その結果“興奮状態、
暴力、歩行障害”が生じても、3mgに戻すことが規定
で禁止されている。 ことの紹介を読んで、疑問が膨
らんでいます。
そして、ブログの最後が、“必要な病態に必要な量を探
し出して処方することが、本来あるべき認知症医療では
ないでしょうか?” で締めくくられているのを読んで、
何でこんなに当たり前のことがまじめに語られている
のか? 不思議に思っています。
ブログでは、“興奮、暴力、歩行障害”が、薬の過剰投与
で引き起こされる可能性を指摘しているに止まっています
が、その結果として、本来必要のない“精神薬”を投与さ
れたり、最悪の場合は精神病院への強制入院や身体拘束で、
人生を破壊された人が本当に相当数いるとしたら、放置す
ることが出来ない大きな問題(犯罪?)と思います。
そのような“医源病:医師が作り出した病気(医師が増幅
させた病気)”で、身近な人が精神病院に入院させられたり、
身体拘束を受けたり、廃人に追い込まれたりすることを想像
すると、怒りがこみ上げてきます。
認知症の一番の要因は老化であり、認知症は誰もが発症
する可能性のあるありふれた症状と思っています。
だとすると、この“薬害?”の被害者に、明日自分がな
らないとは言い切れないと思い、恐怖さえ感じます。
“抗認知症薬の増量規定”の問題を、他人事と思わず
明日の自分のこととして、真剣に考える時期に来て
いるのではないか? と私は思っています。
「抗認知症薬の適量処方を実現する会」の活動が一日
も早く成果を出して、私たち一般市民を“医源病”や
“薬害”から守ってくれることを心より祈念しています。
長尾先生、頑張ってください。
Posted by 小林 文夫 at 2016年01月14日 09:44 | 返信
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