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認知症の被害妄想

2016年01月28日(木)

産経新聞の連載は、「認知症の被害妄想」について書いた。→こちら
取り繕いや被害妄想の正体はなにか。
壊れていく自分は本人が一番分かるので不安でいっぱいなのだ。
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認知症の基礎知識シリーズ第6回  被害妄想
                       壊れていく自分に不安
 
 昔、「認知症の人は病識が無い」と専門家に教わりましたが本当にそうでしょうか。たしかにかなり進行すれば自分が認知症であるという意識が無くなる人がおられます。しかしかなり進行した認知症の人でも親しく話しているうちに「私、オツムがパーになってね」など自分が認知症であることがちゃんと分かっている人が結構おられます。

 ある日突然、認知症になるわけではありません。いつのまにか気がついたら認知症になっていた、というのが認知症です。たいてい2~3年程度の予備軍の期間があります。生活の一部に支障を来すようになって初めて病的として扱われる状態になります。認知症になっていく過程を一番分かるのは家族ではなく実は本人自身です。昨日までできていた料理や化粧がどうも上手くできなくなる。ゴルフのスコアの計算ができなくなる。買い物に行ってお金の計算が出来なくなる。いつも通っているはずの道に迷い家に帰れなくなる・・・。誰だってそんな自分の変化に気が付いた時に愕然となり不安に襲われます。まさに自分が壊れていく感覚を味わいます。そこで誰かの助けを求めたくてもどうしてもプライドが邪魔をします。家族に医者に連れていかれてあれこれ質問されると記憶力の低下を隠そうという本能が働きます。

  「今朝、何を食べましたか?」と聞かれたら誰だって「馬鹿にするな!」と腹が立ちます。しかし本当に思い出せなかったら、次に誤魔化そうとします。実際は食べていなくても「ご飯を食べた」と。それを取り繕いと言います。決して嘘をついているわけではありません。上手く思い出せないので当たり触りのない返答で、とりあえずその場を切り抜けようとしているのです。

 考えてみれば我々の生活も日々、取り繕いだらけです。寝坊して会社に遅刻しても「電車が遅れて」などと言い訳をします。どんな人間でも小さな嘘を一度もつかない日など無いはずです。実は我々も日々、たくさん取り繕いながらもなんとか社会生活を送っているのです。認知症の人は短期記憶が障害されるので周囲の人にバレてしまうだけ。むしろ取り繕いは実は素晴らしい技術であり知恵のようなものです。しかし家族が「そんな嘘をついて!」と間違いを怒り飛ばした瞬間にプライドがひどく傷つきます。自分でも自覚している欠点を他人に指摘されたら腹が立つのは当たり前。ましてそれを責め続ける家族や嫁がいれば、マイナスの感情がどんどん蓄積されます。

 嫁が「お母さん、○○してあげる」という態度で接している限りその場では「ありがとうね」と取り繕っていても、徐々にそうした上下関係がとても辛くなります。たまには自分も「ありがとう」と言ってもらいたいもの。どんな人にも必ず承認欲求があります。そして絶対に逆転しそうもない相手との上下関係を一発で逆転する方法があります。それは「嫁が財布を盗った」と自分が被害者になることで目的が叶えられます。そうした「関係性の逆襲」のことを医療用語では、被害妄想とか周辺症状と呼びます。要は取り繕いや財布騒動は決して否定せずに、笑顔で上手に受け止めることで気分は落ち着かれます。
 
 
キーワード 短期記憶
アメリカの心理学者 W.ジェームズが一次的記憶と名づけたもので,比較的短い秒単位の時間しか保持されない記憶。復唱しないかぎり自動的に消滅するとされ保持の長い長期記憶とは異なる機序であるとされる。
 
 

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この記事へのコメント

これは、かねてから長尾先生が執筆なさるコラム等を読み始めた当初から感じていたのですが、
長尾先生には、お嫁さんがいらっしゃる立場なのでしょうか?それとも橋田寿賀子 的ドラマの
影響力が強くあって、「嫁」という立場に偏見を持っていらっしゃるのか? と
感じること、しばしばありました。

Posted by もも at 2016年01月29日 07:24 | 返信

 取り繕いって素敵ですよね。
 私も認知症の方と接していて取り繕いの言葉が出ると、「おお、そうきたか!」と嬉しくなります。
 年齢を聞いたときに「あんたの方が知ってるやろ?」とか答えられたりすると、興味深い返答だなと思います。決して分からないとは言わない(笑) そこが認知症の方の強みだと思います。やはり長生きした人にはかなわないなって。

 グループホームで働いていた時は、どれだけ自分がお年寄りに「ありがとう」と言えるか?ということを考えて仕事していました。
 やる気になってもらうために、「これどうしたら良いかわからないから、教えて~」とか言ったり、「もうしんどいから手伝って!」とか言って、色々してもらいました。
 「あんたの仕事やろ」とか、「しんどいのに」とか言いつつもやりだすと目が生き生きしてくるんですよね。それを見るのが介護職の一番の醍醐味ですね。
 そして、最後に「ありがとう」とか「助かりました」とか私がお年寄りに言えたら、良い仕事できたなと思ったものです。
 こんな風に、お年寄りに色々やってもらうより、自分でやってしまう方が早くきれいに終わるんですけどね。でも、それじゃ認知症介護をしているとは言えない。
 認知症と言う状態にあっても、自分のできる事を最大限できるように、でき続ける事ができるようにケアするのが認知症介護だと思っています。

 でも、在宅でそれを同居している家族に求めるのは難しいなと感じています。介護において、本人ができる事ができるまで待つと言う事が、どれだけ忍耐がいるか、私は知っているからです。 仕事だったらできるんですけどね。自分の親が認知症になって在宅ケアをする場合、私にはできそうにないな。と思います。
 
 それでも、生き生きした目を見たいなら、是非トライしてもらいたい。とも思います。

 

Posted by みるく at 2016年01月30日 03:01 | 返信

過去の、介護施設研修は思い出深いです。けして優良概念は感じられなかった老健施設でしたが、
そのためあってか、逆に御利用者様の生身の声に接する事ができたのは、甲斐がありました。
認知症の度合によって、居住ポジションが異なっていたのが印象的でしたが、認知症か否かの判別も
難しそうな、もしかしたら独居で生活できるのではないか? とも思える方々は、施設側の都合なのか
皆様が車椅子を利用なさっていました。でも、女性は強みがありますね。やはり、生まれ育った土地や
家を離れ、嫁ぎ先の環境に馴染むという経験があるせいか、そのような環境でも何かしらの主婦的な
感覚や行動が見え隠れしていたのが印象的です。
お茶の時間に配膳されるものを気配りしたり、レクの時間に散らかったゴミを集めていたり、とかの
行動を見た時には、そのような環境下であっても、その人次第で、少なからずの自分らしさを発揮できる
ものだなと思ったものです。
人間が生きていくためには、「順応する」という本質が必ずやあるのだと思いました。

Posted by もも at 2016年01月30日 06:22 | 返信

香菜子と申します、精神疾患・統合失調症の家族のお世話をしています。精神疾患・統合失調症の家族は被害妄想が強く、少しでも気に入らないことがあると自己中心的で身勝手な不平不満を言い続けます。理解できる不平不満なも中にはあるのですが、到底理解不能で非常識な不平不満が多いので困ります。精神疾患・統合失調症からくる被害妄想なのだから仕方ないと思えれば良いのですが、私も強気で負けず嫌い、強情な性格なので、納得いかないときには強い口調で時には攻撃的に反論してしまいます。それでまた精神疾患・統合失調症の家族が騒ぎ出すという悪循環が多いです。病気の家族相手にむきになってしまうなんて、私は冷血人間、人格障害・パーソナリティ障害なのかしらと自己嫌悪になります。そんなときに、あるがままで有名な森田正馬先生の森田療法の存在を知り、あまり悩まずに現実を受け入れる森田の精神でいこうと思ってはいるのですが、まだ試行錯誤して森田に取り組んでいるところです。香菜子

Posted by 香菜子 at 2016年06月25日 03:37 | 返信

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