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認知症=何もでない人、ではない

2016年02月24日(水)

認知症になったらなにもできない、人間ではない、と思っている人がいるが
私はまったく違うと思う。
2月16日の産経新聞の連載第9話は、このあたりについて書いた。 → こちら
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産経新聞認知症の基礎知識シリーズ第9回  認知症への偏見
                             何もできない人、ではない
 
 最近、テレビで認知症の当事者の方が自らの症状や闘病体験を語る機会が増えています。「認知症を特別な目で見ないで欲しい」、「認知症は何もできない人、ではない」、「認知症の人も普通に生活できる」などと訴えています。たしかに彼らの言動からは普通そうな印象を受けますが、よく聴いていると確かに弱点があるようで「病気は病気なんだ」と得心します。あくまで比較的軽度の認知症の人の話ですが。

 実は、認知症の当事者が自ら発信しはじめたのはスコットランドが発祥です。ジェームズ・マキロップさん(75歳)は認知症当事者としてスコットランドの認知症政策を大きく変えた人です。彼は1999年に脳血管性認知症と診断されました。最初に認知症と診断された時はすごくショックで落ち込んだそうです。子供たちすら寄りつかなくなり、認知症だと人に指差されるのが怖くなったため外出すらできなくなりました。

 しかしある出会いが彼の人生を変えました。アルツハイマー協会の職員のブレンダ・ヴィンセントさんは完全に引きこもっていたマキロップさんをからバザーの手伝いなど、なんとか外に連れ出そうと促しました。そして、恐る恐る外に出てみると自分はまだ人と話せることに気付きました。そして02年には認知症の当事者グループを立ち上げ、認知症の人が外で語り合える場を作りました。あるいは「リンクワーカー」という人材の養成にも関わりました。リンクワーカーとは認知症の本人や家族が生きる希望を失わないために、認知症と診断された後の1年間、悩みを聴き日常生活の支援をする人でスコットランドでは活躍しています。スコットランドでは認知症の人が公の場で堂々と意見を述べ、政治をも動かすほどに認知症を取り巻く環境が大きく変わりつつあります。

 そもそもなにがマキロップさんをそこまで駆り立てているでしょうか。それは「認知症の人が正しく扱われていない」という想いでした。当初は誰もがマキロップさんのことを「何も分らない、できない人。食事介助が必要な人」とみていたそうです。日本も同様かもしれません。ここでマキロップ語録を少し拾ってみましょう。「自分ができることまで人にしてもらうのは不快だ。しかし自分ができないことだけ助けてもらう環境は心地いい」、「支援する人が何を求めているのか分かったつもりにならず、必ず本人に尋ねて欲しい」、「支援者は信頼できる友人になってほしい」、「私たちは認知症のプロです」など。

 マキロップさんの取り組みは日本にも影響を与、え14年10月には「日本認知症ワーキンググループ」が発足。15年に策定された新オレンジプランの7本の柱のひとつに「認知症や家族の視点の重視」という項目が謳われました。認知症と診断されると多くの人は絶望の淵に追いやられます。しかし薬や健康食品に頼っても劇的な効果は期待できません。高価な施設に入っても部屋に閉じこもってばかりの人もいます。大切なことは認知症に対する勝手な思い込みや偏見を追い払い、認知症の人の話をじっくり聴くことです。全国的に増えているつどい場や認知症カフェもそんな場です。いまこそマキロップさんや発信しはじめた日本の認知症当事者の生の声にしっかり耳を傾ける時です。
 
キーワード 新オレンジプラン
認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会を実現するための施策。認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進や容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供、若年性認知症施策の強化など7本の柱が定められた。

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