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認知症事故は誰が負担する

2016年03月10日(木)

JR事故の最高裁判決を受けて、やっと議論がはじまった。
つまり地域での見守りや事故を誰がどう負担すべきなのか。
そのへんのことを一昨日の産経新聞の連載に書いた。→こちら
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産経新聞認知症の基礎知識シリーズ第12話  認知症事故判決
                     地域での見守り議論を深めよう

                     
徘徊中の認知症高齢者が列車にはねられたJR東海の事故を巡る訴訟で3月1日、最高裁は家族の賠償責任はないという判断を示しました。さまざまなメデイアがトップニュースとして報じましたが皆さんはどう感じたでしょうか。

 私は遠くの長男の責任を問うた一審も、同居の妻の責任を問うた二審の判決もおかしいと思っていたのでホッとひと安心。徘徊する可能性がある認知症の人を家に閉じ込めるか、外出を促すのかでは介護が真反対の方向性になるからです。もし最高裁の結論が一審、二審と同じであれば、在宅療養を早々に諦めて施設入所して外鍵で閉じ込めるという最悪のシナリオを懸念していました。「認知症の人を地域で見守る」という地域包括ケアや新オレンジプランの方向と矛盾した結論になるからです。その意味で今回の最高裁判決は、今後の認知症介護の大きな転換点になります。しかし同時に事故で損害を受けた側の補償や賠償責任はどうなるのか、という問題が露呈しました。そうした損害は社会が担保すべきであるとか認知症保険を充実すべきだ、という意見が出ています。また事故に遭う可能性がある認知症の人を守る社会をどう造るのかという議論も始まりました。要は、今回のJR東海の事例では急増する認知症社会を考慮して「家族に責任なし」としただけで、「認知症と損害責任」という大きなテーマへの取り組みは始まったばかりなのです。

 実は以前から提案しているのですが、介護保険制度に認知症保険という機能も持たせてはどうでしょうか。介護認定は保険料を払っているだけでは利用できず、7段階に分れた要介護の程度を認定してもらうことが必要です。自治体の調査員による認定調査と主治医の意見書の2点から認定審査会において総合的に判断しています。その認定費用は1件につき2万円もかかるそうです。私は7段階を松竹梅の3段階に簡素化して認定審査会を極力縮小すべきだと思います。そして介護認定の簡素化により削減できる財源を、今回のような事故の補償に充ててはどうでしょうか。認知症の人を取り巻く環境は地域によってさまざまです。鉄道や道路が多い地域もあれば、あまり無い地域もあります。そもそも介護保険は市町村単位なので、地域の実情に応じた補償体制を介護保険制度の枠内で構築することが充分できると考えます。

 認知症の人こそどんどん外に出るべきです。散歩して外食して旅行すべきである、と繰り返し書いてきました。ただし家族や地域の見守りが要ります。また散歩しても事故がおきにくい安全な町造りも課題です。さらに認知症の人がもし火の不始末を起こせば誰が責任を負うのか。こうした認知症の人を優しく包む地域づくりに必要なコストも介護認定の簡素化によりかなり捻出できるのではないか。介護認定審査会に出務する毎にそんなことを考えています。
 もちろん認知症の人はなにをしても構わないという話ではありません。さまざま事故が起きないように手を尽くしても起きてしまうのが認知症の抱える諸問題。しかし今回の判決をきっかけに大認知症時代における地域の見守りや町づくりの議論を深めたいものです。
 
 
キーワード 認知症事故訴訟
平成19年12月7日、愛知県大府市で徘徊症状のある要介護4の男性(当時91歳)が当時85歳の妻が目を離した隙に外出して電車にはねられて死亡した。22年JR東海は遺族に賠償を求めて提訴した。

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この記事へのコメント

大認知症時代って、ほんとにやってくるのでしょうか? 今の認知症は、多分に、いろんな薬の飲ませ過ぎが原因なのではありませんか? いろんな薬を飲まなくなれば、認知症患者は減少するのではありませんか? なんとかっていう胃腸薬も認知症発症に貢献してるって記事がありました。H1ブロッカーです。タケプロンもその一つらしいですよ。

Posted by 匿名 at 2016年03月10日 04:26 | 返信

あ 間違えました。
タケプロンの類はH1ブロッカーじゃなくて
H2ブロッカーです。胃酸調整によく使われるみたいです。

Posted by 匿名 at 2016年03月10日 04:44 | 返信

認知症事故は誰が負担する ・・・・・・・ を読んで


本年3月1日【火】の午後3時に言い渡された、
JR事故の最高裁判断をハラハラしながら待って、
下級審〔地裁&高裁〕の判断を覆し、『家族に賠
償責任なし!』の判決が出たことを、私も長尾
先生同様、ホッとすると共に大変に喜んでいます。

もし、『家族に賠償責任あり!』との判決が出たら、
日本国は認知症患者にとって、とても暮らし難い
国となり、日本国が“拘束・拘禁が当たり前”、
正に“収容所列島!”となる危険性を怖れていま
した。

同じ事故〔事象〕、同じ条件をいろいろな角度から
精査した結果、一審・二審・三審〔最高裁〕で異なる
判断が示されました。

私は、三審〔最高裁〕判決が『家族に賠償責任なし
!』であったことに、安堵と嬉しさを感じています
が、これで正義が実現した ・・・・・・ とは思っていません。
私は、一審判断も、二審の判断も、夫々に正しい判決
(判断)であったと思っています。
要は、それぞれの裁判所が何を一番重要視したか?
という違いに過ぎないと思っています。
一審〔地裁〕は、被害者の補償〔損害賠償〕に光を
当てて、そして今回の三審〔最高裁〕判決は、世の中
の混乱を最小限に留めたい ・・・・・ ということを重視し
た判断と思っています。
私は、今回の大府市での徘徊・JR事故に特化した議論
よりも、もう少し一般化した議論が必要ではないか?
と考えています。

日本は今、“高齢化社会”・“核家族化社会”・“格差
社会”そして、“下流老人多発社会”に入っている
と考えています。
そのような現状を踏まえて考えると、日本の社会・
一般の家庭は、“介護力”・“生活力”・“リスク回避
力”のいずれをとっても、従来〔30年~40年前〕
の大家族時代に較べて、格段に低下して来ていると
感じています。
そして、“老々介護”・“認々介護”が増えて来ている
現在、もし家族が同じような事故を起こした場合、
『家族に賠償責任あり!』の判決が出ても、どれだけ
の人が本当にその賠償金を支払える能力を持っている
のか? 疑問に思っています。
殆どのケースで、払いたくても払えない状況が出現する
のではないか? と感じています。
無理して支払った場合でも、後々生活が破綻することも
大いに考えられる状況と思います。
そのように考えてくると、賠償責任はともかく、賠償
能力がない人が引き起こした事件・事故の被害者をどの
ような形で救済するか? という問題に集約されて行く
ように私は考えています。
そこで参考となるのは、自動車を運転するときにお世話
になる“自賠責保険”ではないか? と思っています。
長尾先生は本ブログの中で、“地域の実情に応じた補償
体制(地域別)”を提唱されていますが、地域々々で状
況も負担能力〔経済力〕にも大きな差があると思います
ので、この社会に暮らす一人々々の応分の負担〔社会保
障・セーフティネット〕という意味で、全国一律〔均一〕
の負担が妥当なのではないか? と私は思っています。
どのような対策を考えても、全員が受け容れ、納得する
ものとはならないと思いますが、次のJR事故が発生す
る前に、早急に議論を深めて社会的合意〔コンセンサス〕
に達する必要があるのでは? と思っています。

Posted by 小林 文夫 at 2016年03月10日 07:19 | 返信

保険も考え物です。

賃貸マンションの家賃滞納に対応する保険が登場しましたが、滞納者が「保険で支払われるんだから、(今さら私が補填しなくても)いいでしょう?」と開き直るケースが、早速出始めました。保険がモラルを低下させる。モラル低下が社会崩壊を促進する。

「認知症患者だから事故・事件を起こしていい」という話に転じやすい危険があるのです。なかなか良いアイデアがありませんね。

Posted by 通行人 at 2016年03月12日 09:04 | 返信

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