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認知症とがんの合併

2016年04月08日(金)

認知症にがんが合併することは決して稀ではなく増えている。
しかしなんらかの症状が出た時にどうするのか。
産経新聞の認知症シリーズ第16話(最終回)は、これで書いた。→ こちら
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産経新聞認知症の基礎知識シリーズ・第16回(最終回)  放置か、治療か
                         認知症にがんが合併した時
 
 認知症でグループホームに入所している71歳の女性の便に血液が混じっていると介護職員から連絡がありました。食欲は旺盛で機嫌もいいので様子を見ようかとも思いましたが、一応、肛門から内視鏡を入れてみました。するとS状結腸に大きな大腸がんが見つかりました。CTを撮ると肝臓に大きな転移巣も見つかり、CEAという腫瘍マーカーが200と上がっていることよりステージⅣの大腸がんと診断しました。もしこの人が元気な71歳であれば大腸と肝臓を外科的に切除することがあり得ます。抗がん剤治療も加わり完治した症例も経験しています。しかしこの女性はひとりで歩けず車椅子生活である上に高度の認知症があります。おまけに身寄りがおらず財産管理を行う後見人が時々来るだけ。さて、たまたま血便で発見されたステージⅣの大腸がんを治療すべき?放置のほうがいい?そもそも誰がそれを決めるの?実は、こんな悩ましいケースが年々増えてきました。

 認知症にがんが合併することは決して稀ではありません。がんは日本人の2人に1人がなる国民病です。一方、認知症も近い将来、高齢者の4人に1人がなる国民病です。ですから両者が共存する確率は決して低くはないのです。両者の共通基盤として糖尿病が有名です。実際、この女性も長年、糖尿病を患われていました。グループホームという施設はワンユニット9人で共同生活する場ですが、その9人の中にはきっと他の人にもがんがあるはずです。しかしそもそも症状が出ない限り検査はしません。80代、90代の高齢の認知症の人では下手に(?)がんを見つけることがその人の幸せに繋がる、とは限らないからです。もし外科手術や抗がん剤治療をするとしても入院や治療に心身が耐えられるか。きっと無理でしょう。そもそも治療を前提とした諸検査にも耐えられないのではないか。

 このケースのもう一つの課題は、この一連の意思決定を誰がするかです。本人は自分の病状を理解できません。しかし家族はいませんし、後見人は財産管理だけで医療代理はできませんが、この世で唯一関わりの深い人なので丁寧に病状を説明しました。すると後見人は決定権が無いにも関わらず「手術や抗がん剤をして欲しい」と言い出されて、我々も困り果てました。そもそも医療とは意思決定支援の連続。しかし認知症の人の場合、いったい誰がそれを代理すればいいのかは、日本では明確な指針はまだこれからです。

 イギリスは、リビングウイル(LW)を持たない人の同様の事態を見越して2005年に法律を作りました。その人をよく知る人が集まりその人の最大利益(ベストインタレスト)とはなにかを話合った結論は法的にも有効である、としたのです。一方、日本ではLWさえ先進国で唯一、法的に認められていない国です。だから認知症が進み本人の意志が確認できない場合の意思決定をどうすべきか、という議論もまだ始ったばかりです。しかし認知症の人ががんを合併するケースは今後急増するので、国民的議論を始めるべきです。

 私自身は、長生きして認知症になりある日、黄疸が出て「末期の膵臓がんのようだが、認知症だから検査も治療もしない」と判断され、痛みを取る緩和医療だけはしっかり受けてこの世を去れたら最高です。意外にも認知症こそが“平穏死”が叶い易いのです。
 

キーワード 意志決定支援
医療には様々な選択肢があるので、家族は医師の説明をよく聞き納得のいくまで話し合ったうえで、後悔の無い意志決定を行うべきだ。一連のプロセスと自己決定を支援する体制づくりは国を挙げて進められている。

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この記事へのコメント

私の関わった方にも「認知症」とガンを併発された方が何人かいます。ご本人にいろいろな話を交えながら、最期の意思を確かめても本意がうかがえないときには、家族のみなさんに、私がこれまで関わり平穏に亡くなられた方の話を、参考までにお伝えします。
平穏死を選択された方は割合と多いです。その際、医療のことはあまり話題にならず、昔の死に方や石飛孝三さんのほんの「三宅島のはなし」で盛り上がります。理解されているかどうかは分かりませんが、本人を交えて表情をうかがいながらの話し合いです。

Posted by 平穏CM at 2016年04月10日 08:45 | 返信

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