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群馬大学事件は一人の外科医の暴走か?

2016年08月12日(金)

群馬大学病院での腹腔鏡手術事件は一人の外科医の暴走だったのか?
群馬大学は、当事者にすべての責任を負わせて、終わらせようとしている。
しかしそれで一連の事件の本当の解決となるのか、いささか疑問である。
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以下、MRICからの転載。
私は坂根先生の見解に全面的に賛同する。

リスクマネジメントの観点からは、今回の一人の外科医の処分は理解不能である。
責任ある立場の人が、自分の想いを自分の言葉で語る時ではないのか。



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 群馬大学腹腔鏡事件 ~郡大学長の無知が医療を滅ぼす~

坂根Mクリニック
坂根みち子
 
2016年8月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
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群馬大学は腹腔鏡手術を受けた患者の死亡数が多かった問題の報告書を2016年7月27日に公表し、29日付けで担当医を懲戒解雇処分、上司の教授を論旨解雇処分とした。
日本の医療安全は世界から大きく遅れていると言われているが、今回の郡大の対応を見ると少なくとも20年遅れているのは間違いない。
 
そもそも、今回の問題は、群大内部の医療安全管理部長のチェックが端緒となっている(報告書(1)P47、P24)。
であるならば、当事者の秘匿性と非懲罰性が原則である(2)。これは、今回の医療事故調査制度を構築する上でもさんざん言い尽くされている医療安全のための報告制度のイロハのイである。

ところが、群大では当初何故かまずマスコミに漏れた。最初からガバナンスがなっていなかった。そして当時の院長は事もあろうか、報告書すべてに医師個人の過失ありと勝手に加筆し、個人の責任追及を始めてしまった(3)。
今回、仕切り直しで「ブリストルに学ぶ」とする新しい報告書が出されたが、そこからは孤立無援で昼夜問わず激務に追われる担当医師の姿が浮かび上がる(報告書(1)P16~)。医療の質の問題はあるが、新しい技術を習得し、なんとか紹介患者の希望に添えるよう一生懸命であった事には間違いがない。問題の本質は、上手くなるまでに上級医のサポートがなかったこと、医療秘書によるカルテ記入や患者側への説明時のスタッフの同席などのサポート体制がなかったこと、死亡事例が出た時のピアレビューやM&Mカンファ等を開催する体制になっていなかったこと、担当医の過労死レベルの過重労働が放置された事など、大学側のガバナンスの欠如、システム不全である。そういった背景に触れる事なく、メディアスクラムにより、担当医は石持て追われ、家族共々自宅に住む事さえ叶わなくなり、群大とメディアは当事者の人権を大きく侵害した。
 
同様な事例が諸外国ではどう扱われたか引用する(4)。
1994年、癌治療で世界トップの米国ハーバード大学ダナファーバー癌センターでは、今回の国際医療研究センターの研修医と医師経験で同学年だったフェローが、治験プロトコルを読み間違えて4倍量の抗ガン剤を投与したため患者が死亡した事故があった。事故後、フェローと薬剤師は業務停止になったが、刑事事件にはされていない。その上で「この事故は現場医師本人の問題というよりは、これを防ぐリスクマネジメント構築を怠った上部の責任である。」と判断された。診療部長は、「研究報告や病院管理職や学会要職を兼任して多忙を理由に臨床診療の部長として安全管理に注意を払わず、現場の医療の充実を怠った」とされ、所長や薬剤部長が病院の評議員とともに解任された。そこから、同癌センターのリスクマネジメントの再構築が本格的に開始され、現在では医療安全学でもトップとなったのである。

また、1995年、英国ブリストル王立病院(国営医療サービス運営の9病院のひとつ)では、数年間で複雑心奇形手術で53人中29人が過剰死亡し、英国最上級(日本の大学教授、小児病院診療部長)にあたるコンサルタント外科医2人は手術を禁止され、院長は「管理責任を果たしていなかったことに該当する」と評価され外科医1人とともに医師登録を抹消された。しかし、政府発表の500ページ以上の最終報告でもダナファーバー癌センターの教訓同様、「個人を非難すべきではなく、システムの問題である。」としている。当然、刑事事件になっていない。そして、現在ではブリストル王立病院の医療レベル、医療安全体制も他の8病院に引けを取らないものになっている。
 
今回は「ブリストルに学ぶ」報告書だったはず。だが、群大はブリストルに学ぶことなく、担当医師個人を処罰した。
筆者が日本の医療安全は20年遅れているのは間違いないという理由がお分かりであろう。
確かに今回の群大報告書は、個人の問題ではなく組織の問題であると正しく指摘した。ところが、再発防止のためには個人の責任追及ではなくシステムの改善が必要であるという報告書を作らせておきながら、群大は個人を処罰したのである。歴史の残る悪しき前例を作った。
群大学長の平塚氏が言った担当医師の懲戒解雇理由は以下のようなものであった。

1.診療録の記載が不十分
2.術後の患者への説明が不十分
3.腹腔鏡手術の導入、導入後の対応が不十分
4.腹腔鏡下肝切除術の学術論文に不適切な記載
5.大学の名誉、信用を失墜させた
6.死亡事例が続いた際に、医師として適切な対応を取れなかった
 
担当医師個人を処罰した理由として上記をあげた学長は、自らの無知をさらけ出したに等しい。医療安全を少しでもかじった事がある者なら、「助教」の立場で、該当科の唯一の術者として科を背負わされていた担当医師の個人の責任より、システム(組織)としての問題が大きいことがわかるはずだ。また今の医療現場を熟知していれば、土日関係なく日々深夜まで働き、休みもなく、家庭を顧みる暇もなかったであろう担当医師が状況は容易に想像がつく。

学長が医療安全についての基礎知識を持ち合わせていないならば、報告書を作った委員達には、個人の処罰をしてはいけない旨、進言する義務があったはずである。そうでなければ、聞き取り調査した当事者への背信行為である。紛争に使われるのなら、当事者には黙秘権があり、自分に不利になる事は話さなくてよいという憲法で保障された権利を伝えなくてはいけない。
 
遺族側も望んでいるのは再発防止だときく。遺族の思いを聞き、謝罪し、再発防止のためにシステムの再構築に着手したのなら、後は遺族に対して必要ならば民事での補償ということになる。

当然、遺族側の弁護士は刑事罰の準備を進めてはいけない。弁護士はこの報告書を読んだのだろうか。それを読んでも尚、担当医師は故意に人を殺めた犯罪者と同罪と思われるのだろうか。

院内の医療安全のための情報をもとに処罰された上に刑事罰を加える事は、担当医師の人権侵害であり、こんなことが起きれば、今後医療事故が起きたときに当事者は正直に話さなくなり、医療安全は進まなくなる。リスクを冒して医療を行おうとする意識を持ちづらくなり医療は停滞する。今回の事例に刑事罰を科す事への正義はない。
 
もう一度言う。群馬大学が担当の医師を処罰したのは誤りである。誤りを認めて撤回すべきである。また遺族側弁護士は担当医師を刑事告発してはいけない。法曹界は日本の医療がおかれている過重労働の現状と医療の複雑性などの背景要因、そして世界の医療安全の流れをもっと学んで欲しい。メディアもセンセーショナルな取り上げ方をして当事者を吊るし上げるのではなく、日本が世界の医療安全から20年遅れていると言われる所以をきちんと報道していただきたい。
 
(1)報告書 群馬大学HP http://www.gunma-u.ac.jp/wp-content/uploads/2015/08/H280730jikocho-saishu-a.pdf
(2)厚労省 医療事故調査制度に関するQ&A http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061209.html
(3)坂根みち子 MRIC Vol.061 群馬大学腹腔鏡事件の報告書は小学生レベル http://medg.jp/mt/?p=3305
(4)佐藤一樹 MRIC Vol.202 国立国際医療研究センター病院は特定機能病院を返上し院長・名誉院長は辞任せよ http://medg.jp/mt/?p=6173

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この記事へのコメント

そう
おもい ました。
よく 分からない
確かに、
ある特定

医師

浮上
時代との
こと
、、、?
うーん

が、しょうじきな 感想。

事件も 厚い が、しっかり気温 暑い
わが豊中は、 日本いち
おぎようこ
おこらんど
墨あそび詩あそび土あそび

Posted by おこ at 2016年08月12日 08:43 | 返信

御遺族のお気持ちを思うと、言葉がありません。けれど、MRIC に寄稿なさる女医さんの論理は
実に明解で、理解し易い内容だと思います。大学病院内の医療者もサラリーマンで、お気の毒という
気持ちになります。参考にすべきは、諸外国の事例の中で、
>リスクマネジメントの再構築が本格的に開始され、現在では医療安全学でもトップとなったのである、
という部分。失敗を礎として、新たな決意を持って再出発して頂くことが、供養に繋がると思います。

Posted by もも at 2016年08月13日 12:51 | 返信

お医者様はそれぞれに信念を持って医療に取り組んでいらっしゃるのだと思います。
目の前の切羽詰まった状況に置かれている患者、次から次からくる新患、高齢による複合的な疾患を抱えた患者の増大とその家族の期待、研究や論文の作成、新しい論文に目を通したり勉強したり、大学の助成金に関わる諸問題、後進の指導、自分の昇進の問題・・・・その割に給料は少ない・・・・ということで、国立大学の勤務医の皆さんの激務と抱える諸問題の増大は想像に余りあります。
亡くなった方は、その手術をするということは、もう病状も非常に進行していて、イチかバチか、という状況だったのではないかな、とも思うのですがいかがなのでしょう。肝臓は血管だらけなのにチャレンジャーだったのでしょうか。

Posted by 匿名希望 at 2016年08月13日 10:29 | 返信

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