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韓国でもリビングウイルを法的担保

2016年08月16日(火)

2000年の台湾に次いで韓国でも今年2月にリビングウイルの
法的担保がなされたのだが、日本ではあまり報道されていない。
このあたりの事情を日本医事新報の連載に書かせて頂いた。→こちら
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日本医事新法8月号  台湾に続き韓国もリビングウイルを法的担保   長尾和宏
 

韓国でもリビングウイル法制定

 欧米では当たり前であるリビングイル(LW)は、アジアにおいては2つの国で法的担保されている。台湾においては2000年に法的担保がなされた(台湾LW法)。現在の台湾LW法はそう単純なものではなく、いくつかの場面を想定してそれぞれの書式が用意されている。また家族や友人などの同意を添えた事前指示書の形態を取っている。さらに特徴的だと思うのは、末期がんで入院してからでもLWを表明できる点や、本人の意思が不明であっても家族の同意だけでも治療の中止が可能としている点などだ。そこに至った経緯や現状については本誌連載第40回(2014年7月5日号p16~17)で詳しく述べた。今回、韓国においても2016年2月に延命措置の差し控え・中止を認める法律(以下韓国LW法)が制定、公布されたのでその経緯や現状について紹介したい。

 朝鮮日報は韓国政府で成立したホスピス延命医療法を「尊厳ある死、患者が選択 2018年施行」と報じた。一方、日本では京都新聞が「無意味な延命治療、中断可能 尊厳死法で許容」と報じた。私はこの見出しはいささか違和感がある。我が国では「無意味な」とか「尊厳死法」という既に使われないはずの言葉をまだ使っているからだ。しかし韓国の動向を報じたメデイアがあったことは評価したい。

 韓国においてリビングウイルは「事前延命医療意向書」と呼ばれ、この文書の作成・登録の方法が法律で定められた。19歳以上のものは延命治療の差し控え・中止とホスピス緩和医療を受ける意思を表明することができるとした。韓国保健福祉省が定めたLWは、同省が指定する登録機関が受け付け、登録・保管されている。そのデータは上部組織である「国立延命医療管理組織」に集約され各病院からの照会に利用される。いまだLWを表明していない患者が深刻な病態に陥った場合にも、台湾LW法と同様に延命医療計画書を作成する機会を設けることを定めている。
 

対象疾患・医療行為と具体的手順
 
 韓国LW法の対象疾患はがんだけでなく慢性閉塞性肺疾患や肝硬変にも広げられた。また対象となる延命治療は心肺蘇生術、血液透析、抗がん剤投与、人工呼吸器とし、人工栄養と酸素吸入は除外された。人工栄養の除外には医療界が反対した。しかし社会的影響力が大きいカトリック教会が「人工栄養の中止は餓死させることで生命軽視につながる」という主張に押し切られた形に落ち着いた。

 延命医療計画書は担当医と専門医の計2人の医師が「死期が数ケ月に迫っている末期患者」と診断した場合に、患者は医師にその作成を要請できる。しかし実際に延命治療の中止・差し控えが可能とする時期とは、単に「末期」ではなく「症状が急激に悪化し死が差し迫った臨終過程にある状態(数週間)」として別に設定して、その段階に至らなければ認めないとしている。医師は患者に病状や延命治療の中止などについて説明し、そのうえで合意された医療計画書に医師と患者が署名をする。そして韓国ではまだ十分とはいえないホスピス緩和医療をしっかり提供されることも書類に謳われている。つまり韓国LW法は、いわゆる尊厳死法とホスピス法の両要素を含む内容となっている。これはホスピスケア無しに延命治療中止を認めることに強く反対するカトリック協会の主張に配慮した結果である。ちなみに韓国では10月の第二土曜日を「ホスピスの日」と定め緩和ケアに力を入れている。
 
 
本人意思の推定と家族の判断・権限

 本人意思の確認にはLWと延命医療計画書のほかにも2つの方法がある。患者が意思表示できない場合は「家族2人以上の一致した陳述」があればそれを患者の意思とみなすことにした。つまり「普段から延命治療を希望しない」と家族が証言すれば有効とした。さらに本人意思が不明でかつ普段の意思も不明な場合は「家族全員の合意」があれば有効とした。ここでいう家族の定義とは、配偶者、子や孫などの直系卑属、親(直系尊属)で、いずれもいない場合は兄弟姉妹とした。

 立法化の大きなきっかけとなったのは「セブランス病院事件」と呼ばれる医療裁判であった。同病院に入院した「キムおばあさん」が持続的植物状態に陥り、その家族は「おばあさんは常々延命治療はいやと言っていた」ので医師に人工呼吸器を外すよう求めたが、同意を得られず裁判に訴えた事件だった。これが全国的な議論に発展し、2009年に最高裁で呼吸器の取り外しを認める「尊厳死判決」が確定し、LWの法的担保が政府の重要課題となった。もしこの事件がなければ今回の立法はなかっただろうと言われている。

 しかし今回施行された法律に従えば「キムおばあさんの人工呼吸器を外すこと」ができないという。なぜならば持続的植物状態だけでは、法律に謳われている「病状が急激に悪化し、死が差し迫った状態」という中止要件を満たさないからだ。医療界は今回の立法の意義を認める一方、厳しすぎる要件に対して「残念な点もある」との声もあがっている。
 
 

台湾と韓国の法的担保から日本を考える

 台湾LW法の成立は趙可式氏という台南市にある成功大学病院で働く一人の看護師の20年にもわたる地道な活動が実を結び、2000年にLWの法的担保がなされた。彼女が台湾の国会議員一人ひとりを説得するために使った“道具”とは、なんと1本の日本映画だった。故・伊丹十三監督による「大病人」(1993年)という映画だ。これは趙可式氏が一昨年に来日した際や成功大学病院でも安寧医療法の成立過程を筆者は直接見聞きした。この法律の現在の特徴は、代理人を本人が指名できる点や家族の意思が大きい点である。2000年の制定以降、2回の法改正を経て施行されているが、彼女は「最初の法律は30点だったが15年経過してようやく60点になり合格点に近づいてきた」と語っていた。

 韓国では日ごろから口頭でLWを表明していたある高齢者の家族による人工呼吸器外し希望がLW法成立のきかっけになった。台湾も韓国もLWの法的担保のきかっけは、現場のひとりの人間の素朴な願いと地道な活動であった。一方、日本においては現在LWの法的担保はなされていない。約200人の超党派の国会議員による12年にわたる活動の結果、「終末期の医療における本人意思の尊重に関する法律案(仮)」 なるものが作成されているが国会上程には至っていない。日本医師会、法曹界、宗教界、障害者団体などが強く反対し実質的な議論は12年間経過した現在も滞ったままである。

一般財団法人・日本尊厳死協会は約12万人の会員を擁するLWの普及啓発と管理を行う人権団体である。同協会ではLWを表明して亡くなられたご遺族にアンケート調査を毎年続けている。「LWが活かされた」と回答した遺族が大半ではあるが、毎年10数人は「LWが活かされなかった」と答えている。政策研究大学院大学(東京)で開催される日本LW研究会では「活かされなかったLW」の理由を検討してきた。「医師がLWを知らなかった、理解してもらえなかった」という理由が毎年何件か見受けられる。たしかに我が国ではLWに関する卒然教育も卒後教育も皆無と言っていい。LWという言葉すら知らない医師も終末期医療や看取りに従事しているのが現実だ。そんな状況を憂いてか日本医師会の横倉会長は三選されるやいなや終末期医療の啓発に強い意欲を表明した。

LWや尊厳死というと欧米などどこか遠い国の出来事だと思う人もいる。しかし台湾や韓国というまさに隣国においても苦悩しながらも「終末期医療」という文明が必然的に孕む課題に立ち向かい、整理されつつある。最初は30点でも決して目を背けないことが大切、と趙可式氏は語っているが残念ながらマスメデイアにおいてもほとんど報道されない。以上、同じアジア諸国のLWの法的担保までの経緯は日本の参考になるのではないかと考え、紹介させて頂いた。

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この記事へのコメント

何十年も前の話ですが、可愛い韓国人の女の子と友達になりました。
人なつこい彼女の笑顔は、今でも思い浮かびます。
明るく社交的ですが、古くからのしきたりなど、家庭の教えに忠実で、
芯の部分は、どちらかと言えば厳格なタイプだったと印象に残っています。
キリスト教徒でした。韓国人の多くはキリスト教信仰と聞きました。
家族の絆・まとまりが強く、家庭的であり、それが揺るぎない基盤のようでした。
終末期・リビングウィル・緩和・ホスピスetc.の単語を思う時に、元々の
生きる・生活の基盤が、しっかりしているお国柄と似合う、自然な成り行き
という印象を受けました。

Posted by もも at 2016年08月16日 10:07 | 返信

リビングウィル
なるべく 多くの
地球市民

この内容

知り、同意 また
不同意
表明の 機会が、
チャンス
増えた 方が、
いいですね(^o^)
おぎようこ(^o^)
おこらんど(^o^)
(^o^) 墨あそび詩あそび土あそび

(^o^)

Posted by おこ at 2016年08月17日 09:36 | 返信

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