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末期がん患者さんの国内旅行
2016年09月20日(火)
仙台在住の男性(62歳)からの質問です。
【質問】
父(88歳)が食道がんの宣告を受け、余命半年と診断されてから約1年が経過しました。
抗がん剤(1週間投与)を月1回行っていましたが、口から食事をとることがままならなくなりました。病院の主治医の先生から胃ろうを勧められましたが、父の意志もあり、家族で相談の上無理矢理栄養を注入して延命するのではなく、口から食べられる分だけを食べさせて、食べられなくなったら自然に看取ってあげようと決めました。父と最後に思い出旅行をしたいと考え、マイクロバスを借り一泊の予定で父と母二人の思い出の場所である秋田県大館市に家族旅行を予定をしていたのですが、主治医に相談したところ「止めたほうがよいでしょう。行っても責任は持てません」と言われてしまいました。意識もまだしっかりしてますし、今のところ元気な様子なのですが、やはり旅行するのは難しいのでしょうか?何かアドバイスがございましたら、よろしくお願い致します。
【回答】
末期食道がんへの胃ろうとは?
88歳の食道がんで余命半年と宣言されてから約1年が経過したということ自体、良好な経過だと思います。抗がん剤が延命に寄与したのかどうかは分かりませんが、少なくとも悪さはあまりしていないように見受けました。口から食事が摂れなくなってきているとのことですが、いつまで抗がん剤治療を続けるのかが気になりました。普通に考えれば、食べられなくなれば抗がん剤は中止しますが、若い人では胃ろう栄養を行いながらその管から抗がん剤治療を継続することがあります。
主治医が勧めた胃ろうは、よく議論の対象になっている老衰時の胃ろうとは多少意味が違うかもしれません。全身状態が良好で、食道や胃の局所だけが病変で閉塞していて栄養状態さえ改善できるがん患者さんは3ケ月程度以上の生存が期待できる時、胃ろうが適応となる場合があります。さらに胃ろう造設が技術的に造設できない場合は、小腸ろうを造りそこから栄養補給を行う場合もあります。それで栄養状態が改善すればがん治療を継続できるという場合も稀ではありますがあることは知っておいてください。胃ろう=悪、という印象が世間では一般的なようですが、がんによる局所閉塞の場合は、期待できる予後やQOL(生活の質)を勘案したうえで胃ろうの適応が判断されます。しかしお父さんの場合は、年齢や余命宣告からも胃ろうをしないという選択を自己決定されているので、主治医も賛成しているのであれば、家族としては応援してあげるべきでしょう。
末期がん患者さんには国内旅行
さて旅行の件ですが、これもお父さんの意思を優先してもいいのではないでしょうか。まずまず安定した病状にあるお父さん自身が旅行を希望した場合、もし私自身が主治医であれば自分の携帯電話番号を教えたうえで、「どうぞ行ってください!」と喜んで行かせています。しかし行き先がハワイなど海外であれば「遠いのでやめておきましょう」と言うでしょう。もし急変した時に国内なら国民皆保険制度があるためどの医療機関でも一定水準以上の医療を受けることができますが、海外ではそうはいきません。万一、死亡した時には遺体の持ち帰り自体も大変なことになります。そうした意味で「責任が持てない」からです。しかし主治医は、なんとなく万一のことを心配してそう言われたのだと想像しますが、仙台と秋田であれば車で3時間程度の距離でしょうか。万一、病状が悪化しても充分移動できる距離ですし、仮に急変した場合でもワンボックスカーに寝かせて連れて帰って来て頂ければ問題ないはずです。飛行機を使う国内旅行も、医療レベルが地方都市でもレベルが変わらないので終末期の旅行はむしろ積極的に勧めています。
実は、海外旅行は勧めない、と書きましたが、本人と家族の強い意思でお父さんと同じような状態の人が海外旅行に行かれたことが過去に2回ほど経験しました。一人は韓国で一人はヨーロッパへの旅行でした。何も起こらないどころか、元気になって帰って来られました。昔なので口約束だけでしたが、現在なら一筆書いていただくかも知れません。
もし反対している主治医を説き伏せようと思うのであれば、「何かあっても一切自己責任で主治医を訴えたりしません」という旨を一筆書いて、再度相談してみてはどうでしょうか。おそらく「それならばOK」となるのではないでしょうか。医師が「責任が持てない」と言うのは裏を返せば「訴えられたら負けるかも」と考えているからです。従って家族にそうした意図が毛頭ないことを書面で示してみせると、最期の旅行が叶うのではないでしょうか。国内旅行であれば、同様なことはこれまで何度もありましたがトラブルは一切ありませんでした。むしろ行く前より元気になって帰国されました。そして思い出旅行は家族の脳裏にずっと残ります。思いが叶うのですからお亡くなりになった後の悲嘆も少なく、我々が行っている遺族のグリーフケアの需要も低くなります。いいことだらけです。
伊丹仁朗医師の「生きがい療法」
末期がんの人たちを連れてモンブラン登山などに同行されている岡山の伊丹仁朗医師を御存知でしょうか。伊丹医師と末期がんの人との活動は「生きがい療法」と呼ばれ、延命効果が認められています。ですから近隣へのショートトリップなどは問題ないと私は思います。伊丹医師は精神腫瘍学の立場から生きがい療法の研究もされており、旅行や笑いが免疫能を高めることを広く発信されています。「生きがい療法」をネットで検索してみてください。伊丹医師の活動には私自身も学び、励まされてきました。
私はNPO法人「つどい場さくらちゃん」が主催する認知症の人との旅行に同行参加しています。要介護5の人たちとともに沖縄や台湾に2泊3日の旅行をします。今秋も台湾旅行に同行する予定ですが、台湾の刺激で認知症の人たちは驚くほど元気で明るくなるのです。外国なので万一の時のために医師が同行したほうがいいと思い協力しています。このように実は生きがい療法はがんのみならず、認知症の人にもとても意義があるようです。是非、旅行というささやかな生きがいを優先してください。決して後悔はしないと思います。
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